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009 別れ(前編)

2022/05/02 改稿済


「ええい、何をしている!さっさと破壊しろ!!」

「はっ!只今取りかかっておりますが、何分(なにぶん)先ほど爆撃魔法を使える者が殺られ──」

「おのれどいつもこいつも!!暗殺者が自らの居場所を教えてどうする!!」


 ウィオレンティアの罵声が、洞窟の中に響く。

 彼女は積み上がった瓦礫を睨み付け、傍に横たわる亡骸を蹴り飛ばす。

 と──


「随分手こずっているようですね。」

「!!」


 透き通る美声が、ウィオレンティアの背を突き刺した。

 女は即座に振り返り、暗殺者である自分の(うしろ)をわざわざとりに来た青年に、憎悪に満ちた刃を向けた。


「フラーテル……」

「怒らないでください、ウィオレンティア隊長。

 僕はもちろんあなたの腕を信じていますが、何しろ敵は()()オクルス。彼は我々の知らない方法で敵を撹乱し、抹殺する。その思考はヴァルキリーズと言えど、読み抜くことは難しいでしょう。現に、“我らの知らない爆薬”を壁に埋め込んでいることに、気付いていなかったのですから。」

「……」


全身を黒い布で覆っていたウィオレンティアは、目の部分にある帯を外す。そこにはくすんだ蒼い瞳が爛々と燃えており、怒りに満ちた視線をフラーテルに浴びせていた。


「いちいち癇に障る言い方だな、フラーテル。」

「いえいえ。とんでもありません。」


彼ははにかみながら両手を振る。


「僕も、こんなものがあるとは想像していませんでした。きっと僕でもあなたと同じ目に遭っていたでしょう。

 ですので、やはり()()()()彼を仕留めましょう。」

「……だったら、さっさとこの瓦礫をなんとかしろ。」

「そうですね。では。」


 ウィオレンティアの怒りなど全く気にすることもなく、彼は瓦礫の前に歩み出る。そして彼は背負っていた大剣を引き抜いた。

 それは諸刃の剣。片側は朝日のように白く輝き、もう片側の刃は夜闇に溶けるように黒く輝いている。

 彼はその剣を右手で持ち、瓦礫に向かって“突き“の構えを取った。そしてある一点に狙いを定め──


「──ここだ。“光よ(ルクス)”」


その呪文と共に、彼の剣から強烈な熱線が発せられた。それは太陽のように明るく、火山から噴き出す溶岩のように熱かった。誰しもが目を閉じ、その熱に顔を覆った。そしてその場にいた者たちが瞼を開いたときには、最初にあったはずの出口よりも巨大な穴が、彼らの前に空いていた。


「『妖精(アールヴ)の剣』──『光陰剣(アルベルヒス・ヘルム)』か。相変わらず出鱈目な出力だな。」

「あははは。これでも、最小限に抑えたつもりだったんですが。」


彼は苦笑し、穴の奥を見やる。


「さて、穴はあけたのですが……」

「……」


 ウィオレンティアは武器を収め、腕を組む。女は穴が空いた時点で、全てを悟っていた。


「どこにもいないぞ?」

「隊長。敵影、見当たりません!」

「気配で分かっているわ。ったく、無能どもめ。」


 女は自分の部下の報告を履き捨てる。そして洞窟の外へと向かうフラーテルに声をかけた。


「何を使って逃げたと、お前は考える?あいつはお前の()()()だろう。私よりかは、その思考が分かるはずだ。」

「そうですね……」


 彼はしゃがみ、乾いた土をなぞる。その土には何かを引きずったような筋がいくつかついていた。

 彼はそれを見ると子どものような興奮した笑みを見せ、小さくつぶやいた。


「──グライダー、か。」

「何?今なんと言った?」

「ああ、いえ。なんでもありません。おそらく、飛行して逃げたかと。」

「この山からか?一体どうやって?高度な魔法である飛行魔法は奴には無理だろう。奴は体内に『魔素』がない。」

「ええ。我々は『魔素』を使用して『魔力』を生み出し、魔法を行使します。そして、扱える魔法の難易度や威力は、その『魔力』の量によって決定されます。」

「『魔力』の量は『魔素』に依存する。奴の魔法は左目の魔素蓄積装置『ミーミルの魔眼』に蓄えた『魔素』に頼っているため、極めて初歩的なものしかできん。

 奴が使える高等魔法は『ソウル・ブレイク』ただ一つ。しかも、1日4回が限度とかいうみみっちい量だ。私の部下にも、それほど少量の魔素しか持たぬ者などいない。」

「ええ。ですから、アレを使ったのではないかと。」

「アレ?」


 フラーテルが指さす物を見て、ウィオレンティアは舌打ちする。そこにあったのはバラバラに砕け散った水晶(ガラス)の破片。それが夕日を浴びて幽かに煌めいていた。


「クソッ。『魔封じの水晶球』か。」

「おそらく、風の魔法か何かが封じられていたのでしょう。『魔封じの水晶球』は魔法を保存する魔法道具(マジック・アイテム)。これを割って魔法を開放。風を起こし、風に乗れる何か鳥のようなものを使って逃げたのではないかと。」

「──【アウルヴァング】での飛行戦闘で使ったと言われているやつか?」

「まあ、それに似ているのではないかと。こことあそことはだいぶ気候も地形も違いますから、同じかどうかはちょっと分かりませんね。」

「ふん。」


 ウィオレンティアは洞窟の外に広がる、悠遠な山脈を睨み付ける。


「『魔封じの水晶球』などという低レベルな魔法道具(マジック・アイテム)に頼るとは、弱者らしい悪あがきだ。」

「ふふ。でも、その悪あがきもなかなか馬鹿にできませんよ?現に僕たちはそれに出し抜かれてしまっているんですから。」

「……」

「『魔素』を有しない彼にとって、こういった道具は必須アイテムだったはず。今後もこういったことが起きる可能性がありますから、十分に注意してくださいね。」

「……」


 ウィオレンティアはフラーテルを無視して、部下を数人呼んで得物の後を追わせた。


「そうすぐに追いつけるとは思えんが、見つけたら連絡をよこせ。私は隊長会議に出ねばならん。」

「承知しました。」


 部下が走り去るのを見届けてから、ウィオレンティアはブロンドの青年を一瞥する。

 そして女は、その姿を見てより一層腹を立てた。


 それは、敵を追うにしては似つかわしくない笑みだった。その瞳は満点の答案用紙をもらったときの子どものような、興奮に満ちた輝きを放っている。

 

 まるで、期待通りの結果を得たと言わんばかりの、そういう顔だった。


「……」


 舌打ちをして闇に消えていくウィオレンティアを背後に感じながら、フラーテルは山を眺める。


「──ああ。やっぱり、()()()()()()

 だからこそ、今度こそ、僕は──」



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