表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/65

三十二、ラムダになる




次の日、直也は焼却場へ向かったが、俺と蒼空はテントの中で隠れていた。


「直也くん・・僕たちにパンを分けてくれて・・」


蒼空は食パンを食べながらそう言った。

与えられる食事は、当然のことながら一人分だけだ。

直也は今朝、「食欲がありますねん。その分しっかり働いてますので、少し多めにください」と言ったそうだ。

そのおかげで俺たちは、一枚ではあったが食パンを貰うことができた。


「そうだな・・ありがたいことだな」

「飯島くんと田地くん・・どうしてるんだろう・・」


蒼空は拷問のことが気掛かりな様子だ。

俺だってそうだ。

今の時代、拷問なんてあり得ない。

ましてや何の罪もない高校生にだぞ。


「蒼空・・俺、昨日寝ながら考えたんだけどさ」

「なに・・?」

「助け出すといっても、おそらく無理だし失敗に終わると思う」

「うん・・」

「それに俺たちだって、いつまでも隠れていられるはずもないし、見つかれば直也が酷い目に遭うかもしれない」

「そうだね・・」

「そうなる前に、俺たち自ら出て行って、ここで働くことを約束すればいいんじゃないか」

「えっ・・そんなことしたら・・拷問されるよ・・」

「いや、そうとも限らないぞ。ここに迷い込んできたといえば納得するんじゃないか?」

「迷い込んだ・・か・・」

「その際、このテントから出たことは、絶対に悟られないようにしないとな。あくまでも外から来たことにするんだよ」

「でもさ・・そんな約束したら、もう二度と島から出られないし家に帰れないよ」

「そんなのわかるもんか。逃げる手立ては必ずあるはずだ。逃げるにもここの状況を把握しておかないと無理だろ」

「・・・」

「とにかく俺は、そうするしかないと思う」


蒼空は賛成しかねていた。

そりゃそうだ。

俺だって怖い。

逃げられるものなら、すぐにでも逃げたい。

誰が好き好んで、奴隷になりたいやつなんているもんか。


でも、今の状況では逃げることはまず無理だし、そもそも飯島や田地を放って行けるものか。

それに直也と智博もだ。

逃げるならこの二人も一緒だ。

俺は蒼空に、そのことも話した。

すると蒼空は「そうだね、それしかないね」と言って賛成してくれた。


このことは、昼休みにテントに戻った直也にも話した。


「それやったら、一旦、テント村の入口まで行かなあかんで」


直也が言った。


「そこへ行くのに、バレないで済む時間帯とかないのか」


俺が訊いた。


「そうやな・・やっぱり夜しかないな・・」

「じゃ、今夜、そこまで行くよ」

「えっと・・そうやな、やっぱり荷車で運んだ方がええかな」

「そうか・・」

「歩くことはできんやろ。荷車やったら不審に思われんやろし」

「わかった。頼むな」

「よし。ほなら今夜な」


こうして俺たちは夜を待って、決行することにした。



「でもじぶんら、逃げようと思えば逃げられるがな」


夜になり、直也は荷車の準備をしながらそう言った。


「逃げたところで、見つかれば拷問確実だし、それはお前も同じだろ」

「そらそうやけど・・」

「たとえ逃げおおせても、どうやって島から出るんだ。そうこうしているうちに、いずれは見つかる」

「・・・」

「だからここは、俺と蒼空もラムダとして働く方が得策なんだよ」

「そうか、わかった」


そして俺と蒼空は、見つからないようにテントから出て荷車に乗った。

上にはシーツを被せ、直也が荷車を動かした。


「ええな・・村の入口に着いたら、とにかく必死でここに辿り着いたふりをするんやで・・」


直也が小声で言った。

俺たちは黙って聞いていた。

ほどなくして荷車は止まり、「下りてもええぞ」と直也が言った。

俺たちは、また這うようにして荷車から下りた。


「直也、急いで戻れ・・」


俺がそう言った。

