プロローグ
僕はどうしようも無いぐらいに女性が苦手である。元々シャイな上に口下手な僕は女性の口説き方おろか、女性とどう接していいか分からないのである。そんな僕に青春の春なんて訪れる訳がない。二十何年生きているが、恋愛と言う物に一切関わりが無かった、縁すら無かったなんて!勿論童貞です(涙)。
申し遅れました紙添真也と申します。24歳の平凡な会社員です。何処にでもいる特に特徴の無い男性会社員です。
だが今冷静に考えてみればそれは僕自身の責任の結果である。僕自身そう言った恋愛とか恋とかに敢えて歩み寄らなかったからだ。自らそう言った感情、場から遠ざかったのだ。無意識だったかもしれない、あるいは無関心だったかもしれない。はっきり言えるのは昔の自分は自分の殻に篭り自分が傷つくのを恐れていた臆病者だったと言う事だ。今もそれは変わらない。もし少しでも女性にアプローチをかけたり、積極的に女性と接していれば彼女が出来たり、あるいは女性への免疫も多少なりとも付いたかもしれない。
こんな事を言っても後の祭りだが…
大きな要因の一つとして言えるのは僕は自分に自信が無かった。太っていて、自分はなんて醜いんだろうと子供の頃から思っていた。だから僕は変わらなければいけなかった。いい加減自分の殻に篭るのに飽きた。内側に潜む僕が強気に殻を叩き始めた。「おい!いつまで俺をここに閉じ込めとくつもりだ!ここから出せ!もう殻の中は散々だ!」
それは僕の利己的中心、エゴの悲痛なる叫びだった!その時僕は我に返った。
「変わらなければいけない…」
僕は一大決心をした。ダイエットだ。職場の先輩から聞いていて興味があったのだ。前々からダイエットは考えていたが長続きしない、実用的ではないとずっとやって来なかったが、僕の先輩のダイエットは実用的で現実的に思えた。なによりとても説得力があった。彼自身すらっとしていて、とてもスマートでハンサムだった。彼から色々アドバイスをもらい、常日頃から僕を気に掛けてくれ励ましてくれた人だ、言うなれば彼は僕の恩人だ。
そして苦節8ヶ月僕は35kgの減量に成功した!自分で言うのもなんだが、僕は生まれ変わった様な気分だった。その得もいわれぬ達成感、湧き上る感激と歓喜は今までの人生で感じた事の無いほど強烈だった!鏡を見て以前の自分とはまるで別人だった!人生で初めて自分で決心して成し遂げた偉業だった!
だがこれはまだまだ序の口である。
確かに痩せて以前よりは見栄えの良い格好になったがまだまだ格好良くは無かった。次のフェイズは筋トレだ。筋肉隆々、もっと自分が裸でも誇れる体を手に入れなければいけなかった。僕は先ず筋トレを始めるに当たり知識を先ず求めた。ネットや動画などを見始め分かった事はとても重要だった、それは筋トレがとても奥が深いと言う事である(尤もこれは何にでも言える事である)。正しい食生活、正しい筋トレの仕方、習慣、睡眠時間等々得た知識は計り知れない!
筋トレを始めてもう半年経過した。まだ脂肪は完璧に削ぎ落としてないが十分なぐらいの筋肉と自信はある!後はこの自信を実践出来るかどうかの問題だ!何の実践か?勿論女性をおデートに誘う実践です!実は僕には気になる女性が職場にいるんですが中々おデートのお誘いに踏み切れ無かったんです、先述したとおり自分に自信が無かったからです。ですが今は自分に自信があります、誇りすら感じる程です。
後日会社に出勤する為の支度を終え、朝ごはんの食器等を洗ってました。テレビはいつもの朝のニュース番組を流してました。今日は僕にとってとても重大な日なのです、何故なら今日僕は意中の女性に告白しょうと思っていますから!そんな意気込みも尻目にニュースを聞いてました。今日も概ね平和だろうと最後の洗い終えた食器ラックに置き終えた瞬間でした。「臨時ニュースが入りましたっ!!」テレビの切羽づまった声が乱入した。それは朝の落ち着いた清清しさとはまったく相容れない様子だった。番組スタッフから新しい資料の様な紙を渡されキャスターがそれを朗読する前に一瞬目を通したそしてほんの一瞬表情が歪んだ、がすぐ表情を戻し、姿勢を正しながら臨時ニュースを読み始めた。
「只今入って来たニュースです!今朝世田谷区XX市集合住宅で23歳女性が変死体として発見されました。第一発見者はそのアパートの大家さんで、三日程前から連絡が着かず今朝様子を見に行ったところを亡くなって居る所を発見しました。無くなった女性、本田佐代子さんは…」ここでキャスターは一息休憩を入れたまるでこれから読まなければいけないニュースと向き合うかの様に。
