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完全変態していく俺の話。  作者: 塩風 鈴華
7/9

人間としてバランスが悪い

 とある日曜、会追と隣町へショッピングに向かった。行き先はアウトレットモールというやつらしい。会追は晴れでないことに嘆いていたが露にとって曇りの日は体が勝手に踊り出してしまいそうなほどに上機嫌になれる日柄である。現在午前十時、会追と露とのショッピングが開始した。

「なんか今日、機嫌いいね。そんなに楽しみだった?」

「いや、人に合わせて何かするのは苦手だ。あの長袖やらサングラスやらマスクやらをつけなくていいって思うと天にも上れそうな気分だよ。」

 この前なんてコンビニに振り込みをしに行ったら警官から事情聴取を受けるハメになった。そりゃあ顔が見えないのは不審だと自分でも思う、しかし全身を覆わなければグリルで焼かれるソーセージの気持ちを理解することになるのでそれだけは避けなければならない。

「それで今日はいくら持ってきたの?」

「にまん。」

 まあいいでしょう、と謎の了承をいただき順繰りでウィンドウを見て回る。「今日の服装って自分で選んだの?」

「いや、姉が選んだ。俺にはそういうセンスが霞ぐらい皆無だから選んでくれって伝えたら外行きの服はこういうばっかりだったからね。」

 そう伝えると露も会追も肩の空いた浅葱色のワンピースに目を移す。それが今、俺が着ている服である。会追の方は白のTシャツの上にパーカーを羽織り下はピスタチオ色のスラックスを履いている。

 会追と比較して清楚というか遊びに出かけるような服装ではないこの格好はどう見ても不釣り合いだ。

「そもそも、そんな格好露の髪色には合わない。」

 今の俺の髪は男の頃から少し脱色され、ミルクコーヒーのような茶色になっている。馬でいえば栗毛に近いだろう。こんな無菌室ぐらいまっさらな印象を与える服はこの髪とは似合わない。会追のような服を合わせた方が良い、というか茶髪が服に言ってしまえば肌色に合ってなさすぎるのだ。センスのない俺でもわかる。

 いっその事、髪色さえも真っ白になってしまえば統一感のある服を揃えられたのに、と嘆いてしまう。そうは言ってもどうにもならないこと(校則で髪の着色、脱色は禁止されている。)なので諦めるしかないのだけれど。

「会追のような服はどんなところにある?」

「私みたいな感じじゃなくて……ボーイッシュな感じがいいんじゃない?着なれてるだろうし、髪とか丹生と会話してる感じとか似合うと思うよ。」

 露には微塵も服、デザイン、そして美的センスがないため大人しく会追に従うしかないのである。

「こことかどうよ。」

 どうよ、と言われてもこっちは困るんだ。

 『FUJITHUBO』という文字の形に曲がったネオン管の下を通って店内に入るとボーイッシュとは言い難い、無縁そうな女性が二人に近づいてくる。

「お客様、今日はお二人の服を買いにきたのですか?」

「はい、今日は丹生に合う服を探しにきまして」

 彼女は上に紺のストライプ柄のTシャツに蜂蜜色のカーディガン、トップスを身につけている明るそうな印象の女性だ。男から見てスタイルもよく身長は露より頭ひとつ分飛び出ており豊満な二つの双丘に目を奪われる。幸い彼女が首からネームプレートを下げているおかげでアレを凝視することはなかった。そこには『矛崎楓(ほこさき ふう)』と書いてある、これが彼女の名前だろう。

「なにー、丹生ちゃん。私のおっぱいジロジロ見ちゃって、えっちだねぇ〜。」

 矛崎さんの的確な一言に思わず目を逸らす。

 この店員は少しスキンシップというかセクハラがすぎるのでは?(俺が言えた状況ではないけど。)

 焦っているからか弁解するための口は少しも出てこない。俺は、多分、手玉にとってくる年上の女性に弱い。将来、壺を買わないようにしなければと思う反面、こんな美人と関わることができるのであれば別に騙されても良いのではないかと思ってしまう。

