第10話:雪だるま式大失敗! 恐怖の巨大モフモフ兵器
タナカの沈黙は破られた。彼の心は、失敗の後に咲いた「戦線沈静化」という奇妙な成果に賭ける決意で満ちていた。
「ロイド。次の作戦は**『共闘』**だ。両軍の兵士に、一時的に手を組ませる」
ロイドが持ってきた情報によると、この辺境には「雪原の巨人」という、体が巨大な雪と氷でできている魔物が稀に出現し、甚大な被害をもたらすという。
タナカは創造魔法を駆使し、秘密裏に巨大な魔物を生成する準備を進めた。
【タナカの創造魔法の弱点】
(俺の能力は、食べたものの再現。雪と氷の組成で、無害だが巨大な魔物を生成できるはずだ。雪は食べたことがある。氷も水だ……)
タナカは、頭の中で「雪」と「巨人」のイメージを必死で重ね合わせた。その瞬間、彼の意識は、前世の遠い記憶へと引き戻された。
【タナカの回想】
幼いタナカは、地元の小さな祭り会場にいた。母親が屋台で買ってくれたのは、雪のように白い、ふわふわの綿菓子だった。口に入れると、甘く溶けて消える。 「わぁ、雪みたい!」 「雪は冷たいけど、これは甘いからね」母親は笑っていた。
場面は変わり、真夏の猛暑日。コンビニで買ったのは、牛乳味のアイスバー。冷たさと、濃厚なクリーム色の甘さが、汗をかいた身体に染み渡る。
「あー、生き返るわ」タナカは思い切り、アイスをかじった。
史上最も間抜けな魔物の誕生
回想から現実に戻ったタナカは、創造魔法に全魔力を注ぎ込んだ。
ズドドドド!
大地が揺れ、巨大な魔物が姿を現す。タナカのイメージは「雪原の巨人」だったが、彼の能力は**「食べた記憶の再現」**に強く引きずられた。
その魔物は雪と氷ではなく、全身が純白の羊毛のようなフワフワの毛で覆われていた。その毛からは、微かに甘い綿菓子の香りがする。目はクリクリとして愛らしく、巨大な牛乳アイスを模したかのような、とろけたクリーム色の角が生えていた。
**『雪原の巨大モフモフ(スノー・フワフワ)』**の誕生である。
しかも、そのモフモフは、大地を揺らしながら両軍の待機する砦に向かって、**ゆっくりと、優しく、**歩み始めた。その歩く音は「ズドドドド」ではなく、「フワ、フワ、フワ……」という、やたら間延びした音だった。
タナカ内心(絶望):「うそだろ!?なぜモフモフに!?そして、**綿菓子の匂い!?**なぜ『雪と氷』が『綿菓子とアイス』になったんだ!?全く脅威じゃない!これじゃ、共同作戦どころか、両軍の笑いものになる!」
モフモフは砦の前にたどり着くと、その巨大な体を横たえ、**「スヤァ……」**という、のどかな寝息を上げ始めた。全身から漂うのは、砂糖と牛乳の甘ったるい匂いだ。
両軍の指揮官は、この予想外の事態に怒り狂った。
レドニア指揮官:「ふざけるな!巨大な綿菓子を連れてきて何がしたい!?これはユグラシアの侮辱か!」 ユグラシア指揮官:「レドニアの奴らめ!我々を騙して、こんな甘い匂いの巨大抱き枕を見せつけに来たのか!戦争をコケにするにも程がある!」
怒りの矛先は、巨大なモフモフではなく、相手の軍に向けられた。
「もういい!こんなバカげた時間に呼び出したレドニアを討て!」
「あのモフモフを切り刻んで、怒りを晴らせ!」
タナカは、モフモフの寝息と、その後ろで再び激化する銃撃戦を聞きながら、その場に崩れ落ちた。
(まただ……また、俺の平和戦略が、戦争を加速させた……!)




