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第36話:異邦人、激突—牛丼特盛りの上で

タナカは物陰から、目の前で生成したばかりのチーズ牛丼特盛りを泥の上で貪る、もう一人の異邦人、チーチートウの姿を見ていた。


(チー牛。能力は**『創作再現』。俺の『創造魔法』と酷似しているが、再現の精度が『彼の主観』**に左右される……。そして、俺の満腹兵器の上に座り込んで、他の牛丼を食ってるだと?)


タナカは、自身の**「平和への最後の賭け」**の上に、何の気なしに座り込むチー牛の姿に、静かな怒りを感じた。この男の存在は、タナカの複雑な戦略を瞬時に崩壊させる可能性がある。


タナカは意を決し、物陰から姿を現した。ボロボロの軍服とコンビニTシャツという、こちらも異世界では極めて異質な姿だ。


「おい、あんた」タナカは日本語で呼びかけた。


チー牛は、牛丼を口いっぱいに頬張ったまま、タナカを見て目を丸くした。


「は?日本語?あんたもしかして……**転生者?**え、てかその格好、なんで軍服?コスプレ?」


チー牛は牛丼を飲み込み、黒縁メガネの奥でタナカを値踏みした。


「俺はチートウ。チー牛って呼んでくれていいけど。創作再現能力持ち。あんたもなんかヤバい能力持ち?」


タナカは、チー牛の安易な自己紹介と、状況を全く理解していない能天気な態度に苛立ちを覚えた。


「俺はタナカだ。そして、ここはあんたの遊び場じゃない。この戦場は、あんたの能力のせいで、今、究極の均衡状態にあるんだ」


タナカは、地面に放置されたナチョスの**『飢餓誘発チップス』**と、満腹兵器の周囲で眠りこける両軍の兵士たちを指さした。


「この牛丼の塊は、俺が戦争を終わらせるために作った**『最終兵器』だ。あんたの『創作再現』**で、この均衡を破るようなことはするな」


チー牛の「安易な欲望」

チー牛は、タナカの真剣な言葉にも関わらず、まるで映画のストーリーを聞いているかのような反応を示した。


「え、マジ?戦争?へぇー、すげー。てか、あんたが作ったの?このデカいチーズ牛丼の塊。それ、食えるの?」


チー牛の興味は、タナカの戦略や戦争ではなく、満腹兵器の**「食料としての価値」**に集中していた。彼は手を伸ばし、満腹兵器の一部をちぎろうとする。


「待て!それは、食うためのものじゃない!」タナカは制止した。


「えー、だって、これ牛丼っしょ?米と肉は人類の平和の基本だろ。食わないとかありえないって。てか、これ匂い嗅いだらわかる。具材が偏りすぎてて、最高のチー牛にはなってない。俺ならもっとバランスよく再現できる」


チー牛は、自分の能力の**「偏見による再現」が、タナカの兵器の「純粋な組成」**を上回ると豪語した。


タナカは、チー牛の安易な欲望が、満腹兵器の持つ**「眠りと安穏」**の力を打ち消す可能性に気づき、最悪の危機感を覚えた。


「よせ!今、この兵器の成分をいじることは、両軍の兵士の安寧を破壊することになるんだ!」


「うるさいな。最高の牛丼を追求するのに、他人の安寧とかどうでもいいって」


チー牛は、タナカの制止を無視し、満腹兵器の上に腰を下ろしたまま、両手に光を集中させた。


「創作再現!」


次の瞬間、満腹兵器の表面が、チー牛の能力によって歪み始めた。牛肉とチーズの配置が変わり、米粒の組成が変化する。


「よし、これで具材と米の黄金比が整った。完璧なチー牛だ!食うぞ!」


チー牛の能力は、タナカの**「純粋な満腹感」の結晶の上に、「偏愛と安易な欲望」**という新たな要素を上書きした。


その結果、満腹兵器の組成は一気に不安定化し、タナカが仕込んだ**「安眠の魔法」が、「極度の胃もたれと不快感」**へと変質し始めた。


タナカの目の前で、平和への最後の希望が、チー牛の偏愛によって、究極の飯テロ兵器へと変貌していく。

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