第40話:タナカの最後の切り札—究極の「交換品」の創造
タナカは、絶望の淵から這い上がり、創造魔法の力を振り絞っていた。
目前には、硬質チョコレートを飲み込み、苦痛と忠誠心で顔を歪めるロイド。隣には、「食の正義」を汚された怒りで、能力を暴走させようとするチー牛。そして、遠くには、この異様な光景に困惑しつつも、再び攻撃態勢に入るユグラシアの戦車師団。
(もう、甘いもので心を溶かすだけではダメだ。兵器を食わせてもダメ。必要なのは、**誰もが欲しがる、そして誰もが平和的交渉をせざるを得ない『究極の交換品』**だ!)
タナカの頭に浮かんだのは、前世で最も価値があり、多くの人がそれを求めていたものの記憶。そして、この異世界で兵士たちが最も渇望しているもの。
【タナカの最終結論:究極の交換品】
価値:前世で最高峰とされた、誰もが魅了される美術品レベルの美しさ。
効能:この異世界で命の次に重要な、確実な栄養と健康をもたらすもの。
タナカは、創造魔法を発動させた。彼の能力の源泉である**「食べた記憶」と、幼少期に見た「博物館の展示物」**のイメージを融合させる。
誰もが欲する「平和の至宝」
タナカの創造魔法で生み出されたのは、直径約30センチの、完全な球体だった。
その表面は、最高級の金色のキャラメルでコーティングされ、その下には、繊細なマシュマロとココアの模様が、宝石のように複雑に刻み込まれている。まるで、失われた古代文明の至宝のような、圧倒的な美しさを放っていた。
そして、その中身。タナカが前世で最も健康に良いと信じていた**『完全栄養食(グラノーラやプロテインの成分)』と、この異世界で不足している『新鮮な果物と野菜の組成』**が、圧縮され、完璧なバランスで封入されている。
**『万能栄養スフィア(アブソルート・ニュートリエント)』**の誕生である。
タナカは、それを掲げ、全身の魔力を込めて、周囲にその存在を誇示した。
「ロイド!この球体をユグラシア総統に届けろ!そして、こう伝えろ!」
タナカは、絶望の魔力で思考が鈍っているにもかかわらず、その声には、かつてないほどの確信が込められていた。
「このスフィアは、**『永久的な休戦と、二国間の完全な資源交換』と引き換えに提供される『最終的な交換品』**であると!この一つで、一軍の栄養が、一ヶ月間完全に賄える。戦場での命を懸けた戦闘よりも、遥かに価値のあるものだ!」
チー牛の変節とユグラシアの反応
チー牛は、横でその球体を見て、目を輝かせた。
「な、なんだあの球体は!?めちゃくちゃバランスが取れてる!栄養素、食感、見た目、全てが完璧な**『理想のエネルギーボール』じゃないか!最高の牛丼には遠いけど、これはこれで別の正義**がある!」
チー牛の「食の正義」の怒りは、**「バランスの取れた究極の栄養食」**の美しさによって、尊敬の念へと昇華された。
「タナカ!あんた、やるじゃん!その球体、俺が鑑定してやる!」
チー牛は、自らの能力を使い、球体の成分を解析し始めた。
一方、ユグラシアの戦車師団は、タナカの掲げる光り輝く球体と、ロイドが硬い装甲を噛み砕くという超常現象に混乱していたが、タナカの「究極の栄養」というメッセージは、飢餓に苦しむ彼らの心を直接突き刺した。
ユグラシアの戦車は、攻撃を停止した。彼らが欲しているのは、**戦勝でも、領土でもない。目の前にある、「飢餓を完全に終わらせる究極の食料」**だった。
元老ナチョスと星輪の「欲望と絶望」の戦略は、タナカの**「完璧な充足」**という、究極のアンチテーゼによって、ついに停止させられた。




