第31話:最終兵器と、タナカへの挑戦状
元老ナチョスと元老星輪の訪問から数日後。レドニア王国軍の最前線に、異様な物体が投下された。
それは、タナカが撒いたマシュマロや煎餅紙幣とは全く異質の、禍々しい色と形をした、巨大な兵器だった。
「タナカ様!ご報告です!ユグラシアが、休戦協定を破る気配を見せています!」
ロイドが慌ててタナカの自室に駆け込んできた。タナカは、ちょうど次の**『キャラメル補給弾』**の製造を終えたところだった。
「休戦協定破りだと?あのヒットラークが、自分のプライドを曲げるのか?」タナカは眉をひそめた。
「それが……レドニア側の補給路に、奇妙な物体が投下されたのです!偵察の結果、それは**『ユグラシア最終兵器』**だと判明しました!」
ロイドが差し出したスケッチを見て、タナカは思わず息を飲んだ。
最終兵器『ナチョス』と『星輪』の脅威
スケッチには、二種類の異様な物体が描かれていた。
一つは、巨大で三角形の、焦げ茶色のチップス状の硬質物体。その表面には、緑や赤のドロドロとしたソースのようなものが付着し、禍々しい輝きを放っている。
もう一つは、鋭い角を持ち、鋼鉄の星の形をした、光を吸収するような黒い塊。その塊からは、細い針のような金属線が多数伸びている。
タナカの頭の中の知識が、即座にそれを解析した。
元老ナチョスの兵器:『飢餓誘発チップス(アペタイト・チップ)』。食べた者に強烈な空腹感と渇望感を与え、タ行性の理性を破壊する。
元老星輪の兵器:『絶望の星』。触れた者の体力を奪い、精神を沈滞させる、魔法的な性質を持つ金属。
「馬鹿な……。これは、単なる兵器ではない。人間の根源的な『欲望』と『絶望』を直接攻撃するための、戦略兵器だ」
タナカは悟った。これは、ナチョスと星輪が、タナカの「甘いものへの欲望」を利用した戦略へのカウンターとして投入してきた、**「究極の反・欲望兵器」**であると。
ロイドは震えながら言った。
「ユグラシア側からの通達です。『貴国の異邦人、タナカよ。貴様がもたらした甘い混乱を、我々の真の苦痛で上塗りしてやる。戦場に現れ、この最終兵器を乗り越えてみろ』……これは、タナカ様への挑戦状です!」
破壊される平和
タナカの「奇妙な誤解による平和」は、この二つの最終兵器の出現によって、一気に崩壊した。
兵士たちは、煎餅紙幣の奪い合いから一転、**『飢餓誘発チップス』の匂いを嗅いだだけで、互いを攻撃し始めた。そして、『絶望の星』**に触れた者たちは、戦意だけでなく、生きる意欲そのものを失い、動かなくなってしまった。
タナカが血を流さずに築き上げた「甘い戦線」は、**ナチョスと星輪の「苦味と絶望の力」**によって、再び地獄へと引き戻された。
タナカは、拳を強く握りしめた。
「ロイド。分かった。俺が動く」
「タナカ様!何をされるおつもりですか!」
タナカは、ボロボロの軍服の胸元をはだけ、コンビニTシャツのロゴを見せた。彼の顔には、前世の戦場で死の直前に見た、あの絶望と、それを乗り越えるための強い決意が浮かんでいた。
「俺の平和戦略は、常に**『失敗』**する。だが、その失敗こそが、この世界を動かしてきた。ならば、今度こそ、最大の失敗をもって、この戦争を終わらせる」
タナカは、自らの創造魔法の致命的な欠陥を逆手に取り、ラスボスたちが仕掛けてきた**「究極の欲望戦」に、「究極に無駄で、最強の食べ物」**で応えることを決意した。
「ロイド。準備しろ。**『最終平和兵器』**を、今から作る」




