第23話:総統の暗躍と、戦場に並ぶ「甘い機甲師団」
ロイドが国王軍駐屯地へ走った頃、ユグラシア連邦軍の本部壕では、総統フューラー・ヒットラークが静かに作戦を決行していた。タナカの感情伝達を「レドニアの降伏の嘆願」と解釈した総統は、ここで一気に戦局を決定づけるつもりだった。
「ゲッペルス。『音痴な異邦人』が籠もっていたという甘い匂いの要塞は、もう消えたようだな」
「は!閣下の予測通りです。敵は自滅しました。今、精鋭偵察部隊**『ツァイト』**を派遣しました。奴らの残存勢力と、あの悪趣味な偽金の流通ルートを突き止めます」
ヒットラーク総統の偵察部隊『ツァイト』は、静かに、そして迅速に、レドニアとの最前線へと潜入した。
放心状態のタナカと、お花畑の思案
一方、タナカは自室のお菓子の残骸を全て食べ尽くした後、奇妙な静けさの中で目覚めた。周囲には何も残っていないが、彼の能力は**「お菓子の戦車を即座に生成できる状態」**へと進化していた。
タナカの精神は、依然として深い絶望の淵にあるものの、その思考は「戦争をなくす」という目標から派生した、極度に歪んだ**「童話的な平和」**のイメージに支配されていた。
(戦場は、戦車でいっぱいだ。戦車がなければ、戦争は始まらない……。いや、違う。戦車があっても、それが幸せなものなら、誰も戦わないはずだ)
タナカの頭に浮かんだのは、戦場ではなく、前世で読んだ童話の挿絵だった。そこには、美味しいお菓子に囲まれ、皆がニコニコと笑っている姿があった。
タナカは、虚ろな笑みを浮かべた。
「そうだ。お菓子の戦車だ。こんなに美味しい戦車があれば、兵士たちは皆、喜んで戦車を食べるだろう。**『美味しい戦車が欲しくて戦車を探す』ことになるが、それは『破壊するための戦車』**ではない」
タナカは、自らの能力の原点である「食べたものから創造する」という効率化を、**「大量の平和的なお菓子の兵器」**を生み出すことに利用し始めた。
タナカは、夜の闇に紛れて、誰もいない戦場の中央に、こっそりと姿を現した。クッキーの帽子とキャラメルコーティングの上着を身につけたまま、彼は創造魔法を発動する。
戦場に現れた「甘い機甲師団」
「お菓子の戦車を!」
タナカの胃袋に格納された「お菓子の戦車の味」の記憶が呼び起こされる。タナカの目の前で、チョコレートの装甲、マシュマロのキャタピラ、角砂糖の主砲を持つ、無駄に精巧な**『お菓子の戦車』**が、一瞬で生成された。
タナカは、その戦車を眺め、満足そうに頷いた。
「もっと、もっとだ。たくさん作らなければ。お菓子の戦車で、戦場を埋め尽くすんだ」
タナカは、放心状態で、機械的に創造魔法を連発した。
一台、また一台。
戦場の泥濘の上に、**『お菓子の戦車』**が次々と並べられていく。ピンクと白のマシュマロがキャタピラとなり、金色のキャラメルが機関銃の銃身を模す。それらは全て、食べられるという点を除けば、本物の戦車と同じ大きさだ。
タナカの周りには、瞬く間に数十台の**「甘い機甲師団」が完成した。それらは、動くことも、攻撃することもできないが、夜風に乗って、戦場に強烈な甘い匂い**を撒き散らした。
タナカは、クッキーの帽子を被ったまま、茫然と立ち尽くした。




