三十五、宗一郎の謎
俺たちは村を出て、道の整備場所へ向かった。
先頭を宗一郎が歩き、後ろは銃を持っている俊介がいた。
俺たちは二人に挟まれる形で、前に進んだ。
ぬかりがないな・・
俺たちが不審な動きをすると、後ろから撃たれるってことか。
これじゃ、なにもできない。
というか、俺はまだまだ動かない。
こいつらを油断させてからだ。
「さて、まずここからだ」
宗一郎が足を止め、その場を指した。
そこは、たしかに荷車が通るには邪魔なくらい、雑草が生えていた。
「鎌で刈り取るんだ」
俊介にそう言われ、俺たちは早速取り掛かった。
すると五分と経たないうちに、作業着は汗でびっしょりになった。
焼却場も暑いが、曲がりなりにも屋根があるし、この炎天下とは比較にならない。
時間が経つにつれ、俺と直也が首にかけたタオルは役に立たないほど汗で重くなっていった。
その度に、絞ってはまた首にかけを繰り返していた。
これじゃ・・そのうち倒れるぞ。
「では、少し休憩」
俊介が言った。
俺たちは作業の手を止め、その場に座った。
「直也、大丈夫か・・」
俺は小声で訊ねた。
「うん・・大丈夫や・・」
それでも直也の顔は真っ赤になっていた。
「しまったな。水を持ってくるのを忘れた」
俊介が言った。
「取りに戻るのか?」
宗一郎が訊いた。
「このままじゃ、こいつら倒れるかも知れないぞ」
「お前ら、どうなんだ」
宗一郎が俺たちに訊いた。
「水は欲しいです」
俺が答えた。
「俺も・・欲しいです・・」
続けて直也もそう答えた。
「仕方がないな。俊介、行ってくれるか」
「わかった」
そして俊介は宗一郎に銃を渡し、来た道を引き返した。
「俺一人だと思って、妙なこと考えるんじゃないぞ」
宗一郎は、ずっと銃を手にしていた。
そう言われても、俺も直也も話す元気さえなかった。
「この作業、まだまだこれからだぞ」
俺たちの様子を見て、宗一郎はしっかりしろと言わんばかりだ。
宗一郎も、監視役とはいえ、同じように暑いはずだ。
なのに汗一つかいてない。
「宗一郎さん・・」
俺はそのことを訊いてみようと思った。
「なんだ」
「あの・・暑くないんですか・・」
「は?」
「汗をかいてないので、暑くないのかなと思いまして・・」
「大きなお世話だ。黙って待ってろ」
「はい・・すみません」
マジで涼しい顔をしている。
どうも変だ。
一体、なぜなんだ・・
やがて俊介が水を持って戻ってきた。
「俊介、ご苦労だった」
宗一郎は俊介に銃を返した。
「ほら、これを飲め」
俊介は俺たちにペットボトルの水を手渡してくれた。
俺たちはそれを受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らした。
俊介も自分の分を飲んでいたが、宗一郎は飲まなかった。
え・・なんで飲まないんだ。
汗はかかなくても・・喉は乾くはずだろ。
いや、乾かないとしても、今のうち飲まないと熱中症にかかるぞ。
どうなってるんだ。
「さて、休憩は終わりだ」
俊介の号令で、俺たちは再び作業を開始した。
軍手もなく、俺と直也の手は傷だらけになっていった。
それにしても・・少しは手伝えよな。
こんなの二人だけでやって、どれだけ時間がかかると思ってるんだ。
俺は不満に思ったが、表情には出さなかった。
それから一時間が過ぎたころ、とうとう直也が倒れてしまった。
「直也!」
俺は直也の傍まで行き、そう叫んだ。
「どうした」
すぐに俊介と宗一郎が寄ってきた。
「直也・・倒れてます」
「ほんとか?演技じゃないんだろうな」
俊介が言った。
「違います。こんなにぐったりとなってます・・」
「まったく・・」
俊介は直也の顔を触った。
「こいつ、熱があるぞ」
俊介が宗一郎に言った。
「ほんとか」
けれども宗一郎は直也を見ているだけだった。
「しばらくあそこで寝かせよう」
俊介がそう言い、宗一郎も手伝った。
その際、俺も当然のように手伝った。
その時だった。
俺は偶然、宗一郎の手に触れた。
すると全く体温が感じられなかった。
なっ・・なんだ・・こいつ。
血が通ってないみたいだ・・。
俺はとっさに手を離し、宗一郎は俺をじっと見つめた。
俺は直ぐに目を逸らし、直也の顔を見た。
この宗一郎ってやつ・・なんか変だ・・
汗もかかない・・手は冷たい・・
俺はなんだか嫌な予感がした。
直也を日陰に連れて行き、そのまま寝かせた。
俺はペットボトルの水を直也のタオルに染み込ませ、それを絞っておでこに置いた。
「直也・・大丈夫か・・」
声をかけてみたが返事はなかった。
「お前、余計なことをするんじゃない。さっさと作業に戻れ」
俊介にそう言われ、俺は再び作業に戻った。
俺の全身から、また怒涛のように汗が噴き出した。
けれども俺に与えられた水は、さっき直也のために使ってしまった。
「ほら、俺のを飲め」
宗一郎は俺の横に来て、水を差し出した。
「え・・でも・・」
「お前まで倒れたら、俺たちが迷惑だ」
「そ・・そうですか・・ではいただきます・・」
俺がペットボトルを受け取ろうとしたその時、宗一郎は含み笑いをして俺を見ていた。




