二十八、直也
俺は、しばらく焼却場にいる他なかった。
蒼空たちは、どうしてるんだろう。
食料や水だって、確保できるかどうかわからない。
なにより、俺の安否を心配してるだろうな・・
俺を探し回って、ラムダに見つからなければいいんだが・・
もう外が暗くなってきた。
今夜はここで眠れるとしても、明日になれば見つかる。
俺は身を隠す場所がないか、探すことにした。
焼却場の広さは、学校で例えるなら、教室二つ分くらいだろうか。
比較的、天井は高く、大きな煙突が屋根から出ていた。
焼却炉は敷地の中心に設置されており、部屋の隅に小さな机とロッカーが置かれてあった。
ロッカーか・・
あそこに隠れるしかないか・・
俺はロッカーを開けてみた。
すると中には作業着が吊るされてあるだけだった。
よし・・これなら入れるな。
次に俺は机を調べてみることにした。
机上には一冊のノートが置かれてあった。
俺は迷わずページをめくってみた。
すると日報のような内容が書かれてあった。
○月○日、十体焼却。
○月○日、十五体焼却。内、二体は人間の実験用。
○月○日、八体焼却。機械は破損のため廃棄。
このように、その日焼却したマネキンの数などが、書かれてあった。
ノートの裏を見ると「ラムダ直也」と書かれていた。
そうか・・これは直也専用のノートなんだな。
っていうか、ここの作業員は直也だけなのか。
俺は引き出しも開けてみた。
すると筆記用具や、ものさし、ノートと、いわゆる文房具の類が出てきた。
さすがに食べ物はないな・・
ああ・・腹減ったなあ・・
俺はもう一度水を飲み、腹の足しにした。
そして誰が入って来てもいいように、ずっと窓の外を見ていた。
しばらく経って、十人ほどのラムダたちが、どこかから帰ってきたようだった。
あれって、直也も連れて行かれたグループか?
すると集団の中から、直也がこっちへ来るのが見えた。
ヤバイ・・!
俺は急いでロッカーの中へ隠れた。
ガラガラ・・
俺はロッカーの隙間から、様子を覗っていた。
直也が疲れた様子で、机まで歩いてきた。
そして引き出しからボールペンを取り出し、ノートをめくって何かを書いていた。
あれは今日、焼却した数を記入しているんだな。
「これでよしっと・・」
直也はノートを閉じ、ボールペンもしまっていた。
「あれ・・おかしいな・・」
直也はノートを手に取って見ていた。
「確か・・表を向けて置いといたはずやのに、なんで裏向きになってるんや・・」
あっ!そ・・そうだ!
俺がノートを見た時、裏面にしたまま置いてしまったんだ・・
ヤバイ・・
「うーん・・おかしいな。あっ、あれか。誰かがここに入ったんか。でも、入ったにしても、わざわざノート見るか?」
直也は納得がいかないようで、ブツブツ独りごとを言っていた。
ガタンッ・・
ああっ・・しまった・・
動かした手がロッカーのドアに当たってしまった。
「えっ・・なに・・?」
直也がロッカーへ目を向けた。
「誰かいてるんか・・」
ああ・・こっちへ来る・・
どうすれば・・どうすればいいんだ。
そうだ・・開けられる前に、こっちから話しかけてみよう。
開けて大声出されたら、それこそヤバイもんな・・
「あ・・あの・・」
俺は直也に話しかけてみた。
「えっ!誰なん?」
「えっと・・驚かないでほしいんだ・・」
「ちょっと待ちぃな。誰なん?」
「俺・・このドア開けて出るから、絶対に声を挙げないでほしいんだ」
「ちょ・・待って!」
直也は焼却炉で使用する、火かき棒を取りに行った。
「ええか、滅多なことしたらあかんで。俺いま、凶器持ってるからな」
「わかった。絶対に何もしないと約束する。今から開けるから、いいよな」
「よ・・よし・・出て来い・・」
そして俺はドアを開けた。
俺を見た直也は、見覚えのない人間に警戒心を募らせていた。
「お・・お前、誰や」
「落ち着いて聞いてくれるか?」
「まず・・名前と所属を言え」
「いや・・俺はここの人間じゃないんだ」
「え・・」
「名前は石竹航太」
「・・・」
「俺、ここに連れて来られたっていうか・・」
「連れて来られたのに、なんでここにいてるんや」
「それは・・マネキンの中へ入ってたら、荷車に乗せれて・・」
「ええっ!」
「さっき・・俺、焼却炉に入れられる寸前だったんだぞ」
「ああっ!あのマネキンか。なんか様子がおかしかったんや」
「そうそう、あのマネキン」
ここまで会話をすると、直也の警戒心は少し解けたようだった。
「ちょっと、謎だらけやねんけど」
「俺も謎だらけだよ」
「石竹くんやったか。じぶん、もしかしてサバイバルしに来たんか?」
「えっ・・なんでわかるんだよ」
「それで、ゲームとかさせられへんかったか?」
「その通りだよ!それでこんなことになっちゃってさ」
「実は・・俺もな、三か月前に『サバイバル体験』っていう旅行会社の企画に参加したんや」
「マジか・・」
「それで今は、ここの焼却担当させられる羽目になってな・・」
「えっ・・ってことは、きみも元々はラムダじゃないんだな」
「ちゃうっちゅうねん。なんやねん、ラムダって。俺の名前は佐竹直也や」
「そっか・・佐竹くんか」
「あかん、ちょい待ち。こんなところで話し込んでたら怪しまれるわ。詳しくはまた明日や。じぶん今日はここで寝んといかんで。絶対に外に出たらあかん。ここは俺以外は滅多に誰も来んからここで寝てな」
「あ・・うん。ありがとう。それじゃ俺のこと黙っててくれるんだよな」
「うん。誰にも言わん。ほな、明日な」
そう言って直也は出て行った。
とりあえずはよかった・・
それにしても、直也もラムダに騙されたんだな・・
するとなにか、智博も同じってことか・・




