九、ゲームの始まり
「誰・・?死んでるのかな・・」
蒼空は足がすくんで動けなかった。
「生きてたらどうするんだよ。助けないと」
「でもなんで・・ここに」
「船が難破したとか」
「難破って・・」
蒼空は船を確かめるように、周りを確認していた。
「そんな船、どこにもないよ」
「蒼空、生きてたらどうするんだよ」
「え・・死んでたらどうするの」
「死んでたら・・。いや、ここでそんなこと言っててもしょうがないぞ。とりあえず近づいてみよう」
俺と蒼空は波打ち際まで近づき、倒れている人間を確認した。
「えっ・・この人、裸だよ・・」
その人間は真っ裸で、うつ伏せになっていた。
しかもピクリともしなかった。
「ハゲてるっていうか・・」
その人間は、全身の毛という毛がなかった。
「ちょ・・。おい、これって人形じゃないのか」
「え・・そ・・そうなの?」
俺たちはもっと近づいてみた。
すると人間と思しき物は、マネキンだった。
「なっんだあ~~!マネキンじゃん!」
蒼空は心底ホッとしたように、明るく言い放った。
俺はマネキンを浜へ上げた。
「なんか、色々なものが流れ着くんだな」
そしてマネキンを仰向けにさせた。
「え・・」
蒼空が何かを見つけた。
「ちょっと、何か書いてあるよ」
マネキンの胸には文字が書かれてあった。
―――さて、ゲームの始まりです。みんなで協力し合ってこの島から脱出してください。さもないときみたちは全員死にます。猶予は五日間。リタイアは許されません。健闘を祈ります。
「ちょっと・・なに、これ・・」
蒼空は呆然としていた。
「いや、待て。これってさ俺たちへのメッセージなのか?」
「え・・」
「偶然、ここへ流れ着いたんじゃないのか」
「そ・・そうかもだけど・・。でも偶然にしては変だよ」
「なんで」
「結局トランシーバーも使えなかった。おまけに迎えも来ない。これって変じゃない?」
「まあ・・確かにな」
「もし、これが僕たちへのメッセージだとしたら、ここを脱出しないと僕たち死んじゃうってことだよね」
「そんな・・。そんなことあり得るのか」
「じゃあどうするの?携帯だって使えないんだし、いずれにしても、とりあえずはここで生き延びる他ないよ」
「五日間で脱出って・・無理だろ」
「あの子・・いるしね・・」
蒼空は田地のことを言った。
俺もそれを考えた。
あいつは足手まといにこそなれ、協力なんて絶対にしないよな。
「飯島くんには言わないとね」
「そうだな・・」
そして俺たちは陽が暮れる前に、洞窟へ戻ることにした。
「ただいま」
俺と蒼空は洞窟の中へ入った。
「どうだった?」
飯島は様子を訊いた。
「やっぱり迎えの船は来てなかったよ」
俺はそう言いながら飯島に近づき、耳元で囁いた。
「飯島、ちょっと」
飯島は何かあったのかという風な表情を見せた。
幸いにも、田地は眠っていた。
そこで俺と蒼空は、マネキンやメッセージの話をした。
「え・・それって僕たちが嵌められたってこと?」
「うーん、それはわからないな」
俺がそう言った。
「そのメッセージが本当なら、島を脱出する手立てを考えないといけないね」
「五日間って書いてあったから、全然、時間が足りないんだよ」
蒼空は俺たちの会話を黙って聞いていた。
「そもそもこれって、誰の仕業?何の意味があるんだろう」
「旅行会社が一枚噛んでることは、確かなんじゃないか」
「旅行会社か・・。だとしたら、死ぬなんてことは嘘なんじゃない?」
「え・・」
「ほら、ゲームをよりリアルにするために、さ」
「リアルっていったって、実際、食べる物も水もない。迎えにも来ない。マジで死ぬことだって考えられるよな」
「ああ・・確かに」
「客を死なせたなんてことになったら、社会問題になるし、会社自体倒産するぞ」
「ってことは・・これってマジなやつ・・?」
「旅行会社ってのも、違うかもだよ」
蒼空が言った。
「どういうこと?」
飯島が訊いた。
「旅行会社を装った、殺人集団みたいな」
「確かにな・・」
俺は蒼空の推測が当たっている気がした。
「それにしても、お腹空いたよね・・」
蒼空がポツリと呟いた。
「だな・・」
俺もそうとう腹が減っていた。
「もう陽も暮れたし、外に出ると危険だね」
飯島がそう言ったことで、俺たちはその場にへたり込んだ。
「あっ、そうだ!」
蒼空がいきなり大声を出した。
俺と飯島は蒼空を見た。
「ほんとは今日、帰るはずだっただろ。ってことは、僕たちの家族が心配して問い合わせてるかも知れないよ」
「・・・」
「それで、例えば旅行会社と連絡が取れないとしたら、きっと警察に相談するに違いないよ」
「ああ・・なるほど」
俺は蒼空の言わんとしていることがわかった。
「向こうから救助が来るってことだな」
「そうそう!」
「確かにそうだね。四人もの高校生が行方不明になったら、大事件だもんね。きっと来るね」
飯島がそう言い、俺たちはほんの少し、希望を持った。
そして俺たちは空腹のまま、眠りについた。