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箱入り娘 公爵令嬢のアルバイト生活  作者: 真ん中 ふう
1/1

1、「アルファス家」

とてもゆっくりと連載していきます。


更新も不定期ですが、気長に見ていただけると、ありがたいです。



1.アルファス公爵家


アルファス公爵家は国の中でも三本指に入るほどの名家。

その由来も、昔から歴史ある家だから…と言うだけではない。

アルファス家は、公爵家には珍しく、商いをしていた。

それは、アルファス家の2代目公爵が始めたこと。

そして始めた商売は、一般庶民にお馴染みの食事処。

レストランである。


「いらっしゃいませ。本日のおすすめは白ワインに合う、白身魚のムニエルでございます。」

アルファス公爵家のお店、「セヂヴァン ビレッジ」の売りは、「すべての国民に、階級関係のない食事を」と言う理念。

また客層も一般庶民から、高貴な子爵、伯爵、そして公爵まで幅広く来店する。


「わたしくと、そこの農民が同じ店内にいるなんて。」

そんな子爵、伯爵、公爵達の為に、別室を用意し、それぞれがすれ違わなくて済むように、サービスが行われるのも、人気の一つ。

一見、差別しているようにも思えるが、その気遣いのお陰で、一般庶民達も、貴族達と同じ様な食事を気兼ねなく楽しめる。

また金額も、一般庶民にあわせて、良心的となっている。

しかし、だからといって味を落としているわけではなく、常に食材には拘っている。

確かな味の料理を振る舞う「セヂヴァン.ビレッジ」に、高貴な生まれの貴族達も舌鼓を打ち、低額な料金設定はもったいないと、多めに支払いをしていく者が多いほどだった。


そんな商いを始めて、アルファス公爵家も8代目の当主を迎えていた。

8代目の当主、ジェリス.アルファスには、三人の子供達がいる。

長男のココリコ.アルファス。

次男のルクス.アルファス。

そして、末の娘であり、長女のルミアーナ.アルファスである。


三人は三様な性格で、それはアルファス家を象徴していた。

元々、二代目当主が自由な考えの持ち主であったことから、始められたレストラン経営。

それを続けてこられたのも、歴代当主達が、二代目と同じ様な考え方をしていたからであり、その思想はジェリスの子供達にもしっかりと受け継がれていた。


長男、ココリコは、学生時代に始めた薬草の研究に没頭し、次男、ルクスは色んな土地に興味を持ち、旅を続け、末の長女、ルミアーナは16歳になり、お洒落に目覚め、ショッピングを日々楽しんでいる。

そんな趣味も興味もバラバラな三人に、ジェリスは頭を抱えていた。


「うちの店を継げるものはいるのだろうか?」

それがジェリスの悩みの種。

ジェリス自身、店を継ぐために、学生の頃から経営学を学び、調理や食材に関しての知識も同時に身に付けてきた。

しかし、ジェリスの子供達は、それぞれ良い年であるにも関わらず、アルファス家代々続くお店に対して興味を示さなかった。

ジェリスは、続けてきた「セヂヴァン.ビレッジ」を畳まなければいけなくなることへの不安を抱いていた。


「来店してくれるもの達は、皆、ここの味を失いたくないと思っているだろう。」

そう思うと、跡を継ぐものがいないこの現状をどうにかしなければと思うのだった。


「お父様!わたくし、新しいドレスを作りたいのだけれど。」

そう言って、末娘のルミアーナが、父ジェリスの部屋へと訪れた。


「ルミアーナ、ドレスはこの間、注文したばかりだ。また、新しいものを新調するのかい?」

「はい!だって、この前注文したドレスとは、用途を分けたいの。」

「どんな風にだ?」

「この前注文したドレスは普段使い様だけれど、今回仕立てたいのは、乗馬の最中も使える裾の短めのドレスですわ。」

キラキラと目を輝かせて語るルミアーナにジェリスは、ため息しか出なかった。

「乗馬など、専用の服があるではないか。」

「だって、乗馬の服は、色も少なくてお洒落じゃないわ!わたくしは、乗馬の時もかわいい姿でいたいの。」

(16歳とは、自身を飾り付けたい年頃かも知れないな。)

