第28話:秘密の饗宴—戦場に轟く、ビスケットとチョコレートの咀嚼音
ロイド=ブレイブハートは、タナカから命じられた**『秘密裏の祝宴作戦』**を遂行するため、夜の戦場に再び馬を飛ばした。彼の脳内は、「国家機密である新型兵器の破壊(消費)」という、かつてない使命感で満たされていた。
ロイドは、レドニア王国軍の最も近い駐屯地で、指揮官と補給部隊の責任者を呼び出した。
「皆の者!この度の休戦は、我が軍の偉大なる力と、転成者タナカ様の深謀遠慮の賜物である!敵の罠を避けるため、今宵、極秘裏に**『勝利の祝宴』**を催す!」
ロイドは、誰もが恐れていたあの**『お菓子の機甲師団』**を指さした。
「あの戦車は、実は国王陛下が極秘で開発された**『新型・緊急糧食』だ!休戦を祝うため、そして敵に正体を知られる前に、我々ですべて食い尽くす**のだ!」
兵士たちは、最初こそ「戦車を食べる?」と困惑したが、あのマシュマロとココアの強烈な甘い匂いを思い出させると、彼らの飢餓と甘いものへの渇望が理性を上回った。
「食べるぞ!戦車を食い尽くせ!」
命令は即座に実行された。国王軍の兵士たちは、敵兵から身を隠すように塹壕や廃墟に集まり、秘密裏に**『お菓子の機甲師団』**の解体に取り掛かった。
甘い機甲師団の最期
夜の戦場に響き渡ったのは、銃声や砲撃音ではなく、ビスケットの砕ける音、チョコレートを噛み締める音、そしてマシュマロを引きちぎる、奇妙な音だった。
マシュマロのキャタピラは、一瞬で兵士の口の中に消えた。
チョコレートの装甲は、斧や銃床で砕かれ、兵士たちがその破片を奪い合った。
角砂糖の主砲は、巨大な飴として、数人がかりで舐められた。
ロイドは、誰よりも熱心に「祝宴」に参加した。彼は、タナカの指令通り、戦車の主砲部分(巨大な角砂糖)を、まるで剣士のように誇らしげに担ぎ、ゴリゴリと噛み砕いてみせた。
(ロイド内心):「この甘さ……タナカ様の戦略の重厚な甘さだ!この戦車を食い尽くすことで、私は国家機密を守っているのだ!」
兵士たちは、この祝宴を通じて、タナカが撒いた煎餅紙幣の価値が本物であると確信する。なぜなら、戦車すら惜しみなく食料として提供する国王軍の豊かさは、常軌を逸していたからだ。
ユグラシア連邦軍の塹壕。
ユグラシア偵察兵:「隊長!妙です!レドニア側から、さっきまでなかった甘い匂いと、何かを噛み砕くような異様な音が聞こえます!」 ユグラシア隊長:「音痴な歌の次は、噛み砕く音か?あれは、新型兵器の**『起動音』に違いない!我々には解析不能な『振動兵器』**を開発しているのだ!奴らの恐ろしさは、底知れない……!」
タナカの**「証拠隠滅」作戦は、ユグラシア側に「レドニアは新型の振動兵器を秘密裏に開発し、音響試験を行っている」**という新たな誤解を生み、更なる畏怖を与える結果となった。
明け方の戦場
朝もやが立ち込める頃、戦場に並んでいた数十両の**『お菓子の機甲師団』は、完全に消え去っていた。残されたのは、泥に塗れた大量のビスケットのカス**と、チョコレートの空袋のような甘い残滓だけだ。
そして、満腹と幸福感で、国王軍の兵士たちの士気は、戦闘意欲とは無関係に最高潮に達していた。
ロイドは、空っぽになった戦場の中央に立ち、深呼吸をした。
「ふう……タナカ様、『戦略的胃袋作戦』、完璧なる成功です!これで、国家機密は守られました!」
ロイドは、タナカへの報告と、そしてこの祝宴の成功を国王軍に報告するために、急いで村へと馬を走らせた。彼の口からは、まだココアと砂糖の匂いがしていた。
タナカが望んだのは「平和」だが、彼が達成したのは、**「満腹による一時的な戦争の休止」と、敵味方両陣営に「レドニア軍は、何を考えているか全く分からない、恐るべき狂気の集団である」**という、新たな認識の定着だった。




