四十五、田地の秘密
田地は、智博が死んでから人が変わったようになった。
食事を十分に摂らないことも、俺にとっては意外過ぎるくらい意外なことだったが、あんなにわがままだった田地が、それを封印してしまったことだ。
人の死を目の当たりにしてショックだったのはわかる。
けれども、人間には自ら生きようとする力が備わっているものだ。
つまり、時間が経てばショックも薄れていくはずなのに。
それに智博が死んだ当時のことを、いくら訊いても田地は一切口を開かなかった。
こんな時こそ仲間を頼りたいというのが、自然な気持ちのはずだ。
けれども田地は、どちらかというと俺たちを避けているようにも見えた。
そこで俺は考えた。
田地は、ラムダに弱みでも握られているのではないかと。
そこで俺と直也は夕食の後、田地のテントへ行くことにした。
直也も田地の様子が、どうも変だと思っていた。
「おーい、田地」
俺はテントの前で声をかけた。
「遊びにきたぞ」
「開けて~」
直也も呼びかけた。
すると田地が扉を開けた。
「どうしたの・・」
「どうしたって・・遊びに来たんだよ」
田地は少々、迷惑そうな顔をした。
「中へ入れてくれ」
俺が言った。
「うん・・いいよ・・」
田地は仕方なく、俺たちを中へ入れた。
「田地、夕食、ちゃんと食べたのか」
俺と直也は小さなテーブルを挟んで、田地と向き合って座った。
「うん・・」
「なあ~田地。ちゃんと食べなあかんて。前みたいに太れとまでは言わんけど、もうちょっと肉をつけなな」
「でも・・食欲がないんだ・・」
田地は俯いたままだった。
「お前、このままだと倒れてしまうぞ」
俺がそう言った。
「こんなこと訊くのも何だけどさ・・お前って克樹と小百合になんか弱みでも握られてるのか」
俺がそう訊くと田地は顔を上げて、慌てて首を横に振った。
「もし・・弱みを握られてるなら言ってくれ。俺たちもなにか考えるから」
田地はまた慌てて首を横に振った。
「飯島は、何か知ってるのか」
俺がなにを訊いても田地は首を振るだけだった。
「なあ、田地」
直也が言った。
「俺な、智博が死んだ時のこと、知りたいねん。俺、あいつと親友やったんや。俺の気持ちわかってくれるやろ?」
直也が訊いても田地は口を開かなかった。
またいつもと同じだ・・
なぜなにも言わないんだ・・
「お前もここから出たいだろう?」
俺がまた訊いた。
「・・・」
「出たくないのか?」
「・・・」
「家に帰りたくないのか」
「もう・・もう・・なにも訊かないでくれ・・」
「え・・」
「ぼ・・僕は・・ここで一生暮らすしかないんだ・・」
「おい・・なに言ってるんだよ」
「もう・・僕は・・家には帰れないんだ・・」
「ちょ・・田地。なに言うてんねん」
直也が田地の腕を掴んだ。
「お前・・ここから出たないんか。なんやねん、一生ここで暮らすって」
「いいんだ・・僕のことはいいから・・きみたちだけで逃げてくれ・・」
田地は直也の手を振り払った。
「あほか!そんなことできるわけないやろ!」
直也はまた、田地の腕を掴んだ。
「きみたちの計画は・・一切誰にも言わない。それは誓って約束する。だけど・・僕はもう・・いいんだ・・」
そして田地は、再び直也の手を振り払った。
田地・・どうしたんだ・・
なにを隠してる。
なにをそんなに苦しんでるんだ・・
「田地、弱みなんていいから、言えよ。俺たちが何とかするから言ってくれ」
「・・・」
「田地!」
俺は怒鳴った。
すると田地はビクッとしたが、口を開くことはなかった。
翌日の夜、俺たちは蒼空のテントへ行った。
「・・というわけなんだよ」
昨日のことを蒼空に話すと、「そうなんだ・・」と言った。
「蒼空、なんか聞いてないか」
「僕もさ、田地くん元気ないから、どうしたのって何度も訊いてるんだけど、何も話してくれないんだ」
「そうか・・」
「和哉はなんも聞いてへんのか?」
直也が和哉に訊いた。
「うん。何も話してくれないよ」
一体、どうしたんだ・・
「それよりさ、今日、僕たちが掃除してたら正紀と拓海の会話を聞いちゃってね」
蒼空が言った。
「へぇ~どんな会話?」
俺が訊いた。
「なんでも、今週中くらいかな・・本部から総帥が来るらしいよ」
「えっ・・総帥って、ラムダのリーダーってことか」
「うん、そうみたい」
「マジかよ。なにしに来るんだろうな」
「さあ、それはわかんない。なんか、すごく気を使ってる風だったよ」
「というと?」
「くれぐれも粗相がないように・・的な。ね?和哉くん」
蒼空が和哉に訊いた。
「うん。食事はなににするだの、どこを見てもらうだの」
「っちゅうことは・・俺らの仕事場にも来るいうことか」
直也が言った。
「そうだと思う。だからおそらく、それぞれの監視役のやつらが僕たちに注意するんじゃないかな」
蒼空が答えた。
「ああ・・それこそ粗相がないようにいうことやな」
「それだけ気を使うって、どんなやつなんだろうな・・」
俺が呟いた。
「あれやん。この際、粗相しまくって、びっくりさせたろか」
直也は冗談を言って笑った。
「なに言ってるんだよ。機嫌を損ねて人体実験されるぞ」
俺がそう言った。
「あはは。でもさ、ここのやつらに一泡吹かせてやりたいやん」
「いやいや、ダメだって。これまでの我慢がパアになってしまうぞ」
「そうだよ、直也くん。それはダメだよ」
直也は蒼空にもたしなめられた。
「それじゃ、そろそろ帰るよ」
そう言って俺は立ち上がった。
「田地の話は、また今度しよか」
直也も立ち上がった。
「僕たちもまた話してみるよ」
蒼空と和哉も立ち上がって、俺たちを見送ってくれた。
「なあ、石竹」
テントへ向かって歩いていると、直也が呼んだ。
「なんだ」
「田地・・マジで気を付けとかなあかんで」
「うん・・」
「あいつ、絶対になんか隠してる。食欲がなくなるくらい重大なことを隠してるわ」
「そうだよな・・」
「智博の死と関係があることは、確かやと思てる」
直也の言う通りだ。
そこに克樹と小百合が関わってることも、ほぼ確実だ。




