第13話:騎士ロイド、全身デコレーションで敵を威圧する
タナカはロイドを説得し、彼の「甘いものへの依存」という精神的な危機を、**「武力デモンストレーション」**という形で解消することに成功した。タナカの目標は、戦争終結へ向けた情報伝達ルートを確保し続けることにある。
自室。タナカは、自身の創造魔法の欠陥(食べたものに引っ張られること)を逆手に取った、ロイド専用の「特殊な防具」を完成させた。
(武力デモンストレーション。つまり、見た目が強烈で、士気を削ぐ効果があること。騎士の誇りを満たしつつ、戦う気力を奪う……)
タナカは、頭の中にある「食べたもの」の記憶を総動員した。鉄の味、革の味、そして、あの時の**「マシュマロとココアの甘さ」**。
「ロイド。これが、お前に与える**『精神威圧の装具』**だ」
タナカが差し出したのは、騎士の全身鎧を模して作られた、一見すると豪華絢爛な甲冑だった。しかし、その材質は、極彩色に輝く飴細工と、乾燥したマシュマロの破片で出来ていた。
兜のツノは巨大なココア味の角砂糖、肩当ては幾重にも重ねられた硬化マシュマロ(白とピンク)、胸当てには金色のキャラメルコーティングが施され、太陽の光を反射してギラギラと輝いている。
「こ、これは……!」ロイドは目を奪われた。騎士としての誇りを満たす「全身鎧」の形でありながら、その材質は甘いものだ。
(タナカ内心):鎧の強度?ゼロだ。ナイフで刺したら粉砕する。だが、その強烈な視覚的刺激と、ロイドが誇りに感じられる「鎧」という形状は、彼の求める武勇の象徴となるはずだ。
「この装具は、お前の騎士としての勇気を増幅させる。そして、その異様な姿は、敵兵に**『レドニアは、武具すら甘いもので作る余裕がある』**という、絶望的な補給状況の差を見せつけることになる。戦う必要はない。ただ、見せつけろ」
「ははあ!これが、タナカ様の新たな**『精神戦兵器』**!見事な威圧感です!」
ロイドは、よろめきながらも鎧を身につけた。全身が飴とマシュマロで出来た、動くデコレーションケーキのような騎士が誕生した。
最前線、混乱の極致へ
ロイドが『精神威圧の装具』を装着し、馬を走らせて戦場の中央に現れたのは、翌日の夕暮れ時だった。
飴細工の鎧は、西日に照らされ、七色の光を反射して輝いている。周囲には、ココアと砂糖の、濃厚な甘い香りが漂った。
【ユグラシア連邦軍の塹壕】
ユグラシア兵A:「なんだあれは!?騎士か?全身が、キラキラ光る何かで覆われているぞ!」 ユグラシア兵B:「あの甘い匂い!マシュマロとココアだ!あのデブデブした魔物から奪い合った、幻の甘い匂いだ!」 ユグラシア指揮官:「馬鹿な!レドニア軍は、補給状況を誇示するために、兵士に飴細工の鎧を着せているのか!?我々は、泥まみれで飢えているというのに!これは、我々への最大の侮辱だ!」
ユグラシア兵は、恐怖よりも、飢えと嫉妬からくる猛烈な怒りに駆られた。
【レドニア王国軍の塹壕】
レドニア兵D:「ロイド殿だ!我らが村の英雄だ!だが、あの姿は……なんだか、妙に甘ったるいぞ!」 レドニア兵E:「羨ましい!きっと、国王様から特別に与えられた、食べることもできる装具に違いない!」 レドニア指揮官:「ロイド!すぐに帰還しろ!敵に甘い補給品の存在を誇示するのはいいが、その鎧はあまりにも……下品すぎる!」
タナカの意図した「精神的威圧」は、予想通り、両軍に混乱と怒りをもたらした。しかし、ロイドの武勇への渇望は、事態をさらに奇妙な方向へ導く。
ロイドは、周囲の混乱を「威圧が成功している証拠」だと受け止め、騎士の誇りにかけて**『武勇デモンストレーション』**を始めた。彼は愛用の剣を振りかざし、そのまま廃墟の塔に向かって突撃した。
「国王軍の栄光のために!私は行く!」
しかし、ロイドが剣を振るうたびに、マシュマロの肩当てや飴細工の兜のツノが、ポロポロと崩れ落ちた。
シャララ!
飴の破片が飛び散り、戦場に甘い香りが一層広がる。その姿は、騎士の威圧ではなく、**『自壊するスイーツ』**の悲しい末路だった。
タナカの目標とする「平和」は、今日もまた、ロイドの猛進と、甘い兵器の自壊という、奇妙な現象によって遠ざかるのだった。




