五十九、ゲームの開始
俺と智博は縄を解かれ、あっさりと中へ入れられ、冷たい音を立ててドアが閉められた。
この部屋は、おそらく十畳くらいの広さだろうか。
中には、マネキン以外、なにも置かれていなかった。
「石竹くん、申し訳ない」
智博が俺に謝った。
「なにを言ってるんだ。俺こそ安易な作戦を強行したせいで、こんなことになってしまった。悪いのは俺だよ」
「それにしても・・このマネキン、嫌なことを思い出させるよね・・」
智博はうつ伏せで横たわるマネキンを見て、気持ち悪がっていた。
マネキンが一体、横たわっている。
これって・・俺たちが巻き込まれたゲームと状況が似てやしないか。
きっと智博もそう感じたに違いない。
俺はマネキンを仰向けにしてみた。
すると胸に何か書かれていた。
やっぱりだ・・
―――さて、ゲームの開始です。この部屋から出る方法を考えてください。このゲームにはキーワードがあります。それに触れると天井が下がってきます。どんな策をとっても構いませんが、猶予は一日。それを過ぎるときみたちは圧死します。健闘を祈ります。
なんだこれ・・天井が下がって来るだと!
智博もメッセージを読んで唖然としていた。
「どうしようか・・」
智博はそう言って天井を見上げていた。
天井の高さは、おそらく3mもない。
一般の家より少し高いだけだ。
「キーワードってなんだろうな・・」
俺がそう呟いた。
「おそらく・・言葉か何かじゃないかな・・」
「だとすれば、あまり話さない方がいいかもな・・」
「この部屋・・窓もないし、出るとしたらドアからだけだよね」
天井には蛍光灯が一本だけつけられてあり、部屋の灯りは確保できていた。
けれどもスイッチはどこにもなく、きっと部屋の外に付けられてあるんだろう。
考えろ・・考えろ・・俺。
どうすれば部屋から出られるんだ。
マネキンは役に立たないし、かといって道具も何もない。
そのマネキンは着ぐるみタイプではなかった。
「これ・・壊してみる?」
智博が言った。
「中に何か入ってるか確かめるってことか」
「うん。これってゲームなんだし、100%負けってことはないと思うんだ。どこかにヒントがあるはずだよ」
「確かにそうだな」
そして俺たちは、マネキンを床に何度も叩きつけたり、それぞれ頭と足を持って引き裂こうとしたりもした。
するとビニール製で出来ているマネキンの首のあたりに亀裂が入った。
「あっ!」
俺と智博は同時にそう言った。
「よし、ここをもっと引き裂こう」
ビリビリビリ・・
すると首の部分が取れて、俺は中を確かめてみた。
「あっ!」
俺がそう叫んだ。
すると、お腹のあたりに、なにか金属製の物が引っかかっていた。
「どうしたの?」
「なにかあるぞ・・」
そこで俺はマネキンを逆さまにした。
チャリーン・・
「ああっ!」
そう、中から出てきたものは鍵だった。
「おおおお~~!」
俺と智博は、いとも簡単に部屋の鍵を探し当てたのだ。
「なんだこのゲーム。数分で攻略じゃないか」
俺は鍵を拾って、そう言った。
「ほんとだね。なんか呆気なかったね」
智博も笑っていた。
そして俺は鍵を穴に挿した。
けれども鍵が入らない。
「ちょ・・これってサイズが合ってないぞ・・」
ドーン!
そう言ったとたん、天井が下りてきた。
「ああっ!」
俺と智博はそう叫び、思わず頭を押さえてかがんだ。
なっ・・なんだ!
