表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/53

第22話:能力の原点回帰—絶望の「お菓子の家」を喰らう

お菓子の戦車の横で腰を下ろしたタナカは、依然として放心状態だった。クッキーの帽子とキャラメルの服を身につけたまま、彼の目は虚ろに、周囲を埋め尽くす甘い家具や兵器を眺めている。


彼の部屋は、マシュマロの壁、チョコレートの椅子、ビスケットの本、そしてお菓子の戦車という、童話のような、しかし深く絶望的な空間となっていた。


(すべて、無駄だ。俺の平和への願いは、ただの甘いゴミになった。そして、この能力は、そのゴミを作り続けることしかできない……)


タナカの視線が、ふと、自身の作り出した**「煎餅紙幣マネー・クラッカー」**の山に向けられた。彼は、その煎餅紙幣を一枚、口に運んだ。パリッという音と、甘じょっぱい味が、彼の五感をわずかに刺激する。


その瞬間、タナカの頭に、能力の基本原理が蘇った。


「食べたものを、再現する」


そうだ。彼は、マシュマロの組成を思い出し、砂糖を生成した。チョコレートの味を思い出し、ココアの塊を生成した。煎餅の味を思い出し、偽札を生成した。


(俺は、わざわざ素材を個別に思い出し、形を整えようと苦労していた……だが、このお菓子の戦車は、マシュマロ、チョコ、角砂糖、クッキー……様々な食べられる要素でできている)


タナカの思考回路が、絶望の中で、極めて**非人道的な「効率化」**へと向かい始めた。


【タナカの効率化論】

(なぜ、わざわざ、個別の素材を思い出す必要がある?このお菓子の戦車を丸ごと食べてしまえば……**「戦車の味」が記憶に残る。そうすれば、次に創造魔法を使う時は、「戦車」**として一気に生成できるのではないか?作る手間が省ける……)


タナカにとって、この部屋のお菓子はもはや「平和への希望」でも「失敗の記録」でもない。それは、**「省力化のための原材料」**へと認識が変化していた。


タナカは、虚ろな目をしたまま立ち上がった。


彼は、まずお菓子の戦車の横に置かれた、チョコレートの椅子に手を伸ばした。


ガブリ。


彼は躊躇なく、その固いチョコレート製の椅子を噛み砕いた。ボリボリという鈍い音と、濃厚な甘さが部屋に響く。


次に、彼はマシュマロのテーブルに手をかけ、それを引きちぎった。フワフワの塊を、タナカはまるで無機物を処理するかのように、黙々と口に運び続ける。


そして、ビスケットでできた本、飴細工でできた花瓶、キャラメルコーティングされた上着……。タナカは、自身の能力を最大限に活用し、部屋全体を解体し始めた。


彼の口は、ただひたすらに、平和な童話の世界を、原材料として胃の中に回収し続けている。


究極の「自己補給」

そして、タナカはついに、部屋の中央に鎮座する**『お菓子の戦車スイーツ・タンク』**の前に立った。


(タナカ内心):よし。これで手間が省ける……。次に、お菓子の戦車が必要になったら、食べる記憶を呼び起こすだけでいい。一瞬で戦車が出せる……これで、無駄な時間がなくなる……


タナカは、角砂糖の主砲を掴み、その先端を大きく口を開けて加えた。


ボキッ!ゴリゴリゴリ!


硬い砂糖と、チョコレートの装甲が、タナカの歯によって砕かれていく。彼は、戦車の部品を次々と口の中に押し込み、自らの体内に「お菓子の家と兵器」を全て格納した。


ロイドが発見した「甘い要塞」は、数時間後、タナカの胃袋の中へと完全に消え去った。


タナカは、満腹になった体で、何もなくなった部屋の床に倒れ込んだ。彼の周りには、甘い匂いの残滓と、ボロボロの軍服、そしてコンビニTシャツだけが残った。


(これで、いい。これで、俺は……いつでも、戦車が出せる……)


タナカの絶望は、彼の能力を、**「食べられる戦車を即座に生成できる」**という、極めて効率的だが、さらに奇妙な段階へと進化させたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