四十三、飯島樹生
それから三日後・・ついに飯島と田地は捕まってしまった。
連れ戻されたところを、偶然、俺は見た。
飯島も田地も、後ろ手に縄で縛られ、猿ぐつわもされていた。
俺は二人のこの後のことを考えるだけで、背筋が寒くなる思いがした。
ちなみに、三日前の朝食を作る際に、慎之介はバレないように包丁と千枚通しを戻し、事なきを得た。
俺たちはまた、いつもの「日常」に戻っていた。
直也は人数分の地図を描き、それぞれに配るチャンスを覗っていた。
そして突然、ニュースが飛び込んできた。
俺たちの予想通り、飯島は本部へ送られることになったのだ。
「えらいことになったな・・」
直也はマネキンを炉に放り込んでいた。
「いつなんだろう・・」
俺はマネキンを仕分けしていた。
「決定したら早いと思うで。今日か明日中ちゃうか・・」
「そんなに・・」
もう止めることはできない。
ならば・・せめて言葉だけでもかけたい・・
飯島・・かわいそうに・・
「俺、宗一郎か俊介に頼んでみる」
「え・・頼むってなにをや」
直也は手を止めて振り向いた。
「話をさせれくれって」
「話か・・」
「いくらなんでも、それくらいはさせてくれるだろう?」
「まあ・・そうやな」
そして午後になり、宗一郎が荷車でマネキンを運んできた。
「ほら、今日の分は、あとこれだけだ」
宗一郎はそう言って出て行こうとした。
「あの・・宗一郎さん」
俺が引き止めた。
「なんだ」
宗一郎は立ち止まって振り向いた。
「お願いがあるんですけど・・」
「お願いだあ?」
宗一郎は、俺の意外な言葉に半ば呆れていた。
「樹生くんが本部へ行くので、最後に話をさせてもらえませんか」
「最後にってなんだ。お前だって昇格する可能性はあるだろう」
「俺は・・いつ行けるかもわからないし・・」
「ふーん」
「それに・・ここへ来たのも樹生くんと一緒だったし、俺も必ず行くからと、声をかけたいんです」
「まあ、別にいいだろう。その代わり、二人にはしないからな。俺も立ち会う」
「はい、それでいいです」
よかった・・
別に宗一郎が立ち会おうがどうしようが、構わない。
俺は飯島を励ましたかった。
本音は決して口にできないが、飯島は賢いからきっと察してくれるに違いない。
そして直也の予想通り、飯島の本部行きは今日になってしまった。
夕方になり、宗一郎が俺を呼びにきた。
「行くぞ」
「はい」
「樹生によろしく言うといてな」
直也は焼却場の入口で、俺を見送ってくれた。
俺は「うん」と頷いて、宗一郎に着いて行った。
村の入口まで行くと、飯島と側近の正紀と拓海もいた。
そうか・・この二人が連れて行くんだな・・
「樹生くん・・」
俺は本当は飯島と呼びたかった。
「航太くん・・」
飯島も俺を航太と呼んだ。
「樹生くん、本部への昇格おめでとう」
「ありがとう」
「本部へ行っても精進して、ラムダのために頑張れよ」
「うん、そのつもりだよ」
「もう二度と逃げ出すんじゃないぞ。もっと勉強して、もっと大きな人間になってくれ」
「うん、わかってる」
「俺もここでもっと頑張る。必ず本部へ行くから待っててくれ。そしてお互いラムダのために尽くそうな」
「航太くん、待ってるよ。必ず来てくれ」
そこで俺は飯島を抱きしめた。
その際、正紀たちにバレないように、メモ用紙をシャツの背中に入れた。
そして偶然にも、飯島も俺に同じことをした。
「ほら、行くぞ」
正紀が言った。
そして飯島は村を出て行った。
飯島・・頑張れ。
絶対に死ぬなよ・・
俺は宗一郎に礼を言い、仕事の後片付けをしに、焼却場へ戻った。
「飯島、どうやった?」
先に片づけをしていた直也が訊いた。
「見た目は元気そうだったけど、目は死んでたよ」
「そっか・・、そりゃそうなるわな・・」
「あ、そうだ」
俺はそう言ってシャツをズボンから出し、メモを取り出した。
「これだ、これ」
「それ、もしかして飯島からか?」
「うん」
俺はメモを広げて読んだ。
―――石竹くん、僕が逃げ出したせいで田地が大変なことになった。連れ戻されてからは田地を見ていないが、きっと拷問されたに違いない。田地は僕と逃げている間も、死んだ方がマシだと言っていた。僕は本部へ行かされる。そこでなにをされるかわからないが、僕は大丈夫だ。何があっても死を選んだりはしない。でも田地はそうじゃない。仕事もテントもあいつ一人だ。石竹くん、どうか田地を頼む。飯島
俺は泣きそうになりながら、直也にメモ用紙を渡した。
飯島・・お前、こんな時でも田地のことを・・
自分がどれだけ恐ろしい目に遭うかわからない、こんな時なのに・・
「飯島って・・ええやつやな・・」
直也が呟いた。
「うっ・・ううう・・」
俺はその言葉を聞いて、涙が溢れ出た。
「石竹・・」
「ううう・・飯島・・」
「かまへんがな。泣いたらええ」
直也は俺の肩を叩いてそう言った。
「石竹、俺らには希望があるで」
「え・・」
「地図を見つけたんや。本部の道かてわかったし、港だってわかったがな」
「うん・・」
「飯島と田地も連れて、みんなでこの島を出るんや」
「そうだな・・」
「ほら、それまでは元気を出さな!さあ、片づけしよか」
俺は直也の言葉に励まされ、片づけを始めた。
飯島は特に体が頑丈でもなければ、精神力も決して強いわけじゃない。
でもあいつの・・正義感というか、ここぞと言う時の強さはあるんだよ。
飯島はその強さを、ずっと田地のために使ってきた。
時には本で叩いたり、怒鳴ったりしていた。
でもあいつが田地に怒鳴った後、俺は知ってるんだ。
飯島、お前、泣いてたよな。
お前は強さを自分のために使う人間じゃないんだ。
人のために使うんだ。
俺は信じてるぞ。
お前はきっと無事だ。
賢く生きてくれると信じているからな。




