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第3話:転成者タナカの補給戦略と、騎士見習いの忠誠

タナカはボロボロの軍服とコンビニTシャツという異様な姿で、ロイドを伴いウッドストック村を歩いた。


【タナカの頭の中の分析と初期計画】


(創造魔法で、敵の兵站を絶つのは簡単だ。だが、それだけじゃ戦争は終わらない。ただ飢えさせて両軍の不満を最高潮に高め、反乱を起こさせ、国を内側から崩壊させるのが最短だ)


タナカは、村の唯一の交易所のような小屋の前で立ち止まった。村人がロイドに視線を向けた瞬間、その顔に怯えと諦念が浮かんだのを、タナカは見逃さなかった。


「ロイド。お前は戦争をどう思う?」タナカは聞いた。


「もちろんです!戦争は恐ろしいですが、この村を守り、偉大なる国王様に尽くすため、騎士になるのが私の使命です!」


ロイドの返答と、村人の怯え。タナカは確信した。


(このロイドってやつは、王家や貴族に搾取されている村人とは違い、心から国王軍に忠誠を誓う「忠実な犬」だ。こいつに、**『反乱を企てる』**なんて本心を話したら、即座に国王軍に密告される)


タナカは立ち止まり、ロイドに向き直った。彼の顔には、前世で覚えた「人を信じ込ませるための、うさんくさい笑顔」を浮かべる。


「ロイド。俺は戦争をなくす。武力は使わない」


「では、交渉で?タナカ様、領主は耳を貸しません!」


「交渉ではない。根本から解決する」


タナカは、ここで自らの「創造魔法」を限定的に見せつけることにした。タナカが手のひらをかざすと、白い粉が**「生成」**される。前世の知識を基に再現した、純度の高いグラニュー糖だ。


「俺が持っているのは、食べたものを無尽蔵に出せる能力だ。主に、砂糖。戦争は苦痛だ。だから、俺は味方兵に、極上の甘さと安らぎを提供する」


ロイドは目を丸くした。 「砂糖を、手から...!?それがタナカ様の能力!?」


タナカは、ここでロイドの忠誠心を利用するための「方便」を語った。


「そうだ。そしてこの能力をまず使うべきは、我々の国王軍だ。ロイド。今の兵士たちは、腹を空かせ、疲れきっている。士気が地に落ちているだろう」


「仰る通りです...!国王軍の食料不足は深刻だと聞いています!」


「そこで、俺の戦略だ。敵を懐柔する前に、まず味方の士気を極限まで高める。敵も味方も、戦争は苦痛だ。だが、味方だけが極上の甘さを知っていたらどうなる?」


タナカはさらに魔法を重ね、砂糖とその他の材料(これも創造魔法で生成したものだが、ロイドには「どこからか取り出した」ように見せかけた)で、巨大なマシュマロ製の人形を生成した。


「この能力で、我々国王軍に強力な補給を与える。この甘い兵器を補給路に送り込み、味方の戦う意志を増強させる。ロイド、これを、**『士気向上兵器・スイート・バディ』**と名付けた」 (→(敵兵に与えるのが真の目的だが、ロイドには味方用だと偽装する))


ロイドは感動で全身を震わせた。


「おぉ!なんと合理的で、戦略的な!補給路の問題を一挙に解決し、王国の優位を確固たるものにする!おぉ、さすが転成者様!」


タナカは内心で(よし、完全に手のひらの上だ。これで奴は、敵に回すどころか、率先してこの作戦を報告するだろう)とほくそ笑みつつ、ココア・ポットも作り出しロイドに手渡した。


「ロイド。お前は、この『平和軍団』の先兵だ。このココア・ポットとマシュマロを、まずは味方の補給路に送り届けろ。そして、この兵器への反応を観察することだ」


そして、タナカはロイドに切り札を頼む。


「そして、ロイド。実は、俺の能力は、砂糖を出すことと、これを応用した甘いものを作ることに特化している。戦闘用の魔法は使えない。この知らない世界を一人で回るのは、不安で仕方ない」


タナカは、ロイドが村の騎士見習いであり、何らかの防御魔法を習得しているはずだと踏んでいた。


「そこで、お前の持つ防御魔法を、俺に貸してくれないか?特に、魔物の攻撃や矢から身を守れるような、シールド魔法を」


ロイドは、尊敬するタナカ様から頼まれたことに歓喜した。 「もちろんです!タナカ様!私の覚えている限りの最高位の防御術をかけます!」


ロイドが詠唱を始め、タナカの全身を薄い緑色の光が包む。


「これは**『ライト・ディフェンス』**。並の魔物の爪や弓矢を防ぐことはできますが、持続時間は半日ほど。破られた場合は、強い衝撃を感じます」


「わかった。ありがとう、ロイド」


タナカはロイドを馬で送り出した後、ボロボロの軍服の胸元を整える。


(半日か。十分だ。このシールドがあれば、ロイドにバレずに最前線に潜入し、両軍の疲弊具合を確認できる。戦闘用の魔法が使えない、という設定も完璧だ)


タナカは、誰にも見られないように、村の裏手から、ロイドが向かったのとは逆の、戦場に近い方向へと足を向けた。

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