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魔女狩り1

さてさてクライマックスシリーズ

もうすぐ終わります〜

村の中央、村長の家の近くの広場に村人たちが一堂に集まっていた。以前どこかで見たような光景が脳裏をよぎり、昔の知人の安否が少しばかり気になった。その中央に立つのは小太りの男と、全身を鎧で覆った苦境な男。以前と変わらない欲にまみれた姿と笑みを浮かべている。


「ふふん、この村ですか、はい」

「はい、そのようです」

「ふふん、それではこの村の近くの森のどこかに『魔女』がいる、ということですね、はい」

「はい、ただその森には誰も立ち入らないようでして」

「ふふん、構いません、村人をけしかけ探索したのち、犠牲になっていただきましょう」


二人がひそひそと何かを話している内容は聞くことはできないが、良からぬことを考えているのだろと推測が立つ。


「おや、あなたは……」

「領主様……」


面識があるのに何も挨拶をしないのは礼儀としては失礼だと感じ、みずから前に出た。しかし、あの時の光景が脳裏にチラつき始め、頭がズキリと痛み顔をしかめた。


「……おお、英雄ロビンですね! まさかご存命だったとは! 再びお会いできて嬉しいですよ」

「はい、あの時は大変お世話になりました」

「いえいえ、こちらこそあなたのおかげで多くの利益を生むことができましたよ。こちらこそ感謝を申し上げたい」


(ふふん、少々面倒ですね……)


一瞬だが領主の眉がピクリと動いたように見える。


「領主様、もしかしてこの村は領主様の……」

「いえいえ、この領地は私の古くからの友人の領地ですので」

「それでは……」


ロビンの言葉を遮るように領主は言った。


「友人から面倒ごとを頼まれましてね……、この近くの森に『魔女』がいるそうですねえ、はい」


村人たちは一斉にざわつく。

ロビンは動揺を抑え込む。もし今慌てふためけばアリスのことを知られかねない。


「その『魔女』を……狩ってほしいといわれましてね。私としては是非その古い友人に協力をしたくて参りました」


淡々と今回来た理由を告げた。


(ふふん、正確には元、友人ですがね)


「どこかの誰だか知らねえが、やめておいたほうがいい! 危険すぎるぞい!」

「ああ、ずっと言いつけを守ってきたんだ。もし、それが失敗して魔女の怒りにでも触れればどうなるかわからないんだぞ!」

「そうだよ、魔女はすごく恐ろしいんだよ。やめておいたほうが……」


これから行われようとする『魔女狩り』に対して賛成する者は誰一人としていなかった。


「領主様、この村の村長のロベルトです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」


深くお辞儀するロベルトはどこか焦りの色を隠しきれていなかった。その後ろにはカレンが付き従っていた。


「我々は魔女の出現以降、魔女の森へは入ってはならない、かかわってはいけないと決まりを守ってきました。そのためか魔女からの脅迫や、呪いなどの類は一切受けておりません。変に刺激されますと、先の者が言ったように怒りに触れる可能性があります」


村長の言う言葉に村のみんなが「そうだ、そうだ」といい、反対の姿勢を示していた。


「これを……ご覧ください」


そう言って領主が取り出したのは、どこかで見覚えのあるその小瓶は、小さな光の粒がふわふわと瓶の中を漂い、一瞬で皆の視線を集めた。


「こ、これは……一体」

「なんだ?」

「ふふん、これは以前私が捕らえ、火あぶりにした魔女が所有していたものです。この瓶を開けたとたん魔法の溢れんばかりの力が手に入るのです」


村の皆に自慢するかのように、その小瓶を持つ腕を高々と掲げた。その小瓶の放つ光が数倍も光り輝くように見えた。


「いざという時はこれを使うと良いのです。私は一度この小瓶を試しに使ったのですが、それはもう、強い力を得られたのです。」


「ロビンくん」


領主が高々と魔法を自慢し、村人たちの視線を集める中、村長が突然こっそりとロビンに話しかけてきた。


「君は魔女の森へ行ったことがあるのだろう?」


ロビンは突然の問いかけに動揺が隠せなかった。村の最大のタブーを犯してしまったのを気づかれたのだろうか? いや、まだ憶測の域を超えていないその質問に正直に答えるのはばかばかしいとロビンは平静を保つ。


