二十七、焼却
荷車は二十分くらい歩いたところで、ラムダのアジトらしき場所に到着した。
そこには、いくつものテントが張られており、ラムダの一族と思しき人間がうろついていた。
「彰人、それじゃ、あとは頼んだぞ」
彰人と呼ばれた男は、洞窟に来た男の一人だった。
無精ひげを生やしているので、年を食ってるように見えた。
少なくとも、三十代ではないな。
「わかった」
彰人はさらに荷車を動かし、「俺たち」を火葬場と思しき場所へ連れて行った。
煙が上がっているぞ・・
もしかして・・焼却するのか。
これは大変だ・・
ガラガラ・・
彰人がドアを開けて、荷車を中へ入れた。
「おい、これ焼却しとけ。機械は取り出せよ」
彰人は若い男性に、命令口調で言った。
「はい・・」
その男性は帽子を被っていたので顔はよくわからなかったが、とても若そうに見えた。
焼却炉の横には、何体ものマネキンが置かれてあった。
男性は無言で「俺たち」を荷車から下し、粗雑に地面に置いた。
くそっ・・イタタタ・・
「はぁ・・」
男性は突然ため息をつき、その場に座った。
「いつまでこんなん、せんといかんのやろ・・」
え・・関西弁・・?
「なんでこんなん、燃やさなあかんねん。なんで俺がこんなことせなあかんねん・・」
こいつ・・どうしたんだ・・
「しゃあないな・・」
男性は立ち上がり、積み重ねられたマネキンの中から一体、また一体と焼却炉へ放り込んでいた。
このままだと・・いずれ俺もあの中に放り込まれる・・
それだけは絶対に阻止しなければならない。
くそっ・・ファスナーは後ろだし、脱ぐこともできないし、ましてや絶対に動いてはならない。
どうする・・どうする・・俺。
ガラガラ・・
そこで入口の扉が開いた。
すると別の男性が入ってきた。
「直也・・」
入ってきた男性が名前を呼んだ。
関西弁のこいつは、直也っていうのか。
「なんや、智博か」
「今日か明日には、やるんだって・・」
「そうなんや・・」
「かわいそうだよね・・あの子たち」
「そんなん言うたって、どうしょうもないがな」
今日か明日・・?
あの子たち・・?やる・・?かわいそう・・?
なにをやると言うんだ。
「まあ・・俺たちは黙って従うしかないんや」
「うん・・」
「もう逃げ出そうなんて、考えたらあかんで」
「・・・」
「あいつが、どんな目に遭ったか、知ってるやろ」
「うん・・」
ちょっと待てよ・・
この二人は、ここへ連れて来られたんじゃないのか・・
どういう経緯にせよ、連れて来られたに違いない。
それで、この智博ってやつは、逃げようとしたんだ。
「手伝うよ」
智博がそう言った。
「ええって。自分の仕事あるやろ」
「もう今日の分は終わったよ」
「そうか。でもええわ。テントへ戻ってゆっくり休み」
「そっか・・わかった・・」
智博は肩を落として出て行った。
「さて、俺も仕事や」
直也は、やれやれといった風に、再び身体を動かしだした。
「えっと・・」
直也はマネキンを数えながら、「ここまでやな」と、最後に俺を数に入れていた。
げ・・今日の仕事は俺を焼却して終了ってことか。
ヤバイ・・
早くなんとかしないと・・
直也は焼却炉の蓋を開け、次のマネキンを放り込んでいた。
その際、ゴオーーッという炎が燃え盛る音がした。
「それにしても、暑いわ」
直也は首にかけたタオルで汗を拭っていた。
俺だって滅茶苦茶暑い・・
ああ・・喉が渇いた・・
マネキンが燃える間に、直哉は機械が埋め込まれているマネキンを解体していた。
あっ・・そうか・・
俺もファスナーを下ろされる・・
その時・・どうなるかだ。
万が一、俺を死体だと思って直也が叫んだら誰かが来るかも知れない。
それはまずい・・
それまでに何とかしないと・・
「さてと・・こいつか」
とうとう直也は俺を解体しようと、うつ伏せにした。
「え・・なんやこのマネキン・・おかしいな」
直也がそう呟いた。
ジー
ファスナーを下げる音がした。
うっ・・どうすれば・・どうすればいいんだ。
万事休すか・・
ガラガラ・・
そこでまた扉が開いた。
「あ、また智博か。どうしたんや」
そうか・・智博が入って来たんだな・・
俺はうつ伏せにされたので、状況が見えなかった。
「直也、出発するんだって」
「え・・俺らもか?」
「うん。そうらしいよ。それで呼びに来た」
「そうか。わかった」
直也は立ち上がり、焼却炉のスイッチを押し火が消える音がした。
そして二人は外へ出て行った。
た・・助かった・・
俺はようやく動くことが出来た。
さて・・どうするかだ。
俺は背中に手を回し、必死でファスナーのつまみを掴もうとした。
すると直也が下げたおかげで、やっと手が届いた。
よしっ・・慎重に・・
ジー・・
俺は左右の手を交替させながら、ゆっくりと下していった。
ジジ・・ジー・・
やっとの思いで腰まで下りた。
や・・やった・・やったぞ・・
俺は急いでマネキンから出て、抜け殻になった「俺たち」の上に重ねた。
さて・・どうするかだ・・
俺は窓から外を覗いてみた。
するとラムダ一族が、慌ただしく右往左往していた。
智博はどこかへ行くようなことを言ってたな。
それでこんな状態になってるのか。
いずれにしても外へは出られないな。
俺は「フゥ」と言って、その場に座った。
焼却場の奥を見ると、水道があった。
俺は急いでその場へ行き、思いっ切り水を飲んだ。




