四十六、総帥、来る
今日は、いよいよラムダの総帥とやらが、やって来る日だ。
そのため村は、いつもの仕事は中止で、朝から監視員たちは落ち着かない様子だった。
ただし厨房だけは、ご馳走を拵えるのに、俺と直也、蒼空と和哉も駆り出されていた。
田地は体調不良のため、テントで休んでいた。
しかし俺は実のところ、総帥に田地を見せたくないのだと思っていた。
それか、ひょっとすると田地しか知らない情報を、喋られては困るからだとも推測していた。
「おい、航太。これをテーブルにかけてくれ」
食堂の監視員である裕文が、白のきれいなテーブルクロスを俺に手渡した。
「はいっ」
俺はそれを受け取り、テーブルに丁寧にかけた。
「これもテーブルの上に、置いとくんですよね」
直也が花瓶を持って、裕文に訊いた。
「ああ、そうだ。中心に置くんだぞ」
「はいっ」
蒼空と和哉は、食堂に掃除機をかけていた。
厨房の中では慎之介が、オーブンで肉を焼いていた。
その横で裕文の嫁である栄子が、野菜を切っていた。
「もう準備は整いましたか」
そこに憲司がやって来た。
「はい、あと少しで整います」
裕文が答えた。
「総帥の好みは揃えてあるんでしょうね」
「もちろんです」
「そうですか。それならよろしい。では私は出迎えに行きますので、あとはよろしく」
憲司は正紀と拓海を従えて、食堂を出て行った。
ほどなくして、食堂の準備は整った。
あとは総帥が着席して、料理を運ぶだけだ。
「よし、お前たち、ご苦労だった。お前らは建物の入口で総帥をお迎えしろ」
裕文、栄子、慎之介だけ残り、俺たちはコンクリートの建物の前で総帥を待つことになった。
入り口では、俊介、宗一郎、彰人、克樹、小百合、それと清掃担当の凛太郎、隼人が立って待っていた。
「お前ら、くれぐれも粗相のないようにな」
俊介が俺たちに釘を刺した。
「はいっ!」
俺たち四人は、声を揃えて元気よく返事をした。
「そして45度に頭を下げることも、忘れないように」
宗一郎が言った。
「はいっ!」
まるで軍隊だな・・
さて・・総帥とはどんなやつなんだ。
俺は半ば、興味深くもあった。
やがて十分ほど過ぎたところで、憲司を先頭に「ご一行」がやって来た。
「総帥のお出ましである。頭を下げよ」
俊介が号令をかけ、俺たちは全員頭を下げた。
どんなやつなんだ・・これじゃ見えないぞ。
「皆の者、出迎えご苦労」
そこで総帥らしき男がそう言った。
「頭を上げよ」
総帥は続けてそう言った。
俺たちは静かに頭を上げた。
すると目の前には、子供かと思えるほどの小さい男が立っていた。
え・・これが総帥・・?
俺の予想は大きく外れた。
俺が想像していたのは、上から見下ろすような大男で、いかついやつだ。
けれども目の前にいるのは・・これは・・子供じゃないのか・・
「総帥、この者たちがラムダの新人です」
憲司が俺たちを紹介した。
「そうか。よくぞ我がラムダへ」
総帥は俺たちを見上げ、ニコリと微笑んだ。
おそらく総帥の身長は、140cmくらいだ。
俺が170で蒼空が165で、それよりもずっと低い。
あっ!
総帥に気を取られて気がつかなかったが、あれは飯島じゃないか!
総帥の後ろに立っていたのは、飯島と別の男が一人。
飯島は、軍服のようなものを身に着け、ベレー帽を被っていた。
もう一人の男も同じだった。
飯島は俺たちと視線を合わせることもなく、ずっと総帥を見ていた。
心なしか・・感情が見て取れないのはなぜだ・・
「では総帥。こちらへ」
憲司がそう言って、正紀が鉄の扉を開けた。
そして「ご一行」は建物の中へ入った。
「飯島くん・・いたよね・・」
蒼空が小声で言った。
そして俺たちも続けて中に入った。
総帥は憲司の部屋に案内され、俺たちは食堂で待つことになった。
「ちょ・・石竹・・」
直也が俺を呼んだ。
「なんだ」
「総帥って・・子供ちゃうん?」
「確かに・・子供みたいだったな」
「あれが総帥て・・。なんか説得力無いな」
「でもさ、あの憲司よりも偉いんだぞ。子供でも侮れないぞ」
「確かにそうやな・・。それより飯島が元気そうでよかったな」
「うん。とりあえず生きてたことだけでもよかったよ」
俺は飯島がこの半年でどんな扱いを受けたのか、まったく知らない。
けれども以前の飯島と違う気がしていた。
「慎之介、その紅茶だ」
厨房では、裕文が慎之介に紅茶の準備を指示していた。
「俺たちも、なんか手伝いましょうか」
直也が厨房の近くへ行き、そう訊ねた。
「いや、ここはいい。お前たちは総帥をお迎えしろ」
それから監視員も含めて、俺たちは全員、食堂の入口に立って待っていた。
ほどなくして総帥一行が食堂に来た。
「総帥、こちらへ」
憲司がテーブルの椅子を引いて、総帥に座るよう案内した。
「ああ」
総帥は椅子に座り、食堂を見渡していた。
「綺麗にしてあるな」
総帥はボソッと呟いた。
「恐れ入ります」
掃除の監視員である凛太郎が答えた。
「総帥、ようこそお越しくださいました。お紅茶でございます」
裕文が紅茶を差し出した。
「ありがとう」
「このあと、お食事もご用意いたしておりますので、存分にご堪能ください」
憲司がそう言った。
「あまり気を使うなと言ったはずだ」
総帥は紅茶のカップに手をやりそう言った。
「では改めて。私はラムダの日本支部総帥である、ジーナだ」
え・・ジーナって・・日本人じゃないのか・・
「ジーナ総帥は、ラムダの総帥であるマドロ総帥のご子息であられる。ゆくゆくはラムダの総帥になられるお方だ」
突然、飯島が口を開いた。
飯島・・
なんか・・すっかりラムダの人間になってるじゃないか・・
それは演技か?それとも・・洗脳されてしまったのか・・




