六十二、ラムダの正体
「あの添乗員、ジーナの身内かな」
智博が言った。
「なんか、そんな感じだったな」
「ひょっとして、お姉さんとか?」
「母親にしては若いし、おそらくそうだろうな」
大津根はジーナに「遊びはやめなさい」と言ってた。
どういうことだ・・
ここの全てがジーナの遊びだったとでも言うのか。
それにしては、あまりにも命を軽んじている。
智博だって、たまたま助かっただけで、普通は死んでるぞ。
いや、実際に人が死んでるんだ。
足を切られて自殺した香帆もそうだし、過去には脱走して二度と戻らなかった者も何人かいて、きっと殺されたのだろうと直也は言っていた。
それと京子だ。
京子はラムダに殺されたんだ。
おい・・ジーナ。
遊びにしては冗談キツ過ぎるぞ・・
これはれっきとした犯罪だ。
殺人も含めた大犯罪なんだぞ。
「石竹くん」
「なんだ」
「部屋へ行ってみようよ」
「ジーナのか?」
「うん」
「ゲームはどうなってるんだろう」
「もうゲームオーバーだよ」
「そうなのかな・・」
「だって想定外の人物が来たんだ。もう有効じゃないよ」
確かにそうだ。
大津根の様子だと、どうやらジーナを叱っているに違いない。
もうゲームどころではないはずだ。
そして俺たちは部屋の前まで行った。
「入ろう」
そして智博がドアを開けた。
するとジーナをはじめ、全員が三十畳くらいの洋室に揃っていた。
蒼空たちは、縄で縛られ猿ぐつわもされて、部屋の隅で座っていた。
「と・・智博・・くん・・?」
智博を見て驚いたのは田地だった。
田地はジーナの横で座っていた。
蒼空たちは「ううっ・・」と言うだけで、言葉を発することができなかったが、明らかに安堵した表情だった。
「あなたたち・・」
大津根が俺たちを見て、バツが悪そうに言った。
大津根の横には、大津根と一緒に来た中年の男性が立っていた。
「ちょっと、大津根さん。これはどういうことだ!」
俺は思わず怒鳴った。
「な・・なんで・・なんで・・智博くんが・・ここにいるんだ・・」
田地は俺の声も届いてないのか、智博が生きていたことに愕然としていた。
「睦月くん。僕は助かったんだよ」
「え・・う・・うそ・・」
「ほんとだよ。だから安心してね」
「ううう・・うう・・うわあ~~~~ん」
田地は子供のように泣き叫んだ。
「大津根さん。あなたとジーナはどういう関係なんだ」
俺が訊いた。
「篤志は私の弟よ」
やっぱりか・・
「航太!総帥を呼び捨てにするとは、無礼だぞ!」
飯島が怒鳴った。
「樹生・・いいんだ・・」
ジーナがそう言った。
「どういうことか説明してくれ!」
俺は更に怒鳴った。
憲司や正紀、他のラムダのやつらは、このやり取りを黙って見ているだけだった。
「私から説明しよう・・」
中年の男性がそう言った。
「あなたは誰なんだ」
俺が訊ねた。
「私は篤志の父親で、宏志だ」
「うるさい!言うな!」
ジーナが怒鳴った。
「黙りなさい!」
次に大津根が怒鳴った。
ちょ・・待ってくれ。
ジーナの機嫌を損ねると・・記憶が消されてしまうぞ・・
「ちょっと・・大津根さん」
俺が呼んだ。
「なによ」
「その・・ジーナを怒らせると・・」
「心配ないわ」
「え・・」
「これよ」
そこで大津根は鞄の中から、鏡を取り出した。
えっ・・なにっ・・鏡だと?
智博の勘は当たっていた・・
「やめろ!しまえ!」
ジーナはうろたえていた。
なんなんだ・・
鏡が怖いのか・・
「それじゃ大人しくしなさい」
ジーナは大津根にそう言われ、口をつぐんだ。
「篤志は・・この島で生まれた」
父親の宏志が語り始めた。
「ここは私が所有する島だ。小さいながらも会社を興し、ここでマネキンを製造して生きていた。篤志が生まれて間もなくのことだった。篤志には不思議な力が備わっていることに気がついたんだ。ある日、お手伝いとして雇っていた女性が篤志の怒りを買い、殺された」
おい・・マジか・・
「それって・・ジーナが何歳の時なんだ」
「二歳よ」
大津根が答えた。
「マジか・・二歳って・・」
俺は愕然とした。
「その時から、私たち家族も従業員も、みんな篤志を恐れ、ことごとく避けるようになった。私の妻で篤志の母親である早苗は精神がおかしくなり、やがて島を出た。そして次々と従業員も島を出て、残ったのはここにいる者たちだ」
え・・
ということは・・
憲司たちは、ジーナを恐れてラムダとかいう「遊び」に付き合わされていたというのか・・
いわば・・世界征服「ごっこ」をやっていたということか。
けれども憲司たちの様子を見ても、なんだか狐につままれたような表情だった。
「でも・・あなたや大津根さんは、ジーナを恐れていない風に見えるぞ・・」
「私たち血縁には、その力が通用しないのよ」
大津根がそう言った。
「マジか・・。でもそれなら、なんで俺たちを騙すことに協力したんだ!」
「協力しないと、全員殺すって脅されたのよ」
「なにっ・・」
「ここにいる憲司さんやみんなは、わが社の社員なの。殺させるわけにはいかなかったのよ」
「それで・・」
宏志が話を続けた。
「私と真奈は島を出て、無人島ツアーを計画し、何人もの人を誘拐したんだ。それが約十年前だ。そして一番最近、騙して連れて来たのが航太くんたちだ」
「いや・・その前に、訊きたいことがある」
俺はそう言った。
「飯島の記憶が改ざんされているんだが、どうやれば元通りになるんだ」
「それは・・わからないわ」
大津根が答えた。
「それに・・憲司さんたちも、みんな記憶を改ざんされてるのよ」
「えっ・・」
嘘だろ・・
するとなにか・・憲司たちは元々は普通の人で、悪人に仕立て上げられたというのか・・
「だまれ・・」
ジーナが小声でそう言った。
「だまれ・・だまれ・・黙れええええ~~~!」
そして大声で叫んだ。
次の瞬間、ジーナの目が光った。
あっ!
あの光を見てはいけない!
俺も智博も、蒼空たちもジーナから目を逸らしていた。
「俺がどんな思いで、ここで生きてきたと思っているんだあああああ!」
ジーナがそう言ったとたん、地面が揺れ始めた。
なにっ・・あの時の地鳴りと同じだ。
俺と智博は、蒼空たちのもとへ走った。
「やめなさい!篤志!」
大津根が叫んでいた。
俺と智博は、蒼空たちの縄を解き、猿ぐつわも外した。
「航太~~!」
蒼空が俺に抱きついてきた。
「ほら、早くここから出るぞ!」
俺はみんなにそう言い、部屋から出ようとした。
けれども、ジーナの力のせいなのか、ドアが開かない。
「篤志!」
大津根の方を見ると、鏡をジーナに向けていた。
なにをするんだ・・あんな鏡で・・なにを・・




