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五十一、生存




田地が連れて行かれて一週間が過ぎた。

あのあと俺は、総帥に対しての反逆罪として、また暴行を受けた。

しかも俺だけだ。

これは憲司の俺に対する、個人的な嫌がらせとしか思えなかった。


それと、この半年間で積み上げた監視員との信頼関係も、憲司によって打ち砕かれた。

結局、元の木阿弥、振出しに戻ったわけだ。

いや、振出しというより、一層厳しくなったという方が適切かも知れない。

田地が本部へ行ったことで、畑仕事には蒼空が回されていた。


「田地・・どうしてるんやろな・・」


直也がテントの中でそう言った。

今は夕飯を食べ終えて、テントに戻ったところだった。


「さあな・・」

「でもさ・・田地ってなにを隠してるんやろな」

「それなんだよ。田地って元々はとてもわがままで、あんな物分かりのいいやつじゃないんだよ」

「そうみたいやな」

「それがあんな、自分を犠牲にしてまでみんなを解放してくれなんて絶対に言わないやつなんだよ。むしろ自分が一番先に助かりたいって言うやつなんだよ」

「そうか・・」

「記憶を消されてないといいんだけどな・・」

「それはないんちゃうか。田地はジーナには逆らわんやろ」

「それだといいんだけど・・」

「ジーナって、あれやん、本心を言われるのを、まんざらでもなさそうやったやん」

「ああ・・うん」

「それに友人がほしいって言うてたやろ。ジーナに気を使って本心も言えんかったら友人の意味がないやろ。ましてや記憶を改ざんしたところで、もっと意味がないやろ」

「まあ、確かに」

「だから記憶を消したりすることはないと思う」

「じゃ、飯島はなんで記憶を改ざんされたんだろう」

「そら逆らったに決まってるがな。普通は逆らうって」

「そりゃそうだな・・」


飯島の場合、記憶を消されただけでなく改ざんされた。

しかも徹底的にだ。

よほど逆らったに違いない。

飯島の記憶は・・一生今のままなんだろうか。

なんとか元に戻す方法はないものか・・



それから二日後、俺と直也はまた、道の整備をさせられることになった。

以前と同じように、俊介と宗一郎が俺たちの監視役につき、銃も携行していた。


「まったく雑草ってのは、抜いても抜いても生えてくるもんだな」


俊介は、やれやれと言った風にこぼした。


「さて、始めるぞ。取り掛かれ」


現場に着き、俊介が号令をかけた。

俺たちは持参していた鎌で、早速刈り始めた。

季節は冬であったが、なぜかこの島は暖かく、雑草も年中生えている状態だった。

それでも真夏の炎天下とは違い、作業もそれほど辛くなかった。


俺と直也は口もきかず、もくもくと手を動かしていた。

その時だった。

俺の前方に人の顔が見えた。

そいつは草むらに隠れ、じっとこっちを覗っていた。


げっ・・誰だ・・

俺は手を止めることなく、そいつをじっと見た。

え・・

あれは・・

いや・・嘘だろ・・


そう・・

俺が見たのは死んだはずの智博だった。

ゆ・・幽霊・・?


「直也、こっちを手伝ってくれ」


俺は直也に声をかけた。

俊介も宗一郎も、さして気に留めることはなく、直也は「うん」と言って俺の傍にきた。


「直也・・」


俺は手を動かしながら、小声でそう言った。


「なんや・・」


直也は俺の様子を察し、小声で答えた。


「前を見てくれ・・黙ってな・・」

「え・・なんやねん・・」

「いいから・・黙って前を見てくれ・・」


すると直也は草むらから少しだけ顔を見せている、智博と思しき人間を見た。


「えっ・・」


直也は愕然とし、手が止まった。


「直也・・手を動かせ・・」

「あ・・ああ・・」


すると智博と思しき人間は、俺たちの前から消えた。


「ちょ・・マジかいな・・」

「あれ、智博だよな・・」

「う・・うん・・」


「あのっ!」


俺が俊介に向かってそう言った。


「なんだ」

「ちょっとお腹が・・。向こうへ行って排便してもいいですか・・」


俺は智博が消えた場所を指してそう言った。


「まったく・・。汚いな。まあいいだろう」


俺は俊介の許可を得て、草むらの中へ入った。

おい・・智博・・どこだ・・

俺は更に前へ進んだ。


「こっち・・こっち・・」


草むらの中から智博が俺を呼んだ。

やっぱり智博だ。

しかも幽霊じゃない。

なぜだ・・

なぜ生きてるんだ・・


「智博・・お前、死んだんじゃないのか」

「死にそうになったけど、助かったんだよ」


智博はあっけらかんと言った。


「今までどこでいたんだ」

「森の中に家があってね。そこでいたんだ」

「え・・それってもしかして・・死体とか・・なかったか・・」


俺は京子の家のことだと思った。


「うん。白骨死体があったけど、僕、埋めてあげたんだ」

「ま・・マジか・・」


以前の智博は、大人しくて消極的な印象だったが、目の前にいる智博は、なんだか逞しく見えた。

半年以上も一人でいたんだもんな・・強くなるよ。


「あ、俺もう戻らないとヤバイ。お前はどうする?助かったってことで一緒に来るか」

「ううん。僕は戻らない。もう奴隷はまっぴらだ。これでも半年以上、一人でやって来れた。これからも大丈夫だよ」

「そっか・・」

「そのうち、村へ潜入するよ。直也にもよろしく言っといてね」

「あ・・ああ。わかった」

「じゃあね」


智博は俺が戻る前に、素早くこの場から去った。


俺たちは作業を終え、村に戻った。

俺は早速、テントの中で智博のことを直也に話した。


「やっぱり生きてたんやな・・あいつ・・」


直也はそう言ったとたん、涙を流した。


「生きててよかった・・助かって・・よかった・・ううう・・」

「それで、智博はここに潜入すると言ってたぞ」

「え・・マジかいな!」

「俺・・田地のことを訊いてみようと思うんだ。あいつは智博が死んだと思ってるからな。そのせいであいつ、あんなに痩せて・・」

「うん、そうやな・・」


それから二日後、智博は本当にここへ潜入してきた。

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