第12話:平和への新たな障害、甘いもの中毒の騎士見習い
タナカの自室は重い静寂に包まれていた。タナカは、あの夜の惨劇以来、自身の**「創造魔法の致命的な欠陥」**に気づき、深く落ち込んでいた。シリアスな目標を掲げているにもかかわらず、彼の行動は全てが奇妙な方向に逸れていく。
(俺の能力は、食べたものしか正確に再現できない。雪原の巨人をイメージしても、綿菓子とアイスの記憶に引っ張られる。次に何を生成すれば、この戦争を終わらせられる……?)
そんなタナカの自室の扉が、勢いよく開けられた。ロイドが息を切らせて立っている。
「タナカ様!新たな脅威が出現しました!」
タナカは身構えた。今度こそ、本当にシリアスな魔物か、それとも国王軍の刺客か。
「……何だ」
「それが……私です!」
ロイドはそう言うと、持っていた愛用の剣を壁に立てかけ、突如、床にうずくまり始めた。
「タナカ様!私には耐えられません!あの**『士気向上兵器・スイート・バディ』**の甘い誘惑に!」
ロイドの顔は青白く、額には脂汗がにじんでいる。
「毎日、私は国王軍の補給路で、兵士たちがタナカ様の奇跡の補給品を奪い合う光景を見てきました。そして、あの甘い香りが、私の魂を深く蝕んでいくのです!」
「ロイド。お前、マシュマロを食いすぎたんじゃ……」
「違います!私は、騎士としての規律を守り、一つたりとも食べていません!しかし、その香りが、頭の中で**『ココアとマシュマロがあれば、もう剣はいらない』**と囁き続けるのです!」
ロイドは、もはや騎士の規律ではなく、禁断症状のような様子を呈していた。
「このままでは、私は**『甘いものの中毒者』**となり、国王軍への忠誠を失ってしまう!タナカ様!どうか、私の心の渇きを癒してください!次の作戦を……甘いものではない、純粋な武勇を示す作戦を、私にお与えください!」
ロイドは、タナカの「甘すぎる平和戦略」の副作用で、精神的に追い詰められていた。タナカの意図とは裏腹に、最も忠実であるべきロイドの忠誠心こそが、彼の生み出した「甘い補給品」によって崩壊の危機に瀕していたのだ。
(タナカ内心):「純粋な武勇を示す作戦」だと?俺は戦争をなくすためにやってるんだぞ。だが、ロイドの忠誠心が壊れたら、俺の二重戦略が全て破綻する。国王軍に報告が上がらなくなったら、俺が戦場に生み出した混乱が**『事故』として処理されてしまう。それでは、次の手を打てない……。それに、このロイドの様子、これは最早深刻な病**だ。どうにかしなければ。
タナカは再び、創造魔法でマシュマロを一つ生成し、ロイドに投げ渡した。ロイドは反射的にそれを口で受け止めた。
「ロイド。わかった。お前は、精神的に追い詰められた騎士として、敵を撃退する**『武力デモンストレーション』**が必要だ」
ロイドの目が一瞬、キラリと輝いた。
「次の作戦は、これだ。お前は単独で、ユグラシア軍の陣地の近くに行け。そして、俺が作った**『特殊な防具』を装着し、敵を威圧する。これは、戦闘意欲とは無縁の、精神的な威圧だ。だが、その姿は、国王軍の士気を高めるための『勇敢な騎士の象徴』**となるだろう」
タナカは、ロイドの武勇への渇望を満たしつつ、実質的には戦わない、極めて安全な**「見世物作戦」**を考案した。
ロイドは、タナカの言葉に再び希望を見出し、涙ながらに感謝した。
「タナカ様!やはりタナカ様は私を見捨てなかった!私は、必ずや**『勇敢な騎士の象徴』**となって戻ってまいります!」
タナカは、ロイドを見送った後、創造魔法で、ロイドのための**「特殊な防具」を作り始めた。その防具は、騎士の誇りを満たしつつ、敵兵の戦意を確実に削ぐ、ある意味、今までの兵器の中で最も無意味で強烈な視覚的刺激**を与える代物となるだろう。
タナカのシリアスな目標は、ロイドの甘いもの中毒という新たな問題を抱え、さらに奇妙な展開へと突き進んでいく。




