五十八、失敗
俺たちはやがて本部の近くまで来た。
「いいか、俺は門の前まで行く。お前は裏に回ってくれ」
俺は智博にそう言った。
「ほんとに大丈夫なの・・?」
「大丈夫だ。それと、もし成功したらすぐに港へ行くんだぞ」
「飯島くんはどうしよう・・」
「飯島は一番あとだ。とにかくお前に任せる」
「うん、わかった。石竹くん、絶対に捕まっちゃダメだよ」
「ああ。逃げて逃げて、逃げきってやる」
そして俺は門へと近づいた。
智博は壁沿いを左側の方向へ走って行った。
あいつは、壁をよじ登るロープだって持ってる。
それと武器となる、ヘビやムカデも持っている。
智博なら大丈夫だ。
俺は門の前をウロウロしていた。
誰もいないようなので、門をガタガタと動かした。
ムリだとわかりつつも、南京錠を外そうともした。
早く来いよ。
ほら、ここだぞ。
俺は「わあーーーー」と大声も挙げた。
「ほら、ここだぞ!わざわざ来てやったんだぞ!」
ウウウウ~~~!
するとまたサイレンが鳴りだした。
よし、気がついたな。
俺はしばらく待ったが、一向に誰も来る気配がなかった。
なにやってんだよ・・
「おおおーーーーい!俺はここだ!ここにいるぞっ!」
するとほどなくして、車の走る音が聞こえた。
よしっ、来たぞ。
俺は逃げる用意をした。
車はやがて門の近くまで来て停まった。
俺は今だと思い、急いで走り出した。
「待て!」
俺はその声も無視して走った。
「待てと言っている!こいつがどうなってもいいのか!」
え・・どういうことだ・・
俺は立ち止まって振り向いた。
すると英二が智博を捕まえていた。
智博は縄で縛られ、猿ぐつわもされていた。
なにっ・・嘘だろ・・
あっ・・さっきのサイレンは、智博を見つけたサイレンだったんだ・・
しまった・・くそっ・・
考えたら、こんな安易な作戦・・成功する方がおかしかったんだ・・
助け出すといっても、智博がどうやって一人で出来るというんだ・・
俺は後悔した。
こんなことなら、俺が一人でここへ来て、捕まった方がよかったんだ・・
智博は最後の頼みの存在だったのに、台無しにしてしまった。
俺は降参して門へ戻った。
「お前・・一度ならずも二度までも。なんてガキだ」
英二は鍵を開けて俺を中へ入れた。
智博を見ると、俺に目配せをしていた。
なんだ・・智博・・なにを伝えようとしているんだ・・
「お前らのせいで、伸彦は死んだぞ」
英二が俺を睨んでそう言った。
マジか・・
マムシとムカデに噛まれて死んだのか・・
でもそれは、お前らのせいじゃないか。
「俺もこの通りだ」
英二は口を開けて、腫れた舌を見せた。
「なにを・・もたもたしてるんですか」
車から下りて来たのは憲司だった。
その後に、正紀も姿を見せた。
「航太くん・・きみは相変わらず問題を起こしてくれますね」
「・・・」
俺は暴行の恐怖が蘇り、一言も発することができなかった。
「もう降参しなさい。正紀っ」
憲司がそう言うと、正紀は俺を縄で縛り猿ぐつわもした。
そして俺と智博は、車の後部座席に乗せられた。
「それにしても・・智博が生きてたなんてねぇ。青天の霹靂でした」
憲司が助手席でそう呟いた。
「今回の騒動は、智博の悪知恵だったのですね」
智博は憲司の後姿を睨んでいた。
「伸彦を殺し、英二にはこの仕打ち。大したもんです」
憲司はそう言って笑った。
「きみたちには、たっぷりと教育してあげますから、楽しみにしててください」
やがて車は本部へ着いた。
そして俺と智博は下された。
「さて・・きみたちに入ってもらう部屋ですが・・AとB、どちらがいいですか」
憲司は冷たい視線を俺たちに向けた。
俺たちは黙っていた。
「あらあら、これじゃ喋れませんね」
憲司は正紀に目配せをして、正紀は俺たちの猿ぐつわを外した。
「さあ、AとB、どちらですか」
「・・・」
「答えないと三階へ連れて行きますよ」
憲司は手術室のことを言った。
AとBだと・・
どっちだ・・
どっちにしたって、碌なことはないに決まっている。
「A・・」
智博が答えた。
「俺もA・・」
俺もそう言った。
「二人ともAですか。まあいいでしょう。なにか策を講じたとしても絶対に実行できませんからね」
憲司は冷たく笑った。
どんなところなんだ・・
直也も蒼空も、和哉も慎之介も・・どこにいるんだ。
田地は・・どうしているんだ・・
そして俺たちは建物の中へ入れられ、階段で二階へ上がらされた。
「憲司さん・・」
俺が憲司を呼んだ。
「なんですか」
俺たちの前を歩く憲司は、振り向きもせず答えた。
「直也や蒼空・・みんなはどこにいるんですか・・」
「それを訊いてどうするんですか」
「無事なんですか・・」
「さあ?私は知りません」
憲司はからかうように言った。
くそっ・・答えないつもりだな・・
いいさ、きっと見つけ出してやる。
やがてドアに「A」と書かれた部屋の前についた。
「さて、ここでゆっくりと教育してもらいなさい」
そして正紀がドアを開けた。
すると中には、一体のマネキンが置かれてあった。