「一体なんのことですか?」


動揺を誤魔化すかのように、あくまで平静を装ってたずねた。


「私は、魔女を知っている。そして……」

「英雄ロビン」


今とても重要なことを話していたように思えたのだが、それを遮る領主の言葉に苛立ちを覚えた。しかし、今確かに『魔女を知っている』と聞いた。


「なんでしょう?」


ロビンはほんの少し棘が立つような言い方をした。


「ふふん、あなたの過去の戦績を信頼し、ぜひとも魔女討伐に参加していただきたい。そしてあの森を魔女から取り戻そうではありませんか。いざという時はこの魔法でおてつだいさせていただきます、はい」


村人たちはざわついていた。魔女を討伐するなど前代未聞であり、その提案に村人たちの心は瓶の魔法を見てからは心が動いているようだ。


ロビンは魔女の、アリスの本当の姿を知っている。人畜無害な存在をなぜ殺す必要があるのだろうか。魔法が使えること以外を除けばただの女の子だ。だが今アリスをかばうような言葉を発することはあまり得策ではない。それに村長の先ほどの言葉も気にかかっている。村人たちは今も領主が続けて言う言葉を信じ始めている。今そのようなことを言えば、逆に反感を買うことになりかねない。


「つまり、魔女にも剣や矢が通じるということですか?」

「ふふん、何度も言っているように魔女は恐るるに足りません」


(魔女を殺すのにどれだけ多くの犠牲を払ったかは秘密ですがね……)


「ロビンくんが英雄?」

「どういうことですか?」

「ふふん、少しお話しすれば長くなりますが、私の元領民でして、『領地を守る』戦いの際は大活躍されたのです、はい」

「領主様、その話しはあまり……」

「おお、大変失礼いたしました。人の過去を勝手に話すのはよくありませんでしたね」


悪気もなく話しを続けた。


「しかし、今話さず、いつ話すのでしょうか? あなたの過去の戦いを知ればこの村人たちを勇気付けるはずです。それにみなさんは既にご存知なのではないですか? 彼の弓矢の人並み外れた能力を」

「しかし……」


このままでは領主の思う壺になる。本当に『魔女狩り』へとかりだされてしまう。


「そうだ! ロビンくんがいるじゃないか!」

「ああ! どんな獲物も百発百中! その体からは信じれれないほどの怪力!」

「ロビンくんがいれば百人力だ!」

「ふふん、そうです皆さん、彼の力とみなさんの協力があれば、魔女などあっという間に殺すことは可能なのです、はい」


(もちろん、英雄や村の方がたには犠牲になってもらいます、はい)


「魔女からあなた方の森を奪い返すのです!」


話がうまい。

次第に村人たちの心は一気に『魔女狩り』へと向かっていく。もう手遅れなのかもしれない。ならば、出来ることは一つ。そう思い、ゆっくりとその場を離れようとすると、ロベルトがロビンの腕を掴んだ。


「ちょっと来てくれ」

「しかし……」

「頼む」


懇願するその目は真剣そのものだった。コクリと首を動かしロベルトの後に続いた。


「おとうさんと……ロビンさん?」


***


ロベルトの書斎へと案内された。ここへ入るのは初めてロベルトとあった時以来だ。


「一体どうしたんですか?」

 

ロベルトは真剣な面持ちで俺に訪ねてきた。


「君は……魔女にあったんだな?」

「っ……」


先ほどと同じ質問だった。


「沈黙は肯定なり……、そうか」

「……はい、申し訳ありません」

「そうか……、魔女は……アリスは、生きていたんだな」


なぜ名前を知っているだろうか、ロビンは驚いた表情を隠せないままロベルトに視線を向けていた。


「アリスは……私の、実の娘だ……」

「……は?」


何を言っているのだろうか、驚きや疑いがぐるぐると頭の中を駆け巡るが、合致点をみつけたのだ。彼の目は赤い色をしている、そしてアリスも赤い色の瞳を持っていた。


「ま、まさか……」

「そのまさかさ……。私の妻は『魔女』だった。そしてその妻との子がアリスだ」


嘘偽りなどないと語るように、アリスと同じ赤い目がロビンの瞳を真っ直ぐと見据えている。その瞳が語る出来事が真実であると理解するにつれ、怒りがこみ上げロベルトの胸ぐらを掴みその体を壁へと追いやった。壁へと打ち付ける大きな音が響くと同時に、ロベルトは小さな呻き声をあげた。