ジェリスにとって、ルミアーナはかわいい娘。

その娘に頼まれたら、ダメだと言うのも言いにくい。

それにアルファス家では、唯一の女の子。

かわいくて仕方がないのもある。

だからこそ、ジェリスはルミアーナの願いを叶えてしまうのだ。



数日後、新しいドレスを身に纏い、ルミアーナは、嬉しそうに馬に乗った。

自身が細かく指定したかいあって、ルミアーナの満足行く仕上がりの乗馬様ドレス。

自然とルミアーナの気分も上がっていた。


「お嬢様!お急ぎになっては行けません!危ないですよ!」

そう注意してくる、乗馬の先生ナダルの声も聞かずにルミアーナは馬を走らせた。

屋敷を出て、町へと続く道を馬で駆ける。

外の風が時に優しく、時に刺激的にルミアーナの体を包む。

ルミアーナは家で勉強をしている時よりも、こうして外に出て自由に行動できる方が好きなのだ。

しかも今日はお気に入りになったドレスを着ている。

気分は高まるばかり。

そんなルミアーナの目に、町の景色が見え始めた時、アクシデントが起きた。


「危ない!」

ナダルが叫んだ時には遅かった。

ちょうど交差点になっていた道に差し掛かった時、ルミアーナは町が近づいてきたことに気を取られ、横道から現れた荷車に気付くのが遅れ、避けようとして、無理に馬の手綱を自身に引っ張った事により、落馬してしまった。

そして、荷車を引いていた相手も避けきれず、後ろに高く積まれていた荷物を地面にぶちまけてしまった。


「お嬢様!」

ナダルは馬を降り、急いでルミアーナに駆け寄った。

幸いルミアーナは、落馬の際、ナダルから習っていた受け身によって、怪我はしていなかった。

しかし買ったばかりのドレスは土がつき、汚れてしまった。

「せっかくのドレスが。」

ルミアーナは肩を落とし、付いてしまった土を落としていた。


「おい!どうしてくれんだ!」

その声にルミアーナは、はっとなって、声の方へ向いた。

そこには、ルミアーナがぶつかりかけた荷車の持ち主の男が、眉毛を吊り上げ、仁王立ちしていた。

「すまなかった。しかし、その口の聞き方は、いかがかな。こちらはアルファス公爵令嬢のルミアーナ様だ。」

ナダルはルミアーナの前に立ち、荷車の男に言った。

「だからなんだってんだ。これを見ろ!」

そう言って男が指差した先には、割れたビール瓶や袋からこぼれてしまった小麦粉、たまご、コーヒー豆などが散らばっていた。

回収したところで、使い物にならないのは、一目瞭然だった。

「ごめんなさい。」

ルミアーナはナダルの横に並び、男に向かって頭を下げた。

すると、男は驚いた顔をした。

公爵令嬢が自分の様な下の身分の者に頭を下げるとは思わなかったのだ。

「あなたは食べ物を扱っているの?」

ルミアーナはぶちまけてしまった物を見て、そう聞いた。

「そうだ。町で店をやってる。買い出しから帰る途中だよ。」

「それはごめんなさい。良かったら、弁償させてくださらない。」

「そうしてもらわなければ、困るさ。」

男は、頭を掻きながら、困り顔で答えた。

「お店の名前は?」

ルミアーナが聞くと、男は躊躇いがちに答えた。

「アメリア.カフェ」

それを聞いてルミアーナは、目を大きく開いた。

そして、両手を合わせて興奮気味に言った。

「まぁ、なんてかわいいお名前なの?!」

そう言われ、男は気恥ずかしそうにルミアーナから視線を外した。

お店の名前は女の人をイメージさせる。

男は、力仕事をしているのかと思うほどしっかりした体つきをし、男らしい太い眉毛の下には、キリリとした目が狐の様につり上がっていて、店の名前の印象とは正反対の見た目だった。


