四十二、危機一髪
「さて・・どうする。今なら村を出ることもできるけど、飯島と田地を放ってはいけないよな」
俺がそう言った。
「そらそうや。二人を何とか助けなあかん」
直也も俺に賛成した。
「僕、考えたんだけど、今、ここを出てもきっと見つかる。それで、ここはまだ何も知らないふりをして、いつものように仕事をするんだ。それで道具も返すんだ。でもこの地図だけはコピーして持っておくんだ」
蒼空がそう提案した。
「包丁や千枚通しを戻せと言ってるのか」
慎之介が訊いた。
「うん。無くなってたら裕文と栄子が不思議に思うんじゃないの?きっと慎之介くんが疑われるよ」
「なるほど・・。確かにそうかも・・」
慎之介は頷いた。
「コピー機は側近の部屋にあったから、地図をコピーしようよ」
蒼空が言った。
「でもそれもさ、枚数とか確認してるんじゃないのか」
俺が訊いた。
「いや、そこまではせんやろ。一枚だけやったら大丈夫やで」
直也がそう言い、俺たちは側近の部屋へ行った。
「ここだよ」
蒼空がドアを開けた。
中へ入ると、ここにもクーラーが設置されていた。
「マジでムカツクわ!じぶんらばっかり!」
直也はまた怒っていた。
蒼空はコピー機の電源を入れた。
ガーという機械が動く音が、なぜか恐ろしく聞こえた。
今あいつらが戻って来たら、とんでもないことになる。
早く・・早くしないと。
「誰か見張りをした方がいいんじゃないかな」
和哉がそう提案した。
「確かにそうだな。誰が行く?」
俺が訊いた。
「言い出しっぺの僕が行くよ」
和哉はそのまま部屋を出て、建物の入口まで行った。
「僕も行くよ」
慎之介が和哉の後を追った。
「コピー一枚でええか?」
直也が訊いた。
「一枚が限界だろう」
俺が答えた。
「あ、そうや。俺、絵が得意やから、コピーしたん絵に描いてみんなに配るわ。ほんでこの地図を頭に叩き込むんや」
「あ、そうか。焼却場のノートを使うんだな」
「そうそう。あれやったらバレへん」
「さ・・できたよ」
蒼空がコピーされた地図を取り出した。
「それで・・この地図は返しておかないとね」
俺たちは側近の部屋を出て、克樹と小百合の部屋へ向かった。
そして蒼空が机の引き出しを開けて、地図をしまった。
「蒼空、行くぞ」
俺はドアの入口で蒼空を呼んだ。
「た・・大変だーー!」
和哉と慎之介が慌てて俺たちのところまで走ってきた。
「まさか・・帰ってきたのか!」
俺が訊いた。
「そうだよ、帰ってきたんだ!」
和哉が俺の腕を掴んで言った。
「あかん、戻らな!ほら行くで!」
直也が先頭を走り、俺たちも慌てて後に続いた。
「あ!どうしよう。まだ包丁、返してないよ!」
後ろから慎之介が叫んだ。
「なにっ!」
俺が振り向いて言った。
「あかん、もう間に合わん!そのまま部屋に戻るんや!」
前で直也が叫んだ。
そして俺たちが部屋へ入る前に、入口の鉄の扉が開く音がした。
「はよっ!」
直也がドアを開け、みんなに入るよう促した。
そして直也も入り、静かにドアを閉めた。
「どうしよう・・この袋・・」
慎之介が不安げに言った。
「そうやな・・とりあえずズボンの中に入れるんや。はよっ!」
「う・・うん」
慎之介は袋をズボンの中に隠した。
「ええな・・静かに・・疲れた感じを出すんや・・」
俺たちは直也の指示通り、床で横になったり、体育座りで頭をもたげたりして、鍵が開いていることなど知らない風に装った。
ガチャ・・
そこでドアが開いた。
「あれ・・鍵をかけ忘れていたのか・・」
正紀が独り言を呟きながら入ってきた。
正紀は、俺たちの疲れきった様子を見て、鍵のことは知らなかったと悟った風だった。
「お前ら、今夜はここで寝るんだ」
正紀がそう言った。
「樹生くんは・・見つからなかったんですか・・」
慎之介が小声で訊いた。
「明日は必ず見つけ出す」
正紀が答えた。
そうか・・飯島と田地はまだ見つかってないんだな・・よかった・・
「食事を持ってきてやるから、待ってろ」
正紀はそう言って出て行った。
今度はちゃんと鍵を閉めていた。
やがて正紀が、食パンと牛乳を持って戻った。
「ほら、食え」
俺たちはそれぞれ受け取り、座ってパンを食べた。
「慎之介」
正紀が慎之介を呼んだ。
「は・・はい・・」
慎之介は怯えながら返事をした。
「あ?お前、なにを怯えてるんだ」
「え・・いえ、別に・・」
慎之介・・悟られるな・・
堂々としていろ・・
直也も蒼空も和哉も、慎之介をじっと見ていた。
「明日の朝食のことだが、樹生もいないし、簡単なものでいいぞ」
「は・・はい」
「裕文と栄子にも言ってある」
「そ・・そうですか・・」
「おい、慎之介」
「はい・・なんでしょうか・・」
「お前、具合でも悪いのか」
「い・・いえっ・・どこも悪くありません・・」
うう・・ものすごい緊迫感だ・・
慎之介・・頼むから堂々としてくれ・・
「それにお前らもなんだ。なぜ慎之介をじっと見てるんだ」
正紀は俺たちに目を向けた。
「別にじっとなんか見てません。ただ会話を見ていただけです・・」
直也がそう答えた。
「そう・・特に意識していたわけではありません」
俺もそう言った。
「ふんっ。まあいい」
正紀はそう言って出て行った。
慎之介を見ると、額から汗が流れていた。
「あかんがな・・慎之介。絶対に悟られたらあかんのやで・・」
直也が小声で言った。
「う・・うん。ごめん」
「とにかくよかった。飯島たちも捕まってないし、慎之介もバレなかったし」
俺がそう言った。
「これを食べてしまおう」
蒼空がそう言い、俺たちは再び口を動かした。




