50予想された戦力外
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「どうするつもりだ。触角」
「何で僕に聞くんだよ」
人に意見を聞く犬草が珍しく、燈香は不審げに聞き返した。戦いの余韻に水を差す形で行われた放送で肩の力が降りた三人。しかし、話の内容からすればとても気の抜ける内容とは言えなかった。
「最終的にアタッカーになるのはお前だ」
「ーーお前だって戦えるだろ」
今までとは打って変わって主導権を渡す犬草に強気な口調で言い返す。何故ここまでらしくないのか燈香は内心確信していた。しかし、上っ面では理解できていないように振る舞い、犬草にとって残酷な言葉を言い放っていた。
そこで犬草は普段の気丈な雰囲気からかけ離れた表情で弱々しく首を降った。
「分かるだろ。俺はここで脱落だ。まともに腕一本動かせない」
「……っ。だからって一人悠々離脱をするつもりじゃないよな」
「違うとは言えないな。悠々ではなく、苦汁を飲んでの離脱だが……。言っただろう。動けないんだ。立って付いていくことさえままならない。だから俺を置いて残りをやりにいけ。お前らならずる賢く勝てるだろ?」
渋い顔に微かに歪めた口を張り付ける。
最後に皮肉を添えるのはおそらく、同情や迷いを僕たちにさせないためだろう。だが逆にその配慮がまた癪に障ると言うか、気にかかると言うか……。
答えを口にすることなく燈香は猫のように腹をさらけ出して寝転んだ犬草をまだわずかに残る能力の力を利用しつつ持ち上げ、背負った。
「おい!なにやってんだ?下ろせ」
子供のように手足をばたつかせる犬草を燈香は落とさないようにしっかりと掴む。
「お前だから『チームだ』とかそんな事は言わないけど、置いていくのはなんかお前の思う壺みたいで腹が立つ」
「そうよ!なに勝手に一人でやりきったー、見たいにしたり顔でひたってんの?まだ二人も居るんだから!それに体は動かせなくても頭ぐらいは使えるでしょ」
耳元で微かに笑ったのがわかった。恐らくはさっきの不細工な作った笑顔ではなく、自然に漏れだした笑顔だろう。
正直プライドがどうとかでまた一悶着あるかと思った。しかし案外聞き分けはいいようだ。もしかしたら、本当にもしかしたらなのだがそれなりに返り人を認めてくれたのかもしれない。もしかしたらだけど……。
「全く、重労働だな」
「頭使わないなら囮でもいいけど」
真顔で迫る結菜に身の危険を感じたのか、犬草は軽口をしまい本題へと方向変換した。
「分かった。分かった。でどっちに行くんだ?」
欠けた戦力も問題だったが、結局のところそっちが最重要だ。と言っても決めかねている訳じゃない。現に燈香はどちらに向かうかは放送直後に決めていた。なので今燈香の頭の中での問題は、『どちらか』ではなく『どう説得するか』だ。
思案顔で結菜を見つめる。結菜は決断を迫ると言うより、期待の眼差しを向けている。それだけ頼られているのが少し誇らしくて、少し恥ずかしい。背後からも、張り詰めた空気を感じる。この感じだと、僕の言うことは絶対信用で着いてくる。なので答えは明確に慎重にだ。
「赤城さんを狙おうと思ってる」
「はぁ!?」
結菜が銀髪を激しく揺らしながら驚愕の表情を浮かべる。まぁ、そうだよね。正しい反応だよ。悪い意味で期待を裏切った感じかな。
動揺を見せた結菜だったが長い睫毛の生えた瞼をゆっくりと瞑り、一呼吸置くと直ぐに落ち着きを取り戻した。一ヶ月の間京香と共に過ごした成果を素直に感心する。自分であれば京香と一週間でさえも一緒の空間に二人きりになることは出来ない。
落ち着きを取り戻した結菜は、静かに口を開く。
「……理由は?」
「いくつかあるけど一番は一対一で戦えることかな」
「何言ってるのよ!さっきチームで戦う方針に決まってなかった?それなのに一対一って。燈香までそんな奴だとは思わなかった!」
プイッと完全にそっぽを向いた。後ろからでも頬を膨らませているのがわかった。けれどその様子に恐怖を感じたりはしていない。ただ単純に可愛らしいなと下心なく思っていただけだ。