直也は周囲を気にしながら、「うん」と頷いて荷車を()いて行った。


「蒼空・・いいか。行くぞ」

「うん」


俺たちは立ち上がり、村の中へ入って行った。

そして俺たちは「ハアハア」という息遣いをした。

すると、見回りをしていたであろうラムダの男が一人、俺たちに近づいてきた。


「おい、なんだお前たち!」


男は俺たちを見て、驚いていた。


「ハアハア・・あの・・俺たち・・道に迷ってしまって・・」


俺が疲れきった演技をした。


「道に迷った・・?あっ!お前たちもしかして四人のうちの二人か!」


どうやら男は俺たちの存在を知っているようだった。


「はい・・そうです・・ハアハア・・」

「どこに隠れてたんだ!」

「ど・・洞窟です・・」

「なんだと!あの中のどこにいたというんだ!」

「奥・・です・・」

「くまなく探したはずなのに・・。まあいい。これで探す手間が省けた。こっちへ来い」


男は俺たちを縄で縛るでもなく、前を歩いて行った。

そうか・・

俺たち自ら現れたことで、そこまでする必要はないってことか。

蒼空はずっと下を向いていた。

元気出せ・・蒼空。


男が連れて行こうとした場所は、テントから離れたコンクリートの建物だった。

あそこに・・拷問部屋があるのか・・

蒼空は、不気味な建物を見て足がすくんでいたので、俺は蒼空を引っ張った。


男は鉄の扉を開け「入れ」と言った。

俺は恐怖に震えながらも、一歩ずつ中へ入って行った。

蒼空の身体は硬直しているようだった。


「蒼空・・しっかりしろ・・」


俺は耳元で囁いた。


「喋るな。黙って歩け」


男が俺をたしなめた。


「すみません・・」


俺は蒼空の腕を引っ張り、男の後をついて歩いた。


「ここに入れ」


男は部屋らしき扉を開け、俺たちに入るよう促した。

中へ入ると、飯島と田地が冷たそうな床に座っていた。


俺と蒼空を見た飯島と田地は、唖然として言葉も出なかった。

それは俺も同じだった。

というのも・・田地は無事そうに見えたが、飯島の顔は腫れあがっていたのだ。


飯島・・!

お前・・拷問を受けたのか・・

なっんてことだ・・

蒼空は小声で「ああ・・」と言っていた。


「四人とも、そこで大人しくしていろ。明日、また話をする」


男は扉を閉め、鍵もかけて出て行った。


「おい・・飯島!」


俺は飯島に駆けよった。


「飯島くん・・なんてこと・・酷い、酷すぎる・・」


蒼空は半泣き状態だった。


「田地、お前は無事なのか」


俺が訊いた。


「うん・・」


田地は頼りなく頷いた。


「飯島!お前、拷問されたのか」

「うん・・まあね・・」

「まあねって・・。大丈夫なのか」

「ち・・違うんだ・・」


田地が言った。


「違うってなにがだ」

「飯島くん・・僕のせいでこんなことに・・」

「え・・どういうことだ」

「僕、あの人たちにここで働けって言われて、嫌だって逆らったんだ。それで逃げようともしたんだ」

「・・・」

「そしたら、僕、殴られそうになって・・。それで飯島くんが「僕がそうしろと命じたんです」と言って・・。それで飯島くん・・」

「そうだったのか・・」

「田地・・いいんだよ。僕だっていずれ逃げるつもりだったしね」


飯島は田地を責めなかった。


「この際だから言っとくぞ。ここを逃げようとした女の子がいたんだけど、その子、両足を切断されたんだぞ」


俺の言葉に、三人とも絶句していた。


「それで・・結局その子、自殺したんだ」

「っな・・自殺って・・」


蒼空は思わず大声を挙げそうになっていた。


「だから、ここはラムダに従うべきだ。それにここには俺たちと同じ境遇のやつもいる。仲間がいるんだ。みんなで知恵を出し合って方法を考えよう。逃げるのはそれからでも遅くないぞ」


そして俺たちは、身を寄せ合うように眠りについた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