二十三、殺人
俺たちはやっとの思いで、田地を京子の家まで連れて行った。
「あら、その子が田地くん?」
水汲みから戻っていた京子が、そう言った。
「はい。こいつも置いてやってくれますか」
俺が頼んだ。
「いいわよ」
「ほら、挨拶くらいしろよ」
俺は田地の頭を押した。
「田地です・・よろしく」
田地は不愛想に言った。
俺たちは京子を気遣い「何かお手伝いします」と言った。
「それじゃね、外へ行って適当な木を伐ってくれる?」
「木、ですか」
蒼空が訊いた。
「イカダ用に伐ってね。のこぎりは外の箱に入れてあるから」
早速俺たちは、のこぎりを持って木を伐りに行った。
とりあえず俺たちは分担して、伐れそうな木を選んだ。
細かい長さや太さの調節は、後でもいいと思った。
「ほら田地。お前もやれよ」
俺はのこぎりを田地に手渡した。
「わかった・・」
田地は飯島に怒鳴られて、今のところはわがままを封印していた。
伐っては浜へ運び、伐っては浜へ運びを何度も繰り返し、俺たちは汗だくになり働いた。
そして飯島と蒼空は、浜に残って余分な枝を切り、丸太に仕上げる作業に徹した。
やがて陽が沈む時間が訪れ、丸太は十本も仕上がった。
「これだけやって、まだ十本か・・」
蒼空は前途多難だと言いだけだった。
「ちりつも、だろ」
俺が言った。
「でも、なるべく早く造らないと、京子さんが「ここもすぐに見つかる」って言ってたよね」
飯島がそう言った。
「そうだな。見つかったら大変だ。もう二度と島から出られないぞ」
「はあ~~・・」
田地がその場であおむけになり、寝そべった。
「疲れたか、田地」
俺がそう言った。
「今日って・・何日なんだろう・・」
田地は悲しそうな目をして、ポツリと呟いた。
「お母さん・・」
田地の目から涙が零れた。
俺は何とも言えない切ない気持ちになった。
飯島も黙っていた。
「ねぇ、田地くん」
蒼空が田地の横に座り、そう言った。
「なに・・」
田地は空を見上げたままだった。
「なんでマネキンがお母さんだと思ったの」
「ほんとは・・そんなこと思ってなかったけど・・「睦月、ご飯よ。食べなさい」って言われて・・。それで「ずいぶん心配したのよ」って言ってて」
「そう・・なんだ」
「それで、僕の好物のカレーを作ってくれてて・・ほんとにお母さんなんじゃないかと思ってさ・・」
「そっか・・」
「でも、全部嘘だったんだよね。考えたらあんなマネキンがお母さんのはずがないもん・・」
田地はそう言って起き上がった。
きっと田地は、マネキンが母親じゃないってことくらい、わかっていたんだ。
普通はそうだよ。
けれども田地は、肉体的にも精神的にもギリギリだったんだ。
それは俺たちも同じだったけど、田地の場合、許容量が少ないんだ。
いわば、半分やけになって諦めの境地に至ってしまったんだな。
可愛そうといえばそうなんだが、俺たちにも田地を思いやる余裕なんてないんだ。
だからあんなに優しい飯島がブチ切れしたし、蒼空だって同じようなもんさ。
俺だってボードで、手が出そうになったもんな。
だけど、一つだけ言えることは、島を出るには絶対に協力し合わないと不可能ってことだ。
ラムダ一族の陰謀なんかに、負けてはいけないんだ。
ほどなくして俺たちは家に戻った。
けれども京子の姿はどこにもなかった。
「どこへ行ったのかな」
蒼空は裏口も確かめていた。
「う・・うわあ~~~!」
裏口を開けた蒼空が叫んだ。
「どうした!」
俺はすぐに駆け寄った。
「き・・京子さんが・・」
「え・・」
飯島も田地も駆け寄ってきた。
なんだ・・これは・・
裏口を出たところで京子が、血まみれで倒れていた。
「京子さん!」
俺は身体をゆすってみた。
「うう・・うっ・・」
「京子さん、なにがあったんですか!」
「は・・早く逃げなさい・・」
「ええっ!」
「とにかく・・遠くへ逃げなさい・・うっ・・」
「しっかり!しっかりしてください!」
「・・・」
そこで京子の息が絶えた。
う・・嘘だろ・・死んでしまった・・
「航太・・どうするの・・?」
蒼空は震えていた。
「どうするって・・そんなのわからないよ・・」
「とにかく、このままだと動物に食べられてしまうよ」
飯島が言った。
「みんなで運ぼう・・」
田地がそう言った。
そこで俺たちは京子を抱え、家の中に入れた。
そしてベッドに寝かせて、シーツを被せた。
「京子さん・・ラムダに殺されたのかな」
蒼空が俺を見て言った。
「確か、私は罪人って言ってたしな・・」
「とにかく、僕たちもここを離れた方がいいね」
飯島はそう言いながら、袋を手にして「ここへ必要なものを詰められるだけ詰めよう」と提案した。
俺たちは黙ってそれに従い、水筒に水を入れ、食料も詰め込んだ。
「それと、これも持って行こう」
飯島は木刀も手にした。
「あと・・ナイフとかもあったよね・・」
蒼空が言った。
「うん。それも持って行こう」
俺たちは荷物をまとめ、急いで家を出た。
その際、みんなで「京子さん、ありがとう」と言った。




