プロローグ
暗闇の中、冷たく沈んだ空気が重々しく漂う巨大な石造りの玉座の間に、7つの玉座が不気味に並んでいた。その中心には、それぞれの玉座に腰を下ろす者たちがいる。彼らはかつてこの世界を恐怖と混沌に包み、すべてを支配していた魔王たちだ。そして今、その7人が一堂に会し、運命を共にすることになる、最後の会合が始まろうとしていた。
「さて、我らが魔王軍もついに追い詰められたか…」
玉座の一つに座るベルフェーゴールが、無感情にその事実を呟いた。彼女の長い黒髪は静かに揺れ、鋭い瞳が空間を貫くように光る。怠惰の魔王として知られる彼女は、常に無駄な動きを嫌い、無表情で冷徹だった。しかし、その頭脳は非凡であり、過去に多くの策略を成功させてきた。
「ハッハッハッ!それがどうした、ベル!我々が追い詰められる?勇者たちごときが何をできる?この俺たちに勝てるとでも思っているのか!」
暴食の魔王ベルゼブブ、通称ブブは豪快に笑い声を響かせた。彼は大柄な体躯を誇り、いつも何かを食べているかのように口をもごもごさせながら、どこか軽薄に見える。しかし、その力は圧倒的であり、特に暴力と欲望を満たすために生きているような彼の戦闘力は誰もが恐れていた。ベルゼブブは興奮しているように見えるが、その眼の奥にはかすかな焦りがあった。
「軽口を叩くのもいいが、実際に戦局は悪化していることを忘れるな。勇者どもがどんどんこちらへ近づいている。」
色欲の魔王アスモデウスが、ため息をつきながらベルゼブブをたしなめる。彼の美しい顔立ちと優雅な動きは、一見して魔王とは思えないほどの魅力を持っている。しかし、アスモデウスの言葉には冷酷さと現実主義が含まれており、事態の深刻さを示していた。
「このままでは、我々が追い詰められるのも時間の問題だ。彼らはただの人間ではない。我々を討つために特別に鍛え上げられた存在だ…」
嫉妬の魔王レヴィアタンが低く抑えた声で口を開いた。彼の青い目は、いつも冷静で周囲を観察しているようだった。彼は常に他の魔王たちに嫉妬し、その力を羨んでいたが、いざという時にはその知略を生かし、強力な戦略を打ち立てる力を持っていた。
「つまり、奴らが我らを滅ぼすための存在だと…」
傲慢の魔王ルシファーが、玉座の上で退屈そうに肘をついていた。彼は他の魔王たちと違って、自らの美しさと力を誇り、他者を見下すことで生きている。それゆえ、勇者たちの存在自体が彼にとっては許しがたいものだった。
「いいや、奴らは単なる駒に過ぎん。我らに対抗するための者たち…だが、打ち倒すのはそう難しくはない。」
強欲の魔王マモンが、玉座から立ち上がり、目を細めて微笑む。彼の目は財宝と力への欲望に満ち溢れており、常に新たな力を手に入れるために行動してきた。だが、今回ばかりはその自信も揺らぎつつある。
そして、玉座の間に静寂が訪れた。その重苦しい沈黙を破ったのは、怒りの魔王サタンだった。彼は唯一、立ったまま玉座の間を見下ろしていた。
「黙れ!無駄話をしている暇はない。我々は今、奴らが到達する前に手を打つ必要があるのだ。」
その時、巨大な扉が軋む音を立てて開かれた。外には黒煙が立ち込め、勇者たちの影が差し込んでくる。7つの魔王は目を合わせ、緊張が走る。
「ついに来たか…」
ベルフェーゴールは静かに言葉を漏らし、重たく目を閉じた。彼女たちが築き上げてきた全てが、この一瞬で崩れ去ろうとしている。それを理解していながら、逃れられない運命を受け入れざるを得ない。
数時間後…
玉座の間は静まり返っていた。魔王たちは次々に倒れ、彼らの力を持つ魔石は勇者たちの手によって封じ込められていった。勇者たちはそれぞれの役割を全うし、魔王たちを討伐することに成功した。
だが、戦いが終わった時、魔王たちの体から黒い光が瞬き、7つの魔石が世界中に散りばめられた。それは、彼らが滅びた後も復活を期して残した最後の力の断片だった。魔王たちは討伐され、物理的な存在としては消え去ったが、魂だけが世界に残り、次の宿主を待っていた。