「本田佐代子さんは干からびた状態、まるでミーラの様な状態で絶命していました…」
ミーラ?干からびた状態?それはあまりにも非日常的な死の状態でした。それはまったく死因、あるいは死体の状態を想像出来なかった。実物を見なければ現実味も信憑性も無い様な話だった、だがニュースでは死体の画は流されない、それはそうだ、お茶の間にはセンセーショナルすぎる。ニュース画面はその亡くなった女性のアパートを移してた。そこでは記者や警察、野次馬でごった返してた。アパートから担架に乗せられ、白い布で包まれた死体が担ぎ出されてた。僕はそこでテレビの電源を切った。出勤の時間もそうだが、何よりこれ以上この悲惨なニュースを見て憂鬱な気分に落ちたく無かった。折角の気持ち良い朝が台無しになりそうだった。今日は僕にとって大事な日なのだからと気持ちを切り替えて僕は荷物を取り、戸締りをしっかりして家を出た。
僕はその日ー金曜日ーの退社時間にその意中の女性をお誘いしょうと決意しました。その日の仕事はまったく捗りませんでした。一日中その女性とその人へのお誘いの文句の事ばかりを考えてました。常に頭の中はその事でいっぱいでした。その内頭痛がするほどでした。眩暈も覚え、頭がぐわんぐわん揺れて、喉も頻繁に渇きました。まったく給料泥棒もいい所でした!きっと恋をすると言う事はこう言う事なんだろうと二十歳以上を過ぎて思い知らされました!我ながら情けなくも初心だと思いました。
時間は無常にも流れました、自分がお昼ご飯を食べたかも定かでは無いほどあっという間に流れました。気が付けばもう夕方でした。いつの間に退社時間が近づいている事にびっくりしました!迫るおデートのお誘いの事を考え心臓が体を張り裂けんがばかりに鼓動しました、今迄に無いほどの脈拍でした。どくん、どくんと耳障りなぐらいの鼓動に汗が追いつかない程体中が火照りました。
「落ち着け自分!心頭滅却すれば火もまた涼しいと言うじゃないか!動揺するな!緊張を抑えて、大丈夫お前は頑張ったじゃないか。これまでの努力をとうとう実践する時が来たんだ!失敗を恐れるな!お前はやれば出来る子だ!当たって砕けて来い!」
内に潜む僕に鼓舞されながら僕は深呼吸を繰り返した。定時のベルが鳴った。僕はすっと自分の席を立ち、意中の女性のいる部署の方へ歩いて行った。足は辛うじてもたつかない様にするのに精一杯だった。喉はカラッカラッだった。だが僕は前進しました。意中の女性を目指して!
結論を申し上げますと…駄目でした(涙)
僕の渾身の告白、基おデートのお誘いは見事に撃沈しました。お誘いってあんな真顔でお断り出来るんですか?眉毛一本ゆれませんでした!僕を真っ直ぐ見ながら彼女はこう切り出しました。
「ごめんなさい、タイプじゃないの。私たちは友達でいましょう」
何てシンプルな!感動すら覚えそうです!まったく眼中に無いと言う事ですかね?告白何てされた事が無い、基女性にもてた事の無い僕からしたらどうやったらあんなに冷静に対応出来るんでしょうか?悲しさのあまり萎れて、渇いて夏の終りのヘチマの様に消え入りそうです。同僚に心配されて「大丈夫か?」と聞かれる始末でした。
僕は何度目か分からない深いため息を洩らし帰路に着きました。
「晩御飯の買い物しないと…料理する気が起きねー…はぁー」
如何、如何!このままずっとめそめそして居てもしょうがない!今回はご縁が無かっただけんなんだ!まったくと言うほどご縁が無かったんだっ!(自分で断言して自ら傷口を抉ってどうする!?)落ち着くんだ!次だ、次を目指して頑張るんだ!けど次なんてあるかな?自分で言うのもなんですが、僕はある特定の顔を持った女性しか好きになりません。美人かどうかは実は僕にとってあまり重要では無いのです。ただある特定の特徴を持った女性が好きなんです。今日僕が振られた女性も正に僕が好きな顔、特徴を持っていました…
僕はロマンチストで、未だに運命の出会いなどを期待しているのです。我ながらお恥ずかしい話ですが、これが二十何年恋愛をして来なかった人間の恋愛観の一端です。僕は未だに恋愛は甘美で素敵な事だと信じているんです。世間では芸能人の不倫や離婚などが常日頃ニュースを流れます。人間は汚く、矮小で愚かな生き物だと重々承知しています。それでも信じたいんです、人生一度だけでも素晴らしい恋愛が出来ると!!で無ければこの数年間の僕の努力は報われず水泡に帰してしまうでしょう!それだけは免れなければ!それでも今夜は陰鬱な気持ちは拭えそうにありません…とほほ…