「店内はどのような雰囲気かしら?看板は?きっと可愛いんでしょうね。」

ルミアーナは興味津々で男を質問責めにした。

しかし男は公爵令嬢のルミアーナが自分の様な身分が下の人間のお店に興味を持つ事に違和感を覚え、からかわれているのではと感じ、ルミアーナを睨み付けた。

その視線に気づいたルミアーナが不思議そうな顔をすると、男は不機嫌にこう言った。

「あんたみたいな、世間知らずなお嬢様には、なんだって物珍しいだろうさ。どうせ、陳腐な店だろうとバカにしてるんだろう。」

「そんなこと…。」

ルミアーナは否定するが、男はルミアーナを一瞥して、残った荷物を紐できつく結び直すと、さっさと歩き出してしまった。

「あの…。」

男のとりつく島のない雰囲気にルミアーナは焦り、声を掛けようとしたが、男は振り返ることなく、その場から立ち去ってしまった。

残されたルミアーナは、去っていく男の後ろ姿を見つめることしか出来なかった。


(なぜあんなに怒ってしまわれたのかしら?)

ルミアーナは、先程の荷車の男の事を考えていた。

どんなに考えても、男が怒った理由が分からない。

ルミアーナは、まだ見たことのない、お店の様子を想像してワクワクしていた。

しかし、それを伝えると男は怒ってしまった。


「ルミアーナ、考え事かい?」

父、ジェリスの声に、ルミアーナは我に返った。

顔を上げると、ジェリスが心配そうにこちらを見ている。

「ごめんなさい。お父様。」

ルミアーナはそう言って、目の前に用意された食事にナイフを入れた。

(いけない。食事中に考え事をしてしまった。)

