34 猫と犬
5
僕は地下二階からエレベーターで上がり一階に来た。やっぱり地下二階よりも一階の方が人の目がキツイ。燕と隼の差だろう。
この建物には燕と隼の二つの部門がある。天城自体には3つの部門があるのだがもう一つの鷹は髙い方の建物にある。鷹だけに…。
ちなみにこの建物では地下一階と一階が隼のエリアで地下二階のみが燕のエリアとなっている。そのため燈香の事を良く思っていない隼が多い一階では燈香は歓迎されない。
面倒ごとが起こる前に早くここから出よう。華内からも終わり次第すぐ帰るようには言われてるし。
白銀刀を手に急いで出口へ向かうが入り口付近でついに声を掛けられた。
「なに返り人がいっちょまえに白銀刀なんてもってんだ?それはお前たちを切る剣だろうが!」
図体の大きな男が強い口調で迫って来た。その口調から明らかに敵意があることが分かった。しかしこの場で、つまりは天城の敵陣のど真ん中で騒ぎを起こしたくは無かったため平常心で答えた。
「僕は天岩戸です。返り人と戦うために必要なものだし、二週間後にある部隊長認定試験にも必要です」
そこで男を含めた周りの人間だが笑い出した。
「がははっ!お前が部隊長?てめえの首から上には何がついてんだ?なれるわけ無いだろ。この前は俺らに助けられてやっと命が繋がったようなやつじゃねえか。そんなお前が部隊長笑わせんなよ」
「いえ、なります。僕はここの誰よりも強くなる。そのぐらいに強い意思でここにいます」
「ほ~う。そうか。ならまずはおじさんたちが相手してあげようかな?強くなりてんだろう?」
目の前の男や周りの男たちが剣を抜く。どうやらやる気らしい。それでも真剣を抜くなんてなに考えてるんだ。
「争うつもりはありません」
「あん?俺たちを越えるんだろ?これは争いじゃねえ。身の程をわきまえさせる教育だ!」
仕方ない。こっちも白銀刀で対抗だ。でもこの人数勝てるかどうか。
そんなとき目の前の男が後方へと吹き飛んだ。先程まで男が立っていた所にはピンと立った猫耳の付いた男がいた。
猫耳は人工的な物ではなさそうで時折ピクピクと動いている。
「雑魚がいきるな。隼の看板が汚れる」
澄んだ中性的な声の猫耳は男はこの場を納めにかかる。
「はっ!犬草。やっぱりてめえもそっち側だよな!同じ化け物だもんな」
「俺をこんなやつと一緒にするな。俺は雑魚じゃない。隼最強の返り人だ。なんならお前たちでこの力を証明してもいいぞ」
淡々と話す猫耳男のこの発言に周りの者が唇を噛む。そしてぶつくさと文句を言いながら剣をしまい散り散りとなり面倒事は終息した。
「ありがとうございました。お陰で穏便に片付きました」
「勘違いをするな。俺は返り人である俺に対しての非礼もあった。だから俺が出ただけだ。それに俺もお前は嫌いだ。お前のような雑魚がいるから返り人は目の敵にされる」
「それはただのとばっちりです!」
「いや違う。雑魚なら雑魚で大人しくしておくべきだ。じゃあな雑魚。精々、試験にはこないでくれ。返り人が弱いってレッテルが張られるのはごめんだ」
そう言って猫耳男、犬草は去って行った。これだけ言われても燈香は拳一つ上げなかった。それは怒っていなからではない。今も奥歯が欠けそうだ。額に血管が浮き出ている。それでも燈香は分かっていた。
僕は弱い。あいつの言うことに間違いはない。
でも絶対強くなって見せる。白神にもあいつにも勝てるように。見ていろ。この二週間で全員越えて見せる。
燈香の静かに灯った火に確かに油が注がれた。
6
「さて皆お疲れ。確か明日から結菜ちゃんと燈香くんは夏休みだね」
「うわっ。そうだった。色々あって宿題結局貰い損ねた」
怒られそうだけど休んでいて知りませんでした。ってことにしておこう。担任も今は不在だし、混乱に乗じればなんとかごまかせそう。
「大丈夫。燈香。取り寄せておいたから」
「取り寄せ!?」
折角夏休みは勉強に追われずゆっくりできると思ったのに…流石葛籠。抜け目なし。
「くそっ!」
「本音が出ているよ。燈香くん。それにどのみち部隊長認定試験の為に訓練で休みなんて無いよ」
「そうですけど伊万里さん…」
「そこでだよ皆!僕も正直ずっと訓練、勉強、仕事なんて馬鹿馬鹿しいと思ってるんだ」
「思ってるのね」
まあ、思ってそうだけど。普段から仕事しないし。いや、仕事しないならあんまり関係無いじゃん。
「だから、明日と試験後の一日は遊ぼうと思う」
「いい提案ね!私も最近色々と幼…不足して困ってたのよ」
そんなもの僕の知っている人間なら不足しない。例えそれが返り人でもだ。
「と言うわけで明日は皆でショッピングモールに行っておいで」
「なんでショッピングモールなんだよ」
「アニメのグッズもあるよ。それに後の方の休みには皆で海に行こうと思ってさ。水着でも見てきたらどうかなって」
「海!」
海なんて何年ぶりだろう。真っ赤に燃える太陽に身を焼かれ、潮風で夏を感じ、冷たい水で体を冷やす。最高だ!
「俺は海なんて!」
「別に無理して海に入らなくてもいいから。ここで空気を読まないなんて無しだよ」
「ぐっ」
「陽さん泳げないんですか?」
「泳げるに決まってんだろ!ただ苦手なんだよ…」
どうやら陽の苦手意識は相当なようだ。どこか苦し気に唇を噛む陽を見て流石にこれ以上は言及出来なかった。それは本人の問題で、少なくとも僕のような新米が口を出すことではない。
こうして若干一人を除いて乗り気な皆は明日に向けて少し早めに眠りに着いた。




