四十九、座談会
俺たち一行は村に戻り、ジーナと飯島はコンクリートの建物の中へ入った。
俺は直也を連れて焼却場へ行った。
「石竹、なんやさっきから変やぞ」
直也は俺の様子を見てそう言った。
「いいか、直也。よく聞け」
俺は直也の肩を掴み、迫るように言った。
「な・・なんやねん」
直也は少し戸惑っていた。
「お前、さっきのこと覚えてないのか」
「だから・・知らんって」
「ジーナの目が光ったことも覚えてないのか」
「だから・・知らんいうてるやん」
やっぱり記憶を消されている。
これは・・大変だ・・
「お前、一瞬だけど記憶を消されてるぞ」
「おいおい・・マジかいな」
直也は呑気にも、半分笑っていた。
「笑い事じゃない!記憶を消されたってことは、一大事だぞ」
「それがほんまならな」
「俺が嘘をついていると言うのか!」
「ちゃうけど・・」
「じゃあさ、お前はなんであの場に倒れてたんだよ。倒れるまでのこと言ってみろよ」
「えっとやな・・ジーナがこっちに来て・・俺の目を見て・・うーんと・・」
「その後は!」
「そんな怒鳴らんでもええがな」
「その後、お前を見つめたジーナの目が光ってお前は倒れたんだぞ」
「そうらしいな・・」
「それを覚えてないっていうのは、記憶が消されたってことだろ」
「・・・」
直也は俺の腕を離し、考え込んでいる様子だった。
「俺、考えたんだけどさ。飯島は記憶が改ざんされてるんじゃないだろうか」
「え・・」
「だってあいつ、全く俺たちのこと覚えてないどころか、ここで生まれ育って両親もいると言ってるんだぞ。そんな記憶、おかしいだろう」
「・・・」
「あいつの父親は医者で、あいつも医者になるんだよ」
「そうなんや・・」
「一つ確実にわかったことは、ジーナの機嫌を損ねると、気絶させられるのは序の口で、最悪、記憶を消され改ざんされるんだ」
「・・・」
「お前、次はそうさらせれるぞ」
「マジか・・」
直也はようやく、事の深刻さに気がついたようだ。
「俺・・なんかわからんけど、あんまり大したことない気がしてて・・」
「え・・どういうことだよ」
「わからん・・わからんけど、石竹、なにマジになってんねんって思ってて・・」
どういうことだ・・
ひょっとして、気絶させられたことと関係があるのかも知れない・・
「俺にも細かいことはわからないけど、直也はきっとジーナの影響を少なからず受けたに違いない。だから大したことじゃないと思い込んでる・・いや、そう仕向けられたんだと思う」
「・・・」
「俺の言うことが事実だ。お前は倒れて記憶を失ったんだ。これだけは肝に銘じておくんだ」
「う・・うん・・」
それから俺は、蒼空たちにもこのことを話した。
ジーナが本部に戻るまで、けっして機嫌を損ねてはならないということも。
そして夜になったころ、俺たちは全員、コンクリートの建物に呼ばれた。
どうやらジーナの命令らしかった。
なにが行われるのか、俺はとても嫌な予感がしていた。
ジーナは食堂のテーブルの椅子に座っていた。
「総帥の命により、ただ今より座談会を行う」
憲司が用意された椅子に、俺たちに座るよう促した。
座談会・・?
なにが始まるんだ・・
俺たちは戸惑いながらも、それぞれに座った。
「ここは我々のみで行う」
ジーナは憲司たちに出て行くよう言った。
憲司は「はっ」と言い、頭を下げて食堂を出て行った。
その後に正紀たちや監視役のやつらも続いた。
食堂に残ったのは、ジーナ、俺、直也、蒼空、和哉、慎之介、そして飯島だった。
「ここにいるのは、同年代だな」
ジーナがそう言った。
けれども誰も返事をしなかった。
俺の話を聞いたみんなは、ジーナを恐れていたからだ。
「総帥がお訊きになっている。返事をしろ」
飯島が言った。
「そうです・・」
俺が小声で言った。
「他の者は?」
ジーナが再び訊ねた。
「そうです・・」
次から次へと、みんなが返事をした。
「この中で私と友人になってくれる者はいないか」
え・・友人・・?
なにを考えている・・ジーナ・・
俺たちは全員、ジーナから目を逸らしていた。
「友人って・・どういうことですか・・」
俺がたまらず訊いた。
「どういうこと?友人の意味がわからないのか」
ジーナは俺を見た。
「いえっ・・なんていうか・・総帥の友人だなんて、畏れ多くて・・」
「あはは。みんなそう言う。なぜ畏れ多いのだ」
「いえ・・その・・ラムダの総帥の友人なんて・・我々平民にはあまりにも分不相応です・・」
「私にはね、友人がいなくてね」
ジーナの表情が、突然冷たく変わった。
あの時と同じだ・・
直也を凝視した・・あの表情と同じだ・・
「一人でも友人になってくれたら、他の者たちは解放してやってもいいと思っているんだが」
えっ・・
今・・なんて言った・・?
解放って・・この島から出られるってことか・・
でも・・返事を間違うと・・気絶させられるかもしれない・・
蒼空や直也たちを見ると、顔から血の気が引いていた。
「返事はどうした」
飯島が言った。
「あ・・あのぅ・・」
声のする方を見ると、食堂の入口で田地が立っていた。
「たっ・・む・・睦月!」
俺は思わず田地と呼びそうになった。
「お前、どうしたんだ。休んでおかないとダメだろう」
俺は田地に駆け寄り、身体を支えた。
「この子、誰?」
ジーナが訊いた。
「あの・・この子は睦月といいます。具合が悪くて今日は休んでいました」
俺が説明した。
「ふーん」
ジーナは田地をじっと見ていた。
「た・・いや、睦月、お前、どうしてここに来たんだ」
「僕・・総帥にお話があって・・」
俺は田地をとりあえず座らせた。
「私に話とはなんだ」
ジーナが訊いた。
「あの・・僕でよければ総帥の友達になりたいです・・」
え・・なにを言ってるんだ、田地!
「ふーん」
ジーナは意に介さない様子だった。
「それと・・樹生くん・・」
田地は飯島を見て呼んだ。
飯島は見知らぬ人間に声をかけられ、怪訝な表情を浮かべた。
「僕のせいで・・ごめんね。きみをこんな目に遭わせて・・」
おい・・田地・・。
そこに触れるのはタブーだぞ・・
少なくとも今はタブーだ・・
「なにを言っている。口を慎め」
飯島は田地をたしなめた。
「睦月・・だったか。お前、私の友人になろうというのか」
ジーナが訊いた。
「はい。それでみんなを解放してあげてください・・僕は・・一生ここで暮らします・・」
なに言ってるんだ・・
お前を犠牲にして俺たちだけ助かろうなんて、思ってないぞ!