「成る程な。さっきの事か」
犬草が小さな声で呟いた。その言葉に燈香は少なからず動揺した。燈香の考えを意図も簡単に見抜いたこともだが、『さっきの事』が出てきた方が以外だった。てっきり二人だけの秘密だと思っていたのに犬草には既にバレているようだった。
「なに?私聞いてないけど!」
ほんの三秒前までそっぽを向いていた結菜が俊敏に回れ右して話に混じる。犬草にはそのリアクションを期待していたのだが……。よくも悪くも頭が良い。この流れからすると単純に頭だけではなさそうだが……。
「聞こえてたんだ」
そう断言してから、申し開きをするように二の句を続ける。燈香は内心やっぱりと呟いた。
「盗み聞きって訳ではない。生憎この体になってから耳だけはいいんだ」
そう言ってふっさりとした耳を仰ぐように動した犬草。それを燈香は振り返りながら横目で見ていた。
「それって聞かない方がいい話?」
「いや、いいよ。全員に話すつもりは無いけど当たり障りない人には話しても大丈夫」
「あの事件の関係性を考えているのなら、年齢からして大丈夫だろ」
「そうだね。ありがとう」
あの事件つまりは色欲事件。色欲に恨みがある者なら、同じ様に両目が変色する僕の存在を憎らしく思いさらには邪魔と感じるだろう。
だから話す人は選ばないと危険だ。恐らく柚木や七海が伝えたかった事はそう言うことだろう。
「僕は右目だけじゃなくて左目も色がかわるんだ」
「知ってた」
ん?今なんて……。
「知ってたわよ。そのぐらい。何回一緒に修羅場を潜ってきたと思ってるのよ。張間、白神、七海。あと夏休み初めのショッピングモールの田沼。その全部、私も一緒だった。だからそのくらい知ってるわよ」
「そう……なんだ」
知らなかったとは言え、そうやって聞くと自分がどれ程軽率だったのか染々と分かる。
「最初に気づいたのは張間の時。あの時は見間違えかと思ってたけれど、白神の時に確信したわ。でも燈香はそれに気付いていないようだったし」
「そうだね。最近になって知ったよ」
まさか自分よりも先に結菜に知られていたなんて案外自分の事は見えていないものなんだな。
「他の人は知ってるの?」
「私だけ。多分。張間の時は私だけだったし、白神の時も新木さんが助けに来たときには能力が切れてたみたいだったから」
「天岩戸に話したりも?」
「してないわよ!私だって燈香が話してほしくなそうなことぐらいわかるわよ……」
知っててここまで黙ってくれていたのか。本当に彼女には何度も助けられっぱなしだな。何かしらの形できっちりとお礼はしたいけど今は一言だけ。
「ありがとう。結菜」
「……どういたしまして」
そこで空気を読んで沈黙を貫いていた犬草が口を開いた。
「話に水差すようで悪いが勝算は?」
「あるって言いたい。前にお前と会ったときぐらいから華内さんと修行をしていたんだけど、その内容が運良く鬼ごっこだったんだよ」
「だから赤城指令に触れることが出来るかもと」
犬草は悩ましげに声のトーンを落とす。
「そう!でも素の僕じゃまだ無理だと思う。だから!」
「俺の能力を媒体にするってことだな」
「そう言うこと」
流石共闘しただけはある。言わずともある程度はわかるようだ。性格はどうであれ実力があるってことは理解できる。
そんな風に歩きながら話を続ける。ちなみにしっかりと北ではなく島の中央を目指しているが誰も止めはしない。
「奏班長じゃない理由はなんだ?」
「単純に僕の戦闘スタイルは近距離だから、素手の赤城さんと比べて奏班長は相手しずらいだよ。それに奏班長の方は僕たちが行かなくとも他の人が行くだろうし」
「そうだな」
「そうよ!一応陽さんも居るし、新田って人も居るんだから!」
いや、陽さんを一応って言った?同じ天岩戸のメンバーなんだけどな。日頃のセクハラ紛いの発言のせいで信頼を完璧に失っているだろうなー。一応今受験している三人の中では間違いなく最強なのになぁ。かわいそ。
そんな思考を巡らせながら燈香は徐々に赤城との戦闘に備えて神経を研ぎ澄ませていった。