今はアルファス家のディナータイム。

家族全員が揃って、食卓についている。


「ルミアーナが考え事なんて珍しい。」

そう言って、次男のルクスは笑った。

「失礼な。わたくしだって、考えること位ありますわ。」

「お前は、気分の赴くままに行動してるだろう?深く考えている姿なんて、見たことないぞ。」

落ち着いてルミアーナを分析したのは、長男のココリコ。

「気分の赴くままに行動してるのは、ルクス兄さまよ。突然どこかへ旅だたれるじゃない。」

「僕は旅に出る前に、きちんと下調べをするし、出発前には、お父様とお母様に許可を得ている。無鉄砲なお前とは違うよ。」

ルクスはそんな皮肉を言うが、自分よりも4歳下のルミアーナを可愛がっている。

それを証拠に旅先で必ずルミアーナの為にお土産を買ってきていた。

「まぁ、気楽さで言えば、ルクスが一番だけどな。」

長男のココリコは、少し冷めた口調でルクスに釘を刺すが、実際は感情を表に出すのが苦手なだけで、一歳違いのルクスが、旅に出ることを羨ましく思っている。

その事をルクスに言うと、「一緒に旅に出るか?」と冗談交じりに誘われる。

しかし、内向的なココリコは馴染みのない土地が苦手だ。

そんなココリコの性格を知った上で、ルクスはからかってくるが、兄弟仲は良い。

「どちらも、自由度は変わらないわ。」

三人のやり取りを黙って聞いていた母親のメルダが、話をまとめたところで話題は違う方向へ向かった。

「時代は変わったのかしらね?歴史ある公爵家の人間が、自由奔放に生活しているのだもの。」

「ほんとに。」

メルダの発言にココリコが深く頷く。

「ココリコ、あなたもよ。本当はお父様のお店を継ぐための勉強をしなければならないのに、趣味の草に熱中して。」

ココリコは思わぬところで話の矛先が自分に向いたので、もくもくと食事をとり始めた。

その様子にメルダはため息をついた。

長男であるココリコと、母親のメルダのこのような会話は、時々訪れる。

その度ココリコは、黙ってやり過ごすことを覚えた。

そしてメルダもココリコに何を言っても無駄なのは、とっくに気付いているので、それ以上は言わないようにしている。

それにあまり言いすぎて、ココリコが部屋にこもってしまわないかと心配な面もあった。

「兄さんは社交的ではないし、商いは難しいよ。きっと。」

ルクスは兄に助け船を出した。

「あら。あなたでも良いのですよ、ルクス。」

「僕はダメです。話好きが講じて、きっと客人にずっと話しかけてしまう。それでは落ち着いて食事も出来なくなりますよ。」

ルクスはメルダの切り替えしに慣れていて、冗談で返す。

メルダはそんなルクスを、次男であると言うこともあり、跡継ぎとしては諦めていた。


ルミアーナは、母と兄達の会話を聞いていて、思うことがある。

(男の方は大変ね。)

兄達と母親のやり取りを聞いていると、家を継ぐのは男の役目という方程式がルミアーナの中でも出来上がっていた。

(お兄様達はご自由で居たいのに、それが普通ではないなんてね。)

そして想像してみる。

もし長男のココリコがお店を継いだらどうなるのか。

他人と関わるのが苦手なココリコに、にこやかに客人をもてなす父の様な姿は想像がつかない。

きっと、上手く話せない自分に嫌気がさし、部屋にこもってしまうのではないか。

では次男のルクスはどうか。

こちらは、客人の女性達に囲まれて上手に相手をする姿が想像できる。

しかし、経営となると、父の様に書斎にこもり、沢山の帳簿を座って管理する姿が想像できない。

そして、ルクスもお店という狭い空間に嫌気がさし、どこかへ飛んで逃げてしまうのではないかと思える。

(お兄様達には向いてないわね。)

ルミアーナは密かにそう思っていた。

(あの方はどうなのかしら?)

ふと昼間にぶつかりかけた、荷車の男の顔が頭をよぎった。

一見すると父の様なにこやかな顔が想像できない。

それに、すらりとした父の立ち姿とは違い、固そうで筋肉質な大きな体はいわゆる執事向きではない。

(でも、ご商売をされているのだから、きっとお店に立たれるわね。)

そう考えるとルミアーナは、荷車の男が店にいる姿を見てみたいと思った。

それに、「アメリア」と言う可愛らしいお店の名前も気になる。

しかし、会いに行くには理由が必要だ。

(荷車の荷物をダメにしてしまったし、怒らせてしまったこともあるし、きちんと謝らないとね。)

ルミアーナはそう考えが至り、近いうちに荷車の男の店を訪れる事に決めた。


ルミアーナは、荷車の男とぶつかり掛け、迷惑を掛けてしまった事を、ジェリスに説明した。

すると、ジェリスは驚いてルミアーナの体の心配をしてくれた。

なので、ルミアーナは自分は見ての通り、無事だったと笑顔を見せ、ジェリスを安心させた。


「その荷車の人物に弁償したいのだね。」

ルミアーナが経緯を説明するとジェリスは、同じ商いをするものとして、食材の大切さを思い、深く頷いてくれた。

「ならば、必要な物を用意させよう。」

「お父様。ありがとう。」

ルミアーナは、父の理解に感謝した。


次の日、ルミアーナは事情を知るナダルと共に町へ向かった。

今回は荷物もあるので、荷物用の馬車を一台と、自身が乗り込む馬車の二台で出掛けた。

(あの方は、まだ怒っていらっしゃるかしら?)

ふとそんな不安がルミアーナの心に現れた。

怒っていない訳がないと思う反面、店の名前を言うときの恥ずかしそうにしていた男の顔がよぎり、もしかしたら優しい人かもしれないという期待もあった。

ルミアーナの中で、荷車の男の恥ずかしそうにする顔と、怒ってしまった顔が交互に浮かぶ。

(お店にあんなに素敵な名前をつけられる方だもの、きっと精一杯謝れば分かってくださるわ。)

ルミアーナにはなぜがそんな自信が沸き上がってくるのだった。

読んで頂き、ありがとうございました。


ゆっくりゆっくり、不定期連載ですが、よろしくお願いします。

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