人の話しを聞け
適正診断、性格診断。
科学的に分析され、その事の適正は正確なモノであろう。
己を知れば、新たな成長もあるわけだ。
「宮野さん、あなたは人の話しをあまり聞きませんね」
性格を知る事は、多くの事を知れる1つ。
己を知れば、これから行なう仕事についての分析もできるし、より適した方法もあるわけだ。
「とても真面目。……愚直であり、己の価値観を大事としているのは素晴らしい事ですけれど。他の事を疎かにしておられますよ。こーいうことですと、集中力を欠いたミスが増えましてね。情緒不安定であるため、これらを意識していただき、生活とお仕事をしていただくことが……」
親切丁寧にこの手を実施している人は、回答者に答えているのだが。
多くは特別。矛盾なりオカシイとかは感じないのかもしれない。
宮野は回答の紙を少し見ただけで丸めてしまい、
「なー、3つ聞いて良いか?」
「はい?」
これやる意味あんの?
そーいう顔をしながら、宮野健太という男は言う。
「1、俺は話しを聞かないって分かってるのに、なんで話をする?無駄なの知ってるだろ?」
「…………それでも診断結果をお伝えするのが、役目ですから」
「2、最初は真面目とか回答してるくせに。後半はまったく、真面目じゃない奴が起こす問題じゃねぇか?情緒不安定って、真面目って意味だっけ?俺、常識的な国語を知らないんだけど?みんな、そう思ってるわけ?」
「誤った解釈と言うと。あなたには良く伝わらないので、……あなたの価値観が独特な事だと思いますよ。そーいう価値観を持つのは素晴らしいと思います」
「3、価値観が素晴らしいってなんだよ?」
「他が持っていない考えを持っていらっしゃるという事です。常識から見たら、あなたは皮肉にしか思えませんかね」
「だな」
あー、もういいです。反論はない。じゃなくて、伝わっていないんだろう。
彼からしても、診断書を持つ医師からしても。住んでいる世界が違っているようなもの。数多くのデータでとられた人間達のデータの中でも、まったく得体の知れない生物ってところ。
反論を反論で返すこともなく、反論をちゃんと受け止めているわけでもない。
反論を理解しない。しようとしない。人間的な感情がないと、残酷に言ったら、そーいう人物。
「あまり無理されると、お身体に触りますよ」
「じゃあ、俺の邪魔をする事なく、働け。それだけだよ」
「それが上手くいかないんでしょ」
「上手くいかないんだからな。知恵もなく、口だけはそー言えるんだよ。代わりを連れて言うんだな」
これじゃあ、このテストをやる人も要らない扱いだ。
まったく、困った人だ。
現実でどうこうならないからって、諦める選択肢を入れてないわけではなく、続行するとかいう異常思考。逃げ出せばいい。忘れればいい。そーいう考えというのが、おそらくない。これが集中力を欠く原因にもなっているのだが。
バタンッ
宮野が部屋を出てから、ボヤいてしまう。
「……普通、こんな人。会社で雇わないんですけどね。どーいう神経、どーいう身体をしてるんだか」
大企業でもなく、中規模ほどのゲーム会社のプログラマー。
個人技でもないし、人との協力が必要でもありそうなところで。必死に働いてもらえる報酬に喜べるものを見出せないのに。その仕事を続ける意味が、人として理解することはできない。
思考から壊れてる人間で、どんな話しでも聞かないだろう人間を
「大切にしてることの為だけに、動いてるとかねぇ。どーいう人なんだ、彼」
診断の一部より抜粋。
『あなたは自分の価値観を捻じ曲げず、どんなことでもやり遂げようと自分の犠牲を考えないタイプです。周囲にはもっと助けてもらうよう伝えた方がいいです』