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雨の神様

きみを見た時、僕は正直話しかけずに素通りしようと思った。

傘を持っていたのに差してない。

最初は好奇心より、恐怖感の方が強かったと思う。


しかし、なぜか僕の足はきみの元へと歩き出していた。

きっと、頭で考えるより前に。

なぜなのかは、今でも分からない。

そうなる運命だったと捉えることしか出来ない。


フードを深くかぶり、見えていたのは口元だけ。

その口も、雨に打たれながら笑っていた。

怖いのだろうか。それとも、その逆か。

僕の心臓は驚くほどにうるさかった。


「なにしてるんですか?」

それが僕の発した、最初の言葉だった。

もう少し別の言葉があっただろうと、今では思う。

その時は仕方がなかったのだ。


話しかけないと、どこかへ行ってしまうような気がして。

ぱっと頭に浮かんだ、可もなく不可もない言葉を選んだ。


「ん?」

きみは消えそうな声でそう言った。

実際には、そう聞こえただけなのかもしれない。

ちょうどその時、自動車が僕たちの横をクラクションを鳴らしながら通ったから。


ちょうど声と被ったのか。それとも、車が発した音なのか。

きっと忘れてしまっているだろうから、もう確認する術はないのだけれど。


そしてまた、きみはポツリ、ポツリと話し始める。

「道行く人を眺めてた。雨の日って、暇だから」

ひと呼吸おいて、また話す。

「まさか、話しかけられるとは思わなかったけど。普通の人って、私の事を見ても素通りするから」


僕も素通りしようと思ってました…とは言わないでおいた。

どんな目で見られるか分からない。


「けど、そんな所にいると風邪引きますよ」

恐らく、誰に対しても当たり障りのない言葉を選んだ。


「私、家ない」

が、きみに対しては当たり障りがあったようだ。


まだ、きみは話しを続ける。

「そうだ。家、連れてってよ」


いきなりきみは提案するが、僕は困惑した。

恐らく僕より少し年上の、女の人。出会って数分。

そんな人を家に連れて帰っても良いのだろうか。

犯罪には…ならないだろう。

そして運良く、進学する時に一人暮らしを始めていた。

多分、実家暮らしをしていたら、親にも妹にも好奇の目で見られていただろう。


すぐにでも許可を出したかったが、心の奥底では、本当に良いのだろうか?と思ってもいた。

危ない人だったら?金目の物を盗まれたら?

もしかしたら、殺されるかもしれない。


ただ、僕はこの人が嘘をついているとは思えなかった。

理由は特にない。直感で、そう思っただけだ。


そう考え始めてほんの数秒後、答えを導き出した。

「それじゃ、こっちなんで行きましょうか」


揺れたフードの隙間から、きみが驚いた顔をしていたのが見えた気がした。

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