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天岩戸  作者: 細川波人
一章 artist
3/52

2 体力テスト

3

 ここで働くと決意してすぐ僕は葛籠に言われて地下にある修練場へと行った。

 中は思いの外広く草野球位ならできるのではないかと思った。床は黒く四角い面をグラデーションのように入り口から奥に向かって薄くなっている。壁はグレーで同じようにグラデーションが掛かっている。

 天井は白く、照明が埋め込まれ部屋だけで見たら捕まっていた時の部屋をお洒落にして広くした感じだ。

 

 だがあそこと比べると物や仕切りが多い。左の方は射撃場だし壁にはダンベルや警棒、銃などトレーニングに使う道具が綺麗に整列している。


 確かここでデータを取ると言っていたはず。


 取り敢えず足を進め近くに合った銃を手に取ってみた。黒い銃身は重く冷たい。慣れた手つきでマガジンを出して銃弾が入っているのか確認する。


「あんまり勝手に触らないで~」


 不意に空から降ってきた声にびっくりしてついマガジンを落とす。急いで拾って銃に装填して元の場所に戻す。


「ごめんなさい」


 葛籠は、ため息を付き本題の説明をした。聞いたところここで射撃と軽い身体能力のテストをするらしい。


 最初は射撃のテストのようで、射撃場の扉が静かな音を立て開いた。聞きたいことはあったのだが、葛籠に急かされ、エアガンを持って射撃場に入った。

 入るとすぐにテストが始まった。人の体を型どったパネルが行ったり来たり、動く物を撃つのは思いの外難しく半分当たったかどうかという結果だった。


 そして射撃場から出て腕立てや立ち幅跳び、学校でよくするようなテストをして修練場を出た。


 部屋に戻ると葛籠は相変わらずカタカタとパソコンに向かっている。


「お疲れ様。後は燈香の能力を教えて欲しいんだけど」


「そう。その事なんだけど正直よく分からなくて身体が変化してる訳でもないし、力が出るとかもなくていたって普通なんだ。変わったことと言えば天寿の表記の仕方だけ」


「おかしいな。普通分かるはずなのに。他の人は人が二足歩行する事を知っていたり鳥が飛ぶことを知っているように自然と頭の中に情報があるらしいんだけど」


 ただそう言われても全く実感できない燈香である。葛籠はそれ以上は聞かず、またキーボードを打つ。そして二分位たっただろうか。


「出来た。ほら見てよ」


 そう言われ画面を見る。僕の立体画像の様々な箇所に数値が表記されている。


「各数値が高いほどいいんだよ」


 そう言われても表記が三桁なので良いのか悪いのかよく分からない。


「ごめん基準が分からない」


「えっと基本は1000がマックスの値。一般人が平均200ってとこかな。で君が231。平均より少し上かな」


 それを聞いてほっとする。ぱっとしないけれど平均以上って言うのはテストであれ何であれ安心する。


「でも、返り人は平均400ぐらいはあるから結構弱いね。あれだったら僕とか彼みたいな事務職する?」


 平均値を下回ると異常なくらいむなしくなる。


「葛籠君。今外回りの人が少ないから事務は無しだよ」


 と一番奥に座った華内が言う。


「だそうです。ならおとり調査とか向いてるかもね」


「さっきからひどくない?せめてもっとオブラートに包んでよ」


「分かったよ。あたなにはこの仕事は向いておりません。他の仕事をおすすめします」


 口調はよくなったが内容は悪くなった。


「冗談。あまりへこまないで。いい情報もあるから」


「いい情報?」


「返り人は肉体が強化されて生き返るんだけどその強化の幅が少なければ強力な能力が出る可能性が高い」


 そんな典型があるのか。覚えておこう。


「となるとこれからは京香とチームを組むことになるかな」

「あの変態さんと!何で?」


 確かに力は強かったが他にもそう誰かいるはずだ。そんな思いもむなしく、葛籠は乾いた微笑を溢し説明しだす。


「戦力的に一番弱い人と動ける人の中で最も強い京香をチームにするのは正しい判断さ」


「いや、でも面識があるあの二人とか。……そう!崎村さんは男の人だしすぐ打ち解けられそうじゃない?」


「ダメダメ。数値で言うと結菜は346で陽は402。それに比べて京香は679。単純な戦力でも上だし、能力的にも新人の君が犠牲にならずにすむような利便性に富んだ能力だし。ついでに打ち解けることなら最も向いてる」


「でも……」

「人間性が不安なのは分かるけど」

「おーいそこの二人。あんまり言ってるとチクっちゃうよ」


 華内がいつも通りいやらしくニタニタ笑う。本当にいい性格をお持ちで。


「ほんと性格悪いな。社長は。ねっ」

「同意するよ」

 

 そして今日の僕のやることは終わった。と言っても、家の退去手続きは済んでいるので、帰る場所はない。仕方なく、華内に相談すると、この建物にある誰も使っていない小さめの部屋をくれた。

 部屋は小まめに掃除されているのか清潔で、ためしに小姑のように木製の小さな机を指でなぞってみたが埃一つなかった。


 誰も使っていないと言われていた部屋だが幸いなことにベッドはあった。横になると身体が柔らかく沈みこむ。疲れてはいないがとても体が安らぐ。


 そして燈香は微かな高まりを胸に、翌日からの仕事のことを考えながら目をつむる。


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