「あなたが、あなたが、あの子の父親だと? ふざけるな! どうして、どうして! 今まであんなになるまで放っておいたんだ! あんな、あんな……っ!」


思い出すのは出会った頃のアリスだ。辛うじて肉がついている、今にも朽ちてしまうような貧相な体をしていた。目から生気は全く感じられず、消えかけた命だった。


今知った事実はとても正気の沙汰とは思えず、アリスの母が、そしてアリスが大事な人だと言っていた者は、実の夫であり父親だったのだ。しかし、この男はアリスを、実の娘を見殺しにしようとしていた。アリスはそのことも知らず、実の父とも知らず、ただただ、母との約束を健気に守ってきた。この村のため、そしてこの男のために!


「ぐっ、私が会いに行こうとしなかったでも思っているのか? 何度も森へ行ったんだ! 行こうにも、妻のつかった魔法が、彼女たちが住む場所へたどり着くことを許さなかったのだ!」

「嘘だ! 俺はすぐに行くことができた! そんな言い訳は聞きたくない!」


ギリギリと首を絞め上げ、次第にロベルトの体が浮いていく。


「あなたは……アリスを見殺しにしようとした!

「ち、違う、話を きいて、くれ」


瞬間、悪夢の光景が脳裏をよぎり死への恐怖が襲い、ロビンは掴んでいた手を不意に放してしまった。ロベルトは床へと手をついて、肺に一気に入ってきた空気を大きく咳き込み吐き出した。


「くっ……」


悪夢の光景が走るたび痛みが走る頭を抱え、その激痛と恐怖を抑え込もうとする。最近まで見ることがなかったその悪夢が一気に押し寄せ、心を恐怖で支配する。


「はぁ、はぁ、はぁ……ロビンくん、君は赤い鳥に導かれたのだろう?」

「カレンから聞いた時にピンときたのだ。君が魔女に、アリスに会ったのではないかと」

「だからなんだというんです!」

「私にはその赤い鳥が唯一、彼女たちとの通信手段だった。アリスが生まれたこともあの赤い鳥が知らせてくれた。妻が死んだことも……。その日を境に赤い鳥は来ることはなかったんだ。それからはまだ見ぬ娘のことが唯一の気がかりだった。死に物狂いで探したんだ! 何度も、何度も。それでも……見つけることができなかった……」


まるで、ロビンが村へ戻る時、寂しさを溢れさせるアリスの赤い目がロベルトの目にはあった。疑う余地はなかった。その目は幾度となく見ていたのだから。


「頼む。ロビンくん! 娘を! アリスを! 助けてやってくれ!」


床に頭をこすりつけ懇願するロベルトに、膝をついてそばに寄り添い、そっと手を添えた。


「……っ、元からそのつもりです。もう誰も……不幸なんかにしない!」 


***


 ロビンとロベルトは窓から広場の中央を見つめながらこれからどうするかを思案していた


「さて、領主の連れてきた人数はかなりの数です。おそらく前に捕らえた魔女はかなりの力を持っていたのでしょう。多くの犠牲を払ったはずです。今回もそれを見据えて、人数を集めたに違いありません」


