五十五、手術
俺が監禁されて、何日経ったのかもわからなかった。
水は与えられたが、食事は一日一食、それも粗末な物ばかりで俺は腹が減って仕方がなかった。
トイレも行かせてもらえず、監禁された翌日、英二が簡易便器を部屋に運んできた。
これじゃ、まるで囚人じゃないか。
男は「重罪」だと言ってた。
囚人扱いも当然なのだろう。
ここには窓もなく、俺は薄暗い部屋で一日中、床に座るしかなかった。
寝るのも床の上だ。
身体の節々が痛くなり、時々ストレッチを行った。
ガチャン・・
ドアが開く音がした。
ああ・・食事か・・
俺はドアに目をやった。
いつものように英二が入ってきた。
「出ろ」
いきなり英二はそう言った。
「え・・」
「聞こえなかったのか。出ろ」
「は・・はい・・」
俺は立ち上がり、部屋を出た。
一体、次は何だ。
どこへ連れて行かれるんだ・・
英二は俺の手を縄で縛った。
「行くぞ」
俺は英二に言われるがまま、後を着いて行った。
そして建物の外に出された。
「どこへ行くんですか・・」
俺は英二に訊いた。
「黙って歩け」
英二は前を向いたまま、冷たくそう言った。
しばらく歩くと森を抜け、目の前には大きな工場と思しき建物が見えた。
あれは・・きっとマネキン工場だ・・
俺はすぐにわかった。
工場を通り過ぎると、三階建ての立派な洋館が姿を現した。
そこは住居というより、モダンな公会堂や貴賓館という佇まいだった。
あんなものを・・どうやって造ったんだ・・
あそこにジーナと田地がいるのかも知れない・・
「英二、ご苦労」
俺に尋問した男が建物の入口に立っていた。
「伸彦、そっちはどうだ」
この男は伸彦っていうのか・・
「準備OKだ」
準備・・?
なんの準備だ・・
まさか・・死刑の準備か・・
「怖がっているようだな」
伸彦は俺の様子を見て、そう言った。
「えっ・・別に・・怖がってなんか・・」
「安心しろ、死刑は免れたぞ」
「えっ!ほ・・ほんとですか!」
「お前には教育が必要だな」
伸彦はほくそ笑んだ。
き・・教育って・・
「お前は村でも「問題児」だったそうだな」
「そ・・そんなっ・・」
そうか・・
あれから憲司に聞いたんだな・・
それより・・智博は・・直也は・・蒼空たちはどうなってるんだ・・
そして俺は目隠しをされ、建物の中へ入れられた。
くそっ・・様子がわからない。
俺はこのまま拷問部屋へ連れて行かれるのか・・
そして、どうやらエレベータに乗せられたようだ。
何階へ着いたのかわからないが、ここは三階建てだ。
少なくとも二階か三階で、一階ではない。
しばらく歩いてドアが開く音がした。
そして中へ入れられた。
そこで俺は目隠しを外された。
なんだ・・ここは・・
目の前に現れたのは、手術室のようなところだった。
無影灯が天井からぶら下がり、手術台、医療器具、心電図モニターなどが取り揃えられてあった。
ちょ・・待て・・
待て待て待て・・
手術・・?
俺・・手術されるのか・・
まっ・・まさかっ!
これが人体実験というものなのか!
「あのっ!」
俺はそう叫んだ。
「なんだ」
伸彦が答えた。
「今から・・なにをするんですか・・」
「見ての通りだ」
「見ての通りって・・手術・・ですか・・」
「そうだ」
「だ・・誰の・・」
「お前に決まってるだろう」
「え・・」
俺の怯えた姿を見て、伸彦も英二も笑っていた。
「麻酔はしてやるから、安心しろ」
伸彦は引き戸のロッカーを開け、手袋を取り出していた。
「怖がることはない。足を切るだけだ」
英二が追い打ちをかけるようにそう言った。
「い・・嫌だ・・」
俺は後ずさりをした。
「本部へ侵入するという暴挙は重罪。本来なら死刑のところを、足の切断で済むんだぞ。感謝しろよ」
伸彦は俺に近づいてきた。
「も・・もう・・二度としません・・しませんから・・」
「もう遅いんだよ」
「い・・いや・・だ・・」
「英二」
伸彦がそう言うと、英二は俺を抱えて手術台に乗せた。
「嫌だ!お願いです、やめてください!」
俺は必死で抵抗したが、英二に押さえつけられ身動きが取れなかった。
「遅いんだよ・・」
伸彦は注射器を持ち、俺の腕に近づけた。
「嫌だ・・嫌だああああ!」
俺は首を左右に振った。
「大人しくしろ」
俺の耳元で英二がそう言った。
「お願いです!お願いですから、もう二度としません!だから許してください!」
俺はもう、無我夢中で泣き叫んだ。
なんでこんなこと・・
俺がなにをしたと言うんだ・・
俺は・・けっして親孝行の息子とは言えなかったが・・何も悪いことはしてないぞ・・
神様・・お願いです。
母に文句も言いません・・
家の手伝いもします・・
勉強もします・・
いい子になりますから・・俺を救ってください・・
やがて俺の腕に注射針が刺さった。




