五十六、逆襲
ガチャン!
今にも麻酔液が注入されようとしたその時、窓ガラスが割れる音がした。
「なんだ!」
伸彦は俺の腕から注射器を抜き、窓の方へ歩いて行った。
英二は俺を押さえながら、伸彦の様子を覗っていた。
「うわあ~~!」
向こうから伸彦の叫び声が聞こえた。
なんだ・・なにが起こっている・・
「く・・来るな!」
伸彦は怯えながら、手術台まで後ずさりしてきた。
「伸彦!どうした。なにがあったんだ!」
英二が叫んだ。
「お前たち・・大人しくするんだ」
そこに、手作りの覆面を被った男性と思しき人間が現れた。
男は右手でヘビを持ち、左手にはビンの中に入れた多数のムカデをかざしていた。
「一歩でも動くとこれを放り投げる。言っておくがこれはマムシだ」
え・・マムシって毒ヘビじゃないか・・
っていうか・・その声・・智博じゃないか!
「お前・・何者だ!」
伸彦が訊いた。
「ふんっ、答える必要などない。すぐにその少年を解放しろ」
「なにを言ってる!」
伸彦はそう言いながら、ボタンのような物を押そうとした。
「押すと投げるからな」
智博は更に、ヘビをかざした。
それでも伸彦は押そうとして、指をボタンにかけた。
すると智博は、本当にヘビを伸彦に投げた。
「う・・うわああ~~!」
ヘビは伸彦の顔にあたり、大きく口を開けて噛みつこうとしていた。
「ひ・・ひいい~~」
伸彦はその場に倒れヘビを掴み、ヘビは掴まれた方の右腕を噛んだ。
「あ・・あああ~~!」
伸彦はパニックになり、そこら中を転げまわっていた。
その様子を見ていた英二は、俺を押さえる腕の力も徐々に緩み、ただ唖然としていた。
「その少年から離れろ」
智博は英二にそう言った。
「なっ・・なんだと!」
「このムカデは凶暴だぞ」
智博はいともあっさりと瓶の蓋を開け、ムカデを取り出した。
おいおい・・智博・・大丈夫なのか・・
智博は、ムカデを手のひらで遊ばせるように這わせていた。
おい・・マジかよ・・
「見ていろ・・」
智博はパニックになっている伸彦の傍へ寄り、服の中にムカデを入れた。
「ぎ・・ぎゃあああ~~~!い・・痛いっ!」
げ・・マジかよ・・
伸彦はヘビにもムカデにも噛まれたぞ・・
「さあ、次はお前の番だ」
智博は更にビンからもう一匹、ムカデを取り出した。
たまらず英二は俺から離れ、落ちていた注射器を拾って威嚇した。
「舐めるんじゃねえ!」
英二は智博に向かって行った。
次の瞬間、智博はムカデを英二の口の中へ押し込んだ。
「あああ~~!げえええ~~~」
英二は必死でムカデを吐き出そうとしたが、既に噛まれた後だった。
英二はその場に倒れ込み、苦痛に襲われていた。
智博は、呆然としている俺を手術台から下りるよう無言で促し、窓の方へ連れて行った。
「智博・・」
「早くここから下りるんだ」
智博はそう言いながら、手の縄を解いてくれた。
窓にはロープが掛けられており、智博はこれを伝って上って来たとわかった。
「うん」
俺は急いで窓枠に足をかけ、ロープを伝って下りた。
そして手術室は三階だということもわかった。
やがて智博も脱出し、俺たちは壁に向かった。
「智博・・ありがとう・・ほんとにありがとう・・」
俺は走りながら礼を言った。
「危機一髪だったね」
「俺・・足を切断されるところだったんだ」
「まったく、酷いことするよね」
「あ・・直也たちはどうなった?」
「うん・・」
智博の表情が暗くなった。
「ちょ・・まさか・・」
「直也は誤魔化しきれなくて、暴行を受けたよ」
マジか・・
「っていうか・・俺が監禁されて何日経ってるんだ・・」
「一週間だよ」
「そ・・そうか・・」
一週間は長すぎた。
おそらく、翌日には村に連絡が行ったに違いない。
いくらなんでも誤魔化しきれない。
直也・・すまん・・
「智博の存在ってバレてるのか」
「ううん。それはバレてない。僕は死んだ人間のままだよ」
「そうか・・」
「もうきみは、村には戻れないよ」
「えっ・・なんで・・」
「本部から脱走したことも、直ぐに伝わる。それで村に戻ったりしたら、もう二度と拷問部屋から出ることはできないし、それどころか、また本部へ送られて、今度こそ足を切断されるよ」
「・・・」
「それより僕の家に行こう。そして二人でみんなを助け出すんだ」
「うん・・」
「元気を出しなよ。直也は大丈夫だよ」
そして俺たちは壁の近くまできた。
智博は、いともあっさりと木によじ登り、壁に飛び移った。
「石竹くん、早く!」
智博は壁から手を差し伸べていた。
俺も同じ要領で木に登り、壁に飛び移った。
「さあ、飛ぶよ!」
智博は壁から飛び、地面に落ちた。
俺も後を追うようにそうした。
みんな、待っててくれ。
必ず助けに行くからな。
そして俺たち二人は家へと急いだ。