天井は1mほど下がった。
俺が立って手を伸ばせば、天井につく程度だった。
智博は俺より少しだけ低いので、まだ余裕があった。
「なにがキーワードだったんだろう・・」
智博は小声でそう言った。
俺は声を出さずに口パクで「サイズ?」と伝えた。
智博も口パクで「そうかも」と言った。
それから俺たちは暫く黙ったままだった。
口も利けないんじゃ、作戦も立てられないぞ。
俺は「どうする」と伝えた。
智博は「わからない」と伝えてきた。
そこで俺は手を上げて天井に触れてみた。
コンクリートで出来ていると思ったが、意外にも木製だった。
俺は何度も天井を叩いた。
すると智博が俺の服を引っ張った。
俺は「なに」と伝えた。
智博は「大丈夫なの」と伝えてきた。
俺は頷いた。
そして再び天井を叩いた。すると智博も飛び上がって同じようにした。
やがて一箇所だけ穴が開いた。
俺は智博に覗くように、肩を貸した。
智博は戸惑っていたが、俺の肩に乗った。
そして俺はゆっくりと立ち上がった。
智博は穴の開いた部分に頭を入れ、周りを確かめていた。
そして俺に下すように合図した。
俺から下りた智博は「出られる」と伝えた。
俺は「マジか」と伝えた。
そして今度は入れ替わりに、俺が智博の肩に乗った。
中を覗いて見ると、薄暗くはあったが、別の部屋と繋がっているようにも見えた。
ここを伝っていけば、少なくともここで圧死することはない。
俺は智博から下りて「行くか」と伝えた。
けれども智博は首を横に振った。
俺は「なんで」と伝えた。
智博は「背が足りない」と身振りで伝えてきた。
いやいや、俺は手が届くから自力で上がれる。
俺は「上がれる」と身振りで伝えた。
智博は「そうか」と明るい表情になった。
そして俺が智博を肩車して、天井の中に智博が入った。
そして智博は手を伸ばして俺が上がるのを手伝った。
やっとの思いで、俺たちは部屋から抜け出すことに成功した。
さあ・・どっちへ進めばいいんだ。
俺たちはまず左の方へ這いながら進んだ。
ここは高さが50cmもない。
這って行くしかなかった。
けれども進んだ先は行き止まりだった。
そして俺たちは引き返し、右の方へ進んだ。
けれどもその方向も行き止まりだった。
なんだこれ・・どこにも行けないじゃないか。
部屋からは出たのに、なぜなんだ。
「智博・・どうする」
「困ったな・・。これでは抜け出そうにも無理だね」
俺たちは仕方なく、天井から下り部屋に戻ろうとした。
その時だった。
俺は蛍光灯の傘の部分に、何かを見つけた。
俺は智博の肩を叩き、傘の部分を見るように促した。
智博は「鍵だ」と俺に伝えた。
俺は「マジか」と伝えた。
そして智博に先に下りるよう促した。
やがて俺も部屋に立ち、すぐさま傘の裏に手をやった。
そして鍵を掴んだ。
すると次の瞬間、また天井が下がってきた。
「うわっ!」
俺たちはその場にしゃがみ、天井を見た。
すると今度は50cmほど下がっていた。
俺も智博も立つことは無理だった。
「これって・・」
そこで智博は口を開いた。
「鍵を見つけるたびに下がって来るんじゃないのかな・・」
俺は話をして大丈夫かと心配しながらも、「そうなのか・・」と呟いた。
「さっきもそうだった。それで今も・・」
「確かに・・。それじゃ、俺たちがキーワードだと思ってた「サイズ」は違うってことか」
俺は「サイズ」の部分だけ口パクにした。
「そうだと思う。試しに言ってみるよ」
俺は止めようとしたが智博は「サイズ」と声を出して言った。
けれども天井は下りてこなかった。
「やっぱりそうだ。鍵を見つけたら下りて来るんだ」
智博が言った。
「よしっ、鍵を開けるぞ」
俺は鍵を穴に挿し込んだ。
これもサイズが合わないと、次に鍵を見つけても鍵穴を天井で塞がれて、開けられなくなる。
頼む・・合ってくれ・・
けれども鍵のサイズが合わず、ドアが開くことはなかった。




