五十七、作戦会議
俺たちはやがて、智博の家に到着した。
俺はなんだか、運命というものを感じた。
思い返せば七ヶ月ほど前、俺たち四人は、たった一日程度だったが、京子に助けられた。
今では、智博が俺たちを助けようとしている。
中へ入ると京子が使用していた水がめもあった。
「いま水を入れるから、ちょっと待ってね」
智博は柄杓でコップに水を注いでくれた。
「このコップも柄杓も、ここに住んでた京子という人が使ってたものだぞ」
俺はコップを受け取り、そう言った。
「それって、ここで白骨死体になってた人のこと?」
そう言って智博は俺の正面に座った。
「うん。京子さんはラムダに殺されたんだ」
「え・・そうなんだ・・」
「なんか、私は罪人だって言ってたんだ」
「そっか・・。かわいそうに」
「でも、お前がここを使ってて、京子さんも喜んでると思うよ」
「僕、ここのもの全部、有効利用させてもらってるよ」
「それでいいと思う」
この家は木造の平屋で、いま俺たちがいるダイニングキッチンの他に、リビングと寝室を兼ねた部屋がもう一つあった。
「お腹空いてない?」
智博が訊いた。
「いや、別に・・」
俺はまた、虫を勧められるのではないかと、少しだけ引いた。
「あはは。虫以外にも食べ物はあるよ」
智博は俺の気持ちを見抜いた。
「あ・・ごめん」
「なにがいい?燻製もあるよ」
「あ・・じゃそれで・・」
智博はキッチンの上に置いてある、保存用と思しき箱の中から肉の燻製を取り出した。
「はい、これ。ウサギだよ」
「ありがとう」
俺はそれを受け取り、一口頬張った。
「どう?」
「うん、おいしいよ」
俺はご馳走だと思った。
そして智博が好んで食べている虫も、今度試してみようと思った。
こんな時に、食料を選んでいる場合じゃない。
智博は一人で虫を捕まえ、食料にしてるんだ。
きっと最初は躊躇したに違いない。
それでも生きるために、虫も食べてきたんだ。
それを拒否するなんて、智博に失礼だもんな。
「さて、助けに行く計画を立てないとね」
智博がそう提起した。
「そうだな」
「僕の考えなんだけど、まずは村へ潜入して直也たちをここへ連れて来るっていうのはどう?」
「ここか・・。確かにいいかもな。京子さんはもういないし、誰も住んでないと思ってるだろうしな」
「それから全員で、睦月くんを助けに行くんだ」
「いや・・智博」
「なに?」
「田地だけじゃないんだ。飯島も本部にいるんだ」
「えっ!どうして本部に」
「実は・・」
俺は飯島と田地が脱走したこと、その後、捕まって飯島が本部へ送られたこと、半年後には飯島はジーナに記憶を改ざんされて現れたことなど、全て話した。
「記憶の改ざんって・・酷すぎる・・」
「でも俺たちは飯島も連れて出る。あいつだけ置いていくわけにはいかない」
「これは・・かなり苦労するね」
智博は、田地だけならなんとかなると思っていた風だった。
「飯島をどうやって説得するか・・」
「いや、記憶が改ざんされているんだから説得は無理だよ」
「じゃ・・どうする」
「飯島くんには悪いけど、気絶させて運び出すしかないね」
「気絶か・・」
「とにかく島から出さえすれば、あとは何とかなるよ」
「あっ、それと島の裏側に港があるんだよ」
「えっ、マジで!」
「ああ。俺たち地図を見つけたんだ。今は持ってないけど、直也なら持ってるはずだ」
「よしっ・・僕、明日、村へ行って来るよ」
「えっ・・」
「それで直也に地図を貰って来る」
「一人で大丈夫か」
「大丈夫。きみはここで待っててね」
そして翌日、智博は早速村へ行った。
智博はもともと足が速いのか、それともリアルサバイバル生活をするうちに、速くなったのかはわからないが、とんぼ返りで家に戻ってきた。
「智博、早かったな。おかえり」
俺は柄杓で水を汲み、智博に出した。
「ありがとう・・」
智博の様子が少し変だった。
「どうした。地図は受け取ったのか」
「いや・・それどころじゃなくなったよ」
「えっ・・」
「村のテントが無くなってた・・」
「なっ・・どういうことだ」
「わからない。それで直也の姿もなかった」
「他の者は?蒼空や和哉、慎之介は」
「おそらくいないと思う・・」
おい・・マジか・・
いなくなったって、どういうことだ・・
「まさか・・全員、本部へ連れて行かれたんじゃないだろうか・・」
「その可能性はあるね・・」
「焼却場はどうなってた」
「稼働してなかったよ」
「そうか・・」
本部へ連れて行かれたとしたら、なにをされるかわかったもんじゃない。
あんな手術室があるんだ。
今回のことで、誰かが犠牲にされて、人体実験とか・・ないよな・・
実験されないとしても、俺のように足を切られる方が確率が高いぞ・・
この島から逃げ出せないように・・
「智博・・どうする・・」
「これは急がないといけないね」
「そうだけど、どうやって助けるんだ・・」
「・・・」
さすがの智博も、考えに苦慮していた。
「智博・・」
「なに」
「お前の存在は、まだバレてないよな」
「うん・・」
「ラムダは俺が逃げたことで、総出で探していると思う」
「うん・・」
「俺が囮になるから、その間にみんなを助け出してくれないか」
「囮って・・どういうこと?」
「俺は本部の近くまで行く。そこでわざと見つけさせる」
「ちょっと・・なに言ってるんだよ」
「平気だ。何とかして逃げるよ」
「そんなっ!無理だよ」
「いや、これしかない」
「ダメだよ、石竹くん!」
「直也なら港の場所を頭に叩き込んでいるはずだ。あいつは人数分の地図を描いていたからな」
「ダメだってば!」
「じゃあどうする!時間が経てば経つほど、誰かが人体実験させられるかも知れないんだぞ!」
その後も、智博は俺の案を受け入れなかったが、俺は頑として譲らなかった。
もう時間がないんだ。
あれこれ考えている余裕なんてないんだ。
智博はようやく、俺の案を受け入れた。
そして俺たちは本部へ向かった。




