三十八、忠誠心
「入れ」
正紀が拷問部屋の前でそう言った。
「正紀さん、俺、ほんとにラムダが好きなんです・・。だから、教育なんて必要ないです・・」
俺はなんとか拷問を逃れようと、必死で訴えた。
「それはお前が決めることではない」
「そんなっ・・俺、必死で働いて・・それで認めてほしくて・・」
「さっさと入れ」
俺は正紀に押された。
するとなぜかそこには、宗一郎がいた。
「おい、航太。またお前なにかやらかしたな」
宗一郎は、呆れた風に俺を見た。
「宗一郎さん・・」
「憲司さんを怒らせたらダメだな」
「俺は別に・・」
「正紀、あとはいいぞ」
宗一郎は正紀にそう言った。
え・・俺、宗一郎に拷問されるのか・・
正紀は頷いて、ドアを閉めて出て行った。
「さてと・・なにから始めるかな」
宗一郎は含みのある言い方をした。
「宗一郎さん、俺、ちゃんとやることやってますよね。それは認めてくれるでしょう?」
「そんなこと、俺が決めることじゃない」
「お願いします、見逃してくれませんか。ケガしたら明日からまた、しばらく働けなくなります」
「ふーん」
「そしたら直也に負担がかかって、仕事の効率が悪くなります」
「優等生だねぇ」
宗一郎は、部屋の隅に置かれてあった椅子を中央に運んで座った。
「お前は立ったままな」
「はい・・」
「お前、本部へ行きたいそうだな」
「え・・はい・・」
「本部へ行ってなにをするつもりだ」
「なにって・・。ラムダのために尽くすつもりです」
「ほーぅ」
「俺、ほんとにここが好きなんです。宗一郎さんからも話してもらえませんか」
そこで宗一郎は、急に深刻な表情に変わった。
「お前、行く、行くと簡単に言うが、どの程度の覚悟ができてるんだ」
「覚悟・・えっと・・」
俺は答えに窮していた。
「死ぬ覚悟くらいできてるんだろうな」
「えっ・・」
死ぬ覚悟・・?
どういうことだ・・
「俺はな、もう死んでるんだよ」
「え・・」
なにを言ってるんだ・・
「お前、道を整備する時、俺に違和感を覚えただろう」
「いや・・なにも・・」
「俺の身体は造り物なんだよ」
「・・・」
造り物・・?
造り物なのになんで生きてるんだ・・
「首から上は移植したのさ」
「えっ!」
俺はあり得ない話に絶句した。
そこで宗一郎は上着を脱ぎ、上半身は裸になった。
そして右手で胸を叩いた。
コンコン・・
えっ・・コンコンって・・なんだこの音は。
「ほらな、造り物だろう」
「な・・なんでそんな・・」
「死ぬ覚悟をしたからだよ」
「ど・・どういう意味ですか・・」
「人間ってのはな、いつかは死ぬだろう」
俺は宗一郎の話を黙って聞いた。
「俺はラムダ一族に、心底忠誠を誓った。だが肉体はいつかは亡びる。つまり死だ。俺の忠誠心は死を迎えることによって途絶えてしまう。そこで俺は自ら身体を差し出し、実験に使ってもらったんだ。失敗すればそこまでだが、成功すれば俺は永遠の身体を手に入れ、未来永劫ラムダの一員として尽くすことができる。俺はそれに賭けた。その結果、どうだ。見てみろ、これが永遠の身体だ」
おい・・マジかよ・・
そうか・・だから汗もかかないし、手も体温が感じられなかったんだ・・
「お前はどうだ。それほどラムダが好きなら自らの身体を差し出せよ」
「えっ・・」
「食うことも飲むことも、なにもしなくていいんだぞ。疲れることもなければ痛みも感じないんだぞ」
いやいや・・あり得ない。
いくらなんでも、これだけはダメだ。
「俺くらいの覚悟がなければ、本部行きは無理だな」
「そ・・そうですか・・」
「まあ、お前には下働きが似合ってるぞ」
「本部って・・なにをするところなんですか・・」
「それは秘密だ。本部へ行った者しか知り得ない」
「そう・・ですか・・」
「お前がそれでも本部へ行きたいと望むなら、おのれの身体をラムダに差し出せ。話はそれからだ」
「はい・・わかりました・・。考えてみます」
「よし」と言って宗一郎は立ち上がり、ドアを開けた。
すると入れ替わりに正紀が入ってきた。
え・・もう終わりじゃないのか・・
まさか・・拷問・・?
正紀はドアを閉め、俺の前に立った。
「話はどうだった」
正紀が俺に訊いた。
「いや・・あの・・びっくりしました」
「そうだろうな」
「他にも・・宗一郎さんのような人がいるんですか・・」
「お前に質問権はない」
「すみません・・」
「さてと・・教育を始めるぞ」
「えっ・・いや、待ってください」
俺は後ずさりをした。
けれども正紀は、問答無用で俺に殴る蹴るを行った。
うわああ・・痛い・・
俺は以前と同様、床に倒れて腹を押さえた。
正紀は、ただ黙って続けていた。
それが逆に恐怖を誘い、俺は小さくなって耐えるしかなかった。
痛い・・痛い・・
もう止めてくれ・・
俺は顔も蹴られた。
その際、鼻血が噴き出て、俺は顔を必死に押さえた。
「痛い・・もう・・止めてください」
俺がそう言っても正紀は聞かなかった。
結局、以前の倍ほども暴行を受けることになった。
テントに戻ると直也は、引くくらい驚いていた。
「あほっ!あれほど逆らったらあかん言うたのに!」
直也は急いで水で絞ったタオルを俺の顔にあててくれた。
「石竹!なにやってんねん。こんなにやられて・・あほやな!」
「うう・・」
俺は上手く口が開かなかった。
「見てみい。こんなに腫れて。口かて切ってるし」
直也はタオルで血を拭いてくれた。
「なにがあったんや・・。一体なにを言うたんや」
「な・・なお・・や・・」
「なんや?」
「お・・おれ・・もう・・ほ・・んぶへ・・いかない・・」
「そうやで!行ったらあかん」
「じ・・んたい・・実験・・させ・・られる・・」
「えっ!あの噂は、ほんまやったんか・・」
そこまで話すと、俺は気を失った。




