第4話:潜入!ボロボロ軍服とコンビニTシャツの戦場偵察
ロイドを見送ったタナカは、村の裏手の森へ急いだ。
「ライト・ディフェンス。半日か。十分すぎる」
タナカの目的は、ロイドが信じ込んでいる「味方士気向上」ではない。ロイドが補給路にマシュマロとココアをばら撒くことで、王国内部で混乱と情報操作が起きている隙に、タナカ自身が最前線の現状を確認することだ。
(ロイドは真面目だから、マシュマロとココアは律儀に国王軍の補給路に届けるだろう。だが、あの食料不足の状況だ。兵士たちは王国のための補給だと信じつつ、あっという間に食い尽くす。そして、その『謎の甘い補給品』の報告は、間違いなく上層部で捏造される。その間に、俺は動く)
タナカは、ボロボロの軍服と、その胸元から覗くコンビニTシャツという姿のまま、戦場へと続く山道を進んだ。彼の頭の中には、あのR国での地獄の記憶が鮮明に残っている。
(もう二度と、あの場所には戻らない。だが、あの場所を知っているからこそ、俺は平和を作れる)
戦場への道
山を越え、数時間歩くと、タナカの鼻に泥と硝煙の、おぞましい匂いが届いた。同時に、遠くで響く砲撃音と、時折聞こえる銃声。
(間違いない。ここは前世で俺がいた場所と同じ、国境紛争地帯だ)
タナカは身を低くし、森の中を進む。頭の中の異世界知識(創造魔法とアースガルドの地理)が、彼の安全なルートを常に示してくれる。
しばらく進むと、開けた丘の上から、両軍の戦線が見下ろせる場所に着いた。
レドニア王国軍とユグラシア連邦軍。 この世界のR国とU国は、タナカが死んだ世界と同じように、古びた装備と塹壕戦を主軸に戦っていた。レドニア兵はタナカが着ているようなボロボロの軍服、ユグラシア兵は少し質の良い、青みがかった軍服を着ている。
双方が掘った塹壕は、泥水に満ち、有刺鉄線が張り巡らされている。数週間前に戦闘があったのだろう、手入れされていない遺体が転がっていた。
「くそっ……」
タナカは、あの時の恐怖が蘇り、思わず息をのんだ。あの時、俺はここにいた。言葉もわからず、死ぬことだけを待っていた。
しかし、今は違う。
タナカは双眼鏡(これも創造魔法で作り出した)を取り出し、両軍の様子を詳細に観察した。
【タナカの戦場観察】
レドニア王国軍(タナカがいた国):兵士の顔は疲労困憊。食料は粗末な乾パンと、煮えたかどうかもわからないスープだけ。時折、怒鳴り声が聞こえるが、士気は最低だ。
ユグラシア連邦軍(敵国):レドニアより装備は良いが、士気は低い。皆、寒いのか、火を囲んでひそひそ話している。顔には、やはり飢えと戦争への嫌気が見えた。
(完璧だ。両軍とも、戦争を続ける理由がなくなっている。必要なのは、**「戦場から逃げ出すための大義名分」と、「戦争を嫌う感情の共通認識」**だ)
タナカは創造魔法で小型の録音機(これまた現代日本の技術を再現したもの)を作り出した。
「よし。次は情報収集だ。敵兵が何を不満に思っているか、何を望んでいるか、この耳で聞く」
シールド魔法が切れる前に戻る必要がある。タナカは、あの時と同じ、泥と硝煙の匂いの中へ、今度は自らの意思で、潜入していった。その姿は、ボロボロの軍服を着た、不審な異邦人。だが、彼は今、世界を変えるための第一歩を踏み出したのだ。