「ちょっと丹生、見過ぎ!」

 会追から肘で突かれる。

「いえいえ、こんな可愛い子に見られるぐらいなら構わないですよ。」

 可愛い子か、そうだ。今はもう他人から、年頃の女の子としか見られないのである。以前から「何者かになりたい」という漠然とした夢を持っていたが俺が望んでいたのはこういうものではない。

 今の状況はゲームで例えればチートに等しいのではないだろうか。そりゃ、男の頃からモテたいという欲求は少なからずあるわけだけどもこんな形で叶うとは思わなかったし、叶ってほしくはなかった。

 感傷に浸っているうちに会追に腕を引かれ、矛崎さんが持ってきた洋服を押し付けられ試着室のカーテンを閉められる。

「え?え?え?」

 手にあるのは真っ白いTシャツ、クリーム色のワイドパンツそして青のスカジャン。これを俺に着ろというやつなのだろう。

 裾に足を通し、袖に腕を通す。ブラとショーツそして肌を隠し、背にある鏡を見ると壁に引っ掛けてるワンピースが目に入る。さっきとは全然印象は変わるが目利きが確かな人々に決めてもらったため、似合っていないわけがないのである。

 カーテンを閉じると二人がスタンバイしていた。グッグと一度屈伸してから二人と目を合わせる。

「やっぱり似合ってるわね。丹生ちゃんから見てどんな感じ?」

「気に入りました、サイズも申し分ないです。これと同じかカラーリングが違うものを買います。」

 どうせ着るのは休日だけだし、家から出ることがなければ男の時のTシャツ一枚を着ればいい。しかも日の強い日は不審者モードになるから尚更だ。

「……ちょっと、それは面白くないですね。ちょっと待っててください、いい感じのやつをいくつか見繕ってきます。」

 ああ、これはあれだ。着せ替え人形になるやつだ。

 

 

 小一時間は経っただろうか、似合うものの中で特に気に入ったものを足元に畳んで置いてある。最初のスカジャンを始め、ジーンズ素材のパンツやジャンパーそしてストライプ柄のメンズライクパンツなどがある。

「とりあえず、予算は二万円なのでこれとこれにします。」

「ありがとうございます。丹生ちゃんはどれか着てく?」

 彼女の提案を了承し、最初のコーデに着替える。元々の服は矛崎さんに畳んでもらい、大きめの紙袋に入れて会計を済ます。

 その後、今日のミッションは達成することができたので、昼頃の少し前みフードコートで食事をとることにした。

 ラーメン、ハンバーガー、アイスクリーム。今の俺にとってはカロリーが増しましなものばかりである。となると、今日食べるのは……うどんか。

 フードコートに入っているうどん屋はかなり有名なチェーン店でメニューが豊富な他、天ぷらなどのトッピングやおにぎりなどのバリエーションも豊富、そしてネギと揚げ玉が自由に入れられるのである。

「素うどんでお願いします。」

 素うどんにかぼちゃの天ぷらを乗せて食べる。全て食べた後におにぎりを汁に入れ、おじやにするのが良い。塩分塩分と世間は騒がしいがちゃんと全て飲み干すのが俺の食べ方である。

「おぉ、いい食いっぷりだねぇ。」

 一方、会追はカレーライスを持ってきた。そりゃあカレーにハズレはないだろうが、カレーはここで食べるものではないと思う。(うどんを食べる俺が言うことではないが。)

 着替え続け疲れたのか、欠伸をひとつ吹かしてしまう。

「ツユちゃんはおねむの時間かな?」

 会追がカレーライスの皿を下げ、戻ってきたところで露が口を大きく開けているところを見られる。すぐに二回目はなんとか噛み殺し水を一口だけ含む。

「じゃあ、今日はお開きにしましょうか。」

 そこで会追と分かれ電車に乗って帰った。車内で揺られる間に意識を落としてしまった。

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