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大きな木の下で

作者: 雨世界

 大きな木の下で


 登場人物


 立花いおり おてんばな女性 二十歳


 大葉ゆずき やさしい男性 二十歳


 プロローグ


 ……恋をすること。


 本編


 ほら。こっちだよ。早く早く。


「きゃ!」という声と一緒に木の上から立花いおりが大葉ゆずきの上に落っこちてきた。

 いおりは木登りがしたくなって、急に木に登りだして、小学校の校庭にある大きな木に咲いている綺麗な花をすぐ近くから、一人でじっと眺めていたらしい。

「ごめんなさい。大丈夫?」といおりはいった。

「……うん。たぶん、大丈夫だと思う」とゆずきは頭を撫でながら君にいった。

 それがゆずきといおりの初めての出会いだった。


 二人の年齢は十歳。

 今の二人は二十歳。


 あれから十年の月日が流れたことになる。二人は子供から大人になった。さなぎが蝶になるように、自然と体が変化した。

 だけど、心はどうだろう? 僕たちは大人になれたんだろうか? ちゃんとした成熟した心を持った大人になれたんだろうか? (そもそも、成熟した心ってなんだろう? そんなことも大人になったゆずきにはよくわからなかった)


 木の下で、尻もちをついているゆずきを見ていおりはとても楽しそうに笑っていた。ゆずきがいおりに恋をしたのは、思わず木に登ってしまうような、ずっと笑顔で幸せそうな、自由な心を持ったいおりが、本当に綺麗だと思ったからだった。


「どうかしたの?」

 一月の寒い、青空の下で、晴れ着姿のいおりはゆずきを見てそういった。

「実は、いおりに言いたいことがあるんだ。とても大切な話なんだけど……」とスーツ姿のゆずきは少し照れながらいおりにいった。

「え?」

 思わず顔を赤く染めて、いおりはゆずきにそういった。


 ゆずきといおりがいる場所は成人式の会場だった。

 ゆずきはその日、その会場の片隅にある人気のないベンチの上で、いおりにもう一度、愛の告白をして、そのまま結婚を申し込んだ。

 その結婚の申し出を「……うん。いいよ」と言って、恥ずかしそうに笑いながらいおりは受け入れてくれた。

 結婚の話をしている間、ずっとゆずきといおりは手をつないだままだった。


 その年の暮れに、ゆずきといおりは結婚した。

 二人は去年から空き家になっているゆずきのおじさんとおばさんの家に住むことになった。

 広くて立派な庭のある一戸建ての古い建築の家だ。

 その家は、おじさんとおばさんが同じ時期に亡くなったときから、ゆずきが両親から住んでもいいと言われていた家だった。

 もし、いおりと結婚をして、二人で、おじさんとおばさんの家に住むことができるようになったら、その広い庭に、ゆずきは一本の木を植えるつもりだった。

 将来、生まれてくる子供たちが木登りをしても大丈夫なくらい大きくて立派な木を植えるつもりだった。(もしかしたら、大人のいおりが木登りをしても大丈夫なくらい立派なきでないといけないかもしれないけれど)


 気持ち良さそうな顔をしながら、疲れて居眠りをしている晴れ着姿のいおりを車の横に乗せながらいおりの家に向かってる途中で、ゆずきはそんなことを考えて一人、にっこりと笑った。


 いおりは眠りの中で、子供のころに初めてゆずきと出会った日のことを、一人、夢に見ながら、思い出していた。


 花盛りの君に


 大きな木の下で 終わり

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