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第21話:絶望と童話—お菓子の戦車と、甘い幻影

ロイドが「甘い要塞」の報告に駆け出した後も、タナカは自室で茫然自失の状態にあった。彼の目は虚ろで、表情は完全に抜け落ちている。周囲は、マシュマロ、ココア、飴細工の山で埋め尽くされ、甘い香りが息苦しいほどに充満していた。


(俺のやることなすこと、全てが裏目に出る。平和を望んだはずなのに、全てが戦争を加速させた。もう、何をすればいいのか……)


タナカの脳裏に、前世で読んだ古い童話の記憶が蘇った。それは、森の中に現れる**「お菓子の家」**の物語だった。


(お菓子の家……。夢のような、平和な場所。あんな場所なら、誰も戦ったりしない……)


深い絶望と現実逃避の中で、タナカは創造魔法を無意識に起動させた。彼の能力は、主の心の状態を反映するかのように、**「役に立たないが、精巧な模倣品」**を生み出し始めた。


甘い幻影の創造

タナカは、積み上がったマシュマロやチョコレート、飴細工の山の隙間に、まるで童話の世界を再現するかのように、手作業で品々を作り始めた。彼の手は、まるで職人のように正確に動いているが、その瞳には光が宿っていない。


まず、部屋の隅に、巨大な**「マシュマロ製のテーブル」と、「チョコレート製の椅子」を作り出した。テーブルの上には、飴細工でできた「色とりどりの花瓶」が置かれ、そこには「砂糖菓子でできた花束」**が飾られている。


次に、壁際には、煎餅紙幣でできた**「本棚」が作られた。棚には、『ビスケットでできた本』**が整然と並べられている。中身は当然、文字のないただのビスケットだ。


さらに、タナカは自分の身を飾るものを作り出した。


「クッキーでできた帽子」。「キャラメルコーティングされた上着」。「マシュマロのズボン」。そして、「チョコレートブーツ」。


これらは全て、見た目は完璧な衣服だが、当然、何の機能性も持たない。少し動けば砕け散るか、溶けてしまうだろう。タナカは、それらの服を、無感動な手つきで身につけた。


(タナカ内心):……平和な場所では、こんな家具や服を着て、誰かと笑い合えるのだろうか。前世の、あの孤独な戦場では、絶対にありえない光景だ……。


そして、最後にタナカが作り出したのは、最も衝撃的なものだった。


『お菓子の戦車スイーツ・タンク』。


それは、チョコレートでできた装甲と、マシュマロのキャタピラ、そして巨大な角砂糖の主砲を持つ、紛れもない**「戦車」**だった。もちろん、これもまた、全く動かない、食べられる置物だ。


タナカは、そのお菓子の戦車の横に、クッキーの帽子とキャラメルの服をまとったまま、放心状態で腰を下ろした。


(こんなものが戦場にあったら、誰も戦わないだろうな……。だって、食べられるんだから……)


彼の部屋は、甘い香りが充満する、童話と絶望が融合した異様な空間と化した。タナカは、自らの手で作り出した、**「究極に平和な、しかし全く役に立たない甘い兵器」**に囲まれ、ただただ、意識の淵を漂っていた。

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