第39話:チョコレートの秘匿と、ロイドの忠誠の暴走
タナカとチー牛は、元老星輪の**『絶望の星』**の魔力によって、戦意どころか生きる意欲すら奪われ、泥の上で崩れ落ちていた。ユグラシアの戦車が、満腹兵器と二人の異邦人に向け、猛然と迫っている。
タナカ:「ロイド……!あのチョコレートを、食べてくれ……!」
タナカの絞り出すような声が、遠くに待機していたロイド=ブレイブハートに届いた。ロイドは、タナカの指示を聞き、その場で硬直した。
(ロイド内心の解釈):チョコレート?タナカ様は、**『敵の目前で、新型装甲技術の証拠を隠滅せよ』と命じられた!以前の飴細工の鎧で、私は証拠隠滅の使命を果たした!今、タナカ様が「食べてくれ」と命じたチョコレートは、間違いなく『対戦車用の超硬装甲部品』**に違いない!
ロイドは、タナカの命を「国家機密の保全」だと解釈し、全身の血が沸騰するのを感じた。
「ははあ!承知いたしました!タナカ様!このロイド、国家の秘密、必ずや腹の底に秘匿してまいります!」
最後の隠蔽作戦
ロイドは、迷うことなく愛馬を走らせ、戦車が迫る最前線へと突撃した。彼の騎士の誇りは、今や「国家の秘密を守り、食べる」という奇妙な使命に集約されていた。
ユグラシアの先頭戦車が、タナカの足元に転がっている**『溶けないチョコレートの試作品』**に砲身を向けた、まさにその瞬間。
ドォン!
ロイドは馬から飛び降り、チョコレートの塊を、持っていた剣で砕くのではなく、両手で掴み、口いっぱいに押し込んだ。
「**ゴリッ!ゴリゴリ!**うぐっ!」
そのチョコレートは、タナカが「完璧な耐熱性と耐久性」を求めて創造魔法で作った超硬質サンプルだったため、ロイドの歯では砕ききれない。ロイドは、必死に頬張るが、その顔は苦痛に歪んでいる。
ユグラシア兵A(戦車内):「な、なんだあいつは!?敵の兵士が、新型装甲を食い始めたぞ!?」 ユグラシア兵B:「あの硬い装甲を噛み砕いているだと!?レドニアの兵士は、狂人なのか!」
ロイドの超人的な隠蔽行動は、ユグラシア軍の総攻撃を再び一時停止させた。彼らは、敵が**「超硬質の装甲を食べる」**という、人類の常識を逸脱した行動に出たことに、戦慄した。
異邦人の混乱と騎士の覚悟
タナカは、絶望の魔力で思考が鈍る中、ロイドの行動を目撃した。
(タナカ内心):ロイド!馬鹿!硬いチョコレートを!顎が外れるぞ!あれはただの失敗作だ!俺の過去の失敗まで、こいつは命懸けで回収しているのか!
ロイドは、チョコレートを飲み込むのに成功すると、満腹兵器の残骸の上に座り込み、まだ意識が朦朧としているタナカに顔を向けた。
「タナカ様!秘匿完了いたしました!超硬質の装甲、私の胃袋の中に厳重に封印いたしました!しかし、硬すぎて、胃が爆発しそうです!」
ロイドの顔色は悪く、超硬質なチョコレートの破片が彼の喉に刺さっているのか、苦しそうに咳き込んでいる。
チー牛は、横でその光景を見て、ようやく絶望の魔力から少しだけ意識を取り戻した。
「え、なに?あの人、**硬いチョコ食べてるの?**何で?チョコは口の中でトロけるのが正義なのに……あの人の味覚は間違ってる!」
チー牛の**「食の正義」への怒りが、絶望の魔力を打ち破り始めた。チー牛の意識は、タナカの安易な平和戦略への怒りから、「間違った食の文化」**への怒りへとシフトした。
タナカは、ロイドの忠誠とチー牛の怒りという、二つの強力な感情が、今まさに最悪の状況で融合しようとしているのを察知した。
(このままでは、ロイドの腹が破裂するか、チー牛が**『間違った食の文化』**を正すために、ユグラシアとレドニアの両軍を相手に暴れ始める!)
タナカは、再び創造魔法のイメージを頭の中で構築し始めた。今度こそ、誰もが納得し、誰もが欲しがるもの。平和へと導く、最終的なアイテムだ。