「私もそう思っていたよ。村人たちを犠牲にしようと言葉巧みに先導しようとしていたな。魔女の件は村の誰にも話していない。もちろんカレンにもだ」


腕を組み顎に手を当てて、思案したのちロベルトは言った。


「どうする? あの領主が連れてきた手練を倒すにも大義名分が必要だろう。でなければ村人とたちは納得するまい。君は魔女討伐に選ばれてしまったようだが……」


ロベルトの顔はだんだん不安と焦りが募っているように見えた。


「私に考えがあります」


ロビンはロベルトの不安を抜いさるような言葉をかけ、自らの考えを伝えた。


***


村の中央広場では村人たちと領主の連れた兵たちが魔女の森へ行く準備をしていた。その中央では領主が、着々と指示をだしていた。


「おお、ロビン! どこへ行っていたのですか? これから森を捜索する人員を配置しようとしていたのです」

「申し訳ありません。少し準備をしておりました。それで領主様」

「どうしたのです? 深刻な顔をされていますが」

「恐らく、隊を編成し大人数で捜索するのは魔女に感ずかれる恐れがあります。それに魔女の森は未だ誰も足を踏みれいていない未開の土地。騒ぎ立てれば、魔女の怒りに触れるやもしれません」

「確かに、一理ありますね」

「さらには魔女の森、いかなる罠や術が仕掛けられているか検討も及びません。大人数、そして短期決戦となりますと、かなりの犠牲が予想されます」


村人たちは顔を見合わせながら、不安な表情を浮かべ始めた。それを見計らって領主に告げた。


「ならば、少数精鋭。私一人、先遣隊として行かせてはいただけないでしょうか?」


その言葉を聞いた者全員がギョッとした目をして驚いていた。


「ふふん、私としても村の皆様を、そして私の部下を犠牲にしたくはありません、はい。……いいでしょうお願い致します」

「それでは、早速向かいたいと思います」

「ええ、よろしく頼みましたよ」


***


弓矢と、荷物の一番そこで眠っていた湾刀を二本を背中に携え、魔女の森をひたすら走った。森への道はアリスのおまじないが導いてくれる。ただひたすら、アリスの元へと走った。


***


「あ! ロビン!」


アリスは木で編んだカゴの中に、綺麗な花と植物をたくさん入れて小屋の中へ向かう途中だった。足音に気付いたのかこちらを振り向き、小走りで駆け寄ってきた。


「おかえ、り? どしたの?」


呼吸が乱れている様子を見たからか、不思議そうに首を右へとかしげてたずねた。その目には一切の疑いはなく、少しだけ心配そうな様子を携えていた。


「アリス、静かに聞いてくれるかい?」

「ロビン、少し怖いよ」

「ごめんね、だけど大切な話なんだ」

「う、うん」


ロビンの真剣な表情はアリスにも伝わったようだ。


「今君は悪い人に悪いことをされようとしている、今村にその悪い人がいて、たくさんの人を集めて君にひどいことをしよとしているんだ」

「えぇ!! アリス、悪いことした?」


その目には一気に恐怖心をまとい、驚きを隠すことができない様子だ。すぐそばまで駆け寄って飛び込んでくる彼女を膝をつき、優しく抱きとめ安心させるように頭を優しく撫でた。


「いいや、アリスはいい子だよ、アリスは魔女……だよね? その人はアリスのおまじないを狙っているんだ」

「ど、どうしてそのこと、その人知ってるの?」

「アリス、君以外にも魔女はいたらしくて、その人はその魔女からおまじないを奪ったんだ。」

「へ? おかあさんや私の違う魔女がいるの?」

「ああ、そうみたいだ……俺も知らなかったよ」

「そ、それで、アリスのことも……アリスのおまじないも?」

「ああ、アリスのためにも、お母さんとのおまじないを守るためにも一緒に逃げるんだ、アリス!」

「う…………っ」


頷き、決断しようとする彼女に一瞬の戸惑いののちアリスは答えた。


「……アリス、おかあさんとの約束守りたい……」

「わかっているよ、アリス! さあ!」

「……おまじない、取ってこなきゃ!」

「手伝うよ」


 小屋へと急ぎ魔法を作る部屋へと入ると、大事そうに小瓶を布で包みアリスの持っている小さな肩下げカバンの中にいれた。もう一つの肩下げカバンにはアリスに負担にならないような量でパンと木の実を詰め込んだ。


「ロビン、準備できた」

「こっちもだ。さあ、行こう!」


アリスは光の庭から出るときに、名残惜しそうに小屋を見つめた。


「おかあさん……」


***


 アリスはしっかりと食事を取ってきていなかったせいか、体力が同じ年代の子たちよりも劣っている。少し走っただけでも息切れをしてしまう。おまけに自分の命が狙われている危機感と恐怖心からくるストレスで精神も消耗しているようだった。


