八、役割分担
「それ、どうしたの」
蒼空が訊いた。
「僕さ~、転んじゃってね。んで、その時ちょうど、この子が下敷きになっちゃってさ」
げ・・圧死させたってわけか。
「殺すつもりはなかったんだけど、こうなった以上は食べるしかないよね」
田地はその場に野ウサギを置いた。
「食べるっていっても、火はどうするんだよ」
俺が訊いた。
「それはきみたちがやってくれないと」
「なんでだよ」
「だって、僕は狩りをしたんだから、火おこしはきみたちの役目だろう」
う・・まあ、一理あるか。
お前の場合、狩りじゃないけどな。
「でも、これ、捌かないといけないよね」
飯島が三人を見て言った。
「ど・・どうするの?」
蒼空はとても嫌そうだった。
そして恐怖を感じているようだった。
「とりあえず、皮を剥いで丸焼きにするとか」
田地がそう言った。
「と・・とりあえず、ジャンケンで決めない?」
蒼空がそう言うと、田地が「僕は省いてよ」と、いかにも偉そうに言った。
「んじゃ、僕たち三人でジャンケンね」
蒼空は仕方なく三人でジャンケンすることを提案した。
「えっと、捌く役、火おこし役、あと一人は?」
飯島が言った。
「火おこしは一人じゃ無理だと思うぞ」
俺は簡単に火おこしなど出来ないことを知っていたので、そう言った。
「そっか。それじゃ火おこし二人ってことで」
そして三人でジャンケンをし、俺が捌く役に決まってしまった。
俺たち四人は外に出て、早速それぞれの「仕事」に取り掛かることになった。
その際、田地は高みの見物を気どり、地面に座って見ていた。
「ほらほら、早くしないと腐っちゃうよ~!」
田地は勝手なことを言っていた。
俺たちは当然、無視して動いた。
俺はナイフを手にして、野ウサギを見た。
うっ・・なんか・・残酷っていうか。
でも、もう死んでるんだしな・・。
「ちょっと、なにやってるんだよ」
ためらう俺に田地が言った。
「なにって・・」
「早くしてよ」
「お前、そんなこと言うけどさ、だったらやってみろよ」
「僕は狩りをしてあげたんだよ」
「・・・」
「分け前を上げるって言ってるの」
「な・・なんだよ」
「食べたくないの?」
「やればいいんだろ、やれば」
俺は覚悟を決めた。
目の前では蒼空と飯島が、交代しながら火おこしをしていた。
まだ、何の兆候もない。
そりゃそうだ。
あんなの簡単にできるはずがない。
「田地さ」
俺がそう言った。
「なんだよ」
「薪代わりになる枝とか探して来いよ」
「なんで僕が」
「これを焼かないといけないだろ」
「僕は狩りをしたの」
「狩り狩りって偉そうに言ってるけど、ただ圧死させただけの事じゃないか。しかもたまたま」
「どんな形であろうと、結果がすべてじゃないの。だったらきみに捕まえることができたの?」
「あのさ、この際だから言っとくけど、こういう場合はみんなで協力しようとか思わないのか」
「うるさいなあ」
「少しは現状を把握しろよ」
カサッ・・カサカサ・・
突然、草が揺れる音がした。
俺たちはその方向を見た。
ガルル・・
草むらから現れたのは、犬だった。
「うわあ~~!」
そこで田地が逃げるように立ち上がった。
俺はとっさに落ちている枝を拾って威嚇した。
すると犬は一匹ではなかった。
ガルル・・
次から次へと草むらから犬が顔を出し、俺たちは五匹の群れに囲まれた。
「う・・うわあ~~!」
田地は、また叫んでいた。
「しっしっ!あっちへ行け!」
蒼空も枝を持ち、犬を追い払っていた。
飯島も同じようにしていた。
すると次の瞬間、一匹の犬が野ウサギを口にくわえ、猛ダッシュで走り去った。
そして他の犬も同じ方向へ逃げて行った。
「なんだ・・この島は野犬もいたのか・・」
俺は枝を置き、その場に座った。
「ちょっと・・危険だよね」
蒼空がそう言った。
「やっぱり、火はおこすべきだよね。夜中とか襲われたら大変だし」
飯島は再び火おこしを始めた。
「俺も手伝うよ」
俺も火おこし役の中に入った。
「どうするんだよ!せっかくの食料を盗られてしまったじゃないか!」
さっきまで怖がっていた田地は、勝手に怒っていた。
「田地くんじゃないけど、マジで食べ物探さないと」
蒼空がそう言った。
「でも、むやみやたらに探すと、野犬に襲われる危険性も出てきたよね」
飯島が言った。
「武器も作らないといけないな」
俺が提案すると、田地が「きみたちでやってよね」と、またわがままを言っていた。
火おこしは三人で交代しながら、どんどん時間が過ぎていった。
「今は何時ごろなんだろう」
飯島が空を見上げて言った。
「昼はとっくに過ぎてるよな」
俺がそう言った。
「昼どころか、もう夕方じゃないのかな」
蒼空はそう言って「ちょっと浜を見て来る」と立ち上がった。
「俺も行くよ。一人じゃ危険だ」
俺も立ち上がった。
そして飯島と田地は、洞窟の中で待つことになった。
浜へ着くと、やはり・・というか、船の姿はどこにもなかった。
「田地くん・・レシーバー壊しちゃったから、連絡取れなくなったよね・・」
蒼空が不安げに言った。
「あいつ、どうかしてるよな、まったく・・」
「マジで迎えは来ないのかな。どうしちゃったんだろう」
「台風でもないし、来てもいいはずなんだけどな」
「杜撰な旅行会社だよね」
「家にも連絡できないしな・・」
「あっ!」
蒼空が突然、何かを見つけて叫んだ。
「どうしたんだ」
「あそこ、ほら、見て!」
蒼空が指す方向を見ると、波打ち際で誰かが倒れていた。