三十六、熱中症
結局この日の作業は捗らず、途中で切り上げることになった。
俺は帰る支度をし、直也が寝ている木陰まで行った。
「直也、大丈夫か・・」
直也の意識は回復していたが、とても歩ける状態ではなかった。
「うん・・平気や・・」
直也は頼りなく言葉を発した。
「そんな・・平気なわけがないだろう」
「どうなんだ」
俊介が直也の容態を確かめにきた。
「ダメです。これでは歩けません」
俺がそう答えた。
「直也、どうなんだ」
再度、俊介が訊いた。
「へ・・平気です・・」
そう言って直也は起き上がった。
「歩けるならさっさと立て」
「はい・・」
直也はフラフラしながら立ち上がった。
「ダメだってば。ほら、俺におぶされ」
俺は腰をかがめて言った。
「ええって・・。大丈夫や・・」
「ダメだ。ほら、いいからおぶされって」
俺は再びそう促した。
「歩くのか、おぶさるのか、どっちでもいい。とにかくさっさとしろ」
俊介が急っついた。
「直也、無理してまた倒れたら、俊介さんと宗一郎さんに迷惑がかかるだろう。ほら」
俺は後ろ手で、おぶさるように合図した。
「わかった・・ほな・・」
直也は俺の背中におぶさってきた。
「石竹・・大丈夫なんか・・」
「大丈夫」
俺は直也の太ももに手を当て、立ち上がった。
「では出発する」
宗一郎の号令で、俺たちは歩き出した。
「明日もこの作業だからな」
後ろを歩く俊介が言った。
俺は黙って聞いていた。
「道の整備が終わるまでは、焼却は後回しだ」
直也・・大丈夫なのかな・・
「明日からは、自分たちで水と食料を準備しろ」
「はい・・」
俺は小声で返事をした。
「帰ったら風呂に入れ」
あ・・そうか。
今日は週二回の風呂の日だ。
この村は、風呂に入るにも食事をするにも、あのコンクリートの建物の中で行われていた。
けれども各々の係りは時間帯をずらしており、お互いが会うことはなかった。
食事係の飯島とは、飯島が仕事を終え食堂を出る際に、すれ違うことは何度かあったが、監視されているため話をする余裕などなかった。
蒼空と田地には、あれ以来まったく会っていなかった。
もちろん、互いのテントへ行き来するなど以ての外だった。
こうして厳しくルールが決められているとはいえ、目を盗んでは智博が焼却場に顔を出すことは何度かあった。
「石竹・・」
直也が俺の耳元で囁いた。
俺は返事をせずに聞いた。
「さっき・・通って来た道・・。途中で横に別の道があったやろ・・」
俺は少しだけ頷いた。
「あれが・・本部へ行く道や・・」
そうなのか。
確かに途中で別の道が一本あった。
そうか・・あそこが本部に通ずる道なんだな。
俺は「うん」と頷いた。
やがて村の入口に到着した。
「あの・・」
俺は直也を背負ったまま、俊介に話しかけた。
「なんだ」
「とりあえず、直也をテントで寝かせてもいいですか」
「ああ・・そうか。いいだろう。よくなったら風呂と食事だぞ。いいな」
「はい、わかりました」
俺はテントへ急いだ。
中へ入り直也をベッドに寝かせた。
「ごめんやで・・石竹・・」
「なに言ってるんだよ」
「しんどかったやろ・・ごめんな・・」
「いいって。それよりゆっくり眠った方がいい」
「俺・・お前に何かあったら、絶対に助けるからな・・」
「ぜひそうしてくれ」
俺はそう言って笑った。
そして直也は眠った。
それにしても、炎天下での草刈はきつい・・
直也じゃないが、今度は俺が倒れるかもしれない。
あ・・そうだ。
宗一郎だよ・・
あいつ・・絶対におかしい。
特異体質なのか?
みんなどうしてるのかなあ。
田地は畑担当で、あいつも炎天下での作業だ。
あの体格だし、俺たちより、もっときついはずだ。
蒼空も心細く思ってるだろうな。
飯島はしっかり者だから、淡々とこなしているに違いない。
いずれにせよ、心が折れないことを祈るばかりだ。