そんな様子を見かねて、アリスを両腕で抱え走り出した。


「わっ! ろ、ロビン!」

「行くぞ!」


行く当てはなかった。ただ今は、村とは反対の方向へとひたすら走る。この森を抜け、そのさらに向こう側へ行けばなんとかなる。


ーーそうなるはずだった。


「あれ? なんで……」


急ぐ足はゆっくりと立ち止まり、その目の前にある見慣れた小屋に戸惑いを隠せなかった。


「ロビン? 忘れ物?」

「いや、そんなはずは……途中で道を間違えたか?」


なんとアリスの小屋の前に立っていた。

なぜ? と頭が次第に混乱していくのがわかる。しかし、悩んでいる暇はなかった。とにかくここを離れる必要があった。また村とは反対へと足を向け、振り向いたとき、そこには同じ小屋があったのだ。


「ど、どうして……」


また、後ろを振り向いても同じ光景が広がっていた。不安と恐怖が入り混じったものが額から流れているのがわかる。


「ふふん、やはりそうでしたか……はい」


聞くのも嫌になるようなその声に、背筋がぞくりと凍りつくようだった。異様な空気が周囲に漂っているのがわかる。

アリスの心地よい「おまじない」とはちがう、邪悪な「魔」の力を。そして、その後ろには恐怖と軽蔑の視線が無数にあった。


「な、なんで……」


アリスをその視線から守るかのように抱きかかえる。腕の中のあアリスはすでにその威容を察したのか、小刻み震えているがわかる。


「あの小さな女の子が?」

「いや、見た目に騙されてはいけん! あの様な姿に化けているのかもしれんぞ!」

「そうしたらロビンくんも……」


様々な憶測が飛び交う中、一際聞きなれた声で俺の名前を呼ぶ声がした。


「ロビンさん!」


カレンは俺と、アリスの前に立って領主、そしてその部下と、村人たちに言った。


「ロビンさんは、ずっと様子がおかしかったの! あんなに働き者だったのに急に仕事をほっぽり出して、ふらっとどこかへ行ったのを覚えてるでしょ?」

「確かにそうだ」

「まあ、そんな日もあった様な……」


村人たちはカレンの言葉にかすかな覚えがあった。


「きっと魔女に操られているのよ! だから今も、魔女を庇う様に操っているんだわ! そうですよね? ロビンさん!」


その目はそう答えてほしいという訴えかける様な目立った。目尻いっぱいに涙をためて、俺の言葉を待っていた。


ーーロビンは決断を迫られていた


(俺は……)


「ロビン……」


小さくつぶやき、か弱い小さな手でぎゅっと握りしめられた時、ロビンの心は大きな決断をくだした。


(俺は……アリスを守る……!)


彼女が命を奪われるいわれはない。ただ、母との約束を健気に守ってきたこの幼気な彼女には全く罪はないのだ。ただ一人の欲望のために、その命を失わせるわけにはいけない。


寸分違わぬ動作で弓を構え、弦に三本の矢をかけた。そしてそれを領主へと狙いを定め、射抜こうとした瞬間だった。


(狙いが……定まらない?)


目に映っているのは領主が二人、いや三人……その数はだんだんと増えていき、その一つ一つに狙いを定めるが……。


(どれが……本物なんだ!?)


焦りは募り背中にはじっとりとした汗が流れている。


「ふふん、わからないでしょう、はい。幻影で惑わし、相手をじわじわと追い詰める、なんともいやらしい異能の力です。」


呼吸が乱れ、生唾を飲み、顎には一筋の汗が流れた。瞬間、死に追いやられたあの悪夢の戦慄が頭の中を駆け巡り、構えていた弓矢はいつの間にか手から離れ、地面に転がり落ちていた。


頭を抱え悶え苦しむのを心配し、アリスがロビンの名前を呼ぶようだが、次第にその声はだんだんと遠くなっていった。

もうちょいだからもう少し付き合ってな〜

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