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二十一、とある女性




あのあと田地は、「じゃあね~」と言い、家の中へ戻ってしまった。

俺たちは一旦、田地を「救出」することを諦め、砂浜へ戻った。


「田地くん、どうする?完全にイッちゃってたよね」


蒼空は砂をいじりながら、半ば呆れていた。


「どうするっていったって、あれは出て来ないな」


俺も砂をいじっていた。


「田地のことはさておき、僕たちの食料と水を確保しないとね」


飯島がそう言うと、蒼空が「あと、寝る場所もね」と言った。


考えてみれば、道具が一切ない。

以前のように「屋根」を造るにしてもナイフすらない。

果たしてどうしたものか。


「まずは、山へ入ろうか。水場があるかも知れないし、木の実なら素手でとれるしね」


飯島の提案に俺と蒼空も賛成した。

早速俺たちは山へ入った。

最初の島と同じように木々が生い茂り、俺たちは手で掻き分け進んで行った。


ゆっくりと一時間ほどかけ、奥に入ったところで木造の人家らしきものを見つけた。

俺たちは、もちろん警戒した。


「あれって、きっとマネキンの家だよ」


蒼空が小声で言った。


「存在してるってことは、俺たち以外の人間が中にいるってことか」


俺がそう言った。


「もしそうだとしたら・・協力し合えるかもだよ」

「なに言ってるんだ。おそらくそいつも、田地と同じく洗脳されてるに決まってるぞ」


俺がそう言うと「でも、確かめてみた方がいいんじゃないかな」と飯島が言った。

俺たちは、あまり足音を立てずに家に近づき、窓から中を覗いてみた。

けれども誰も見当たらず、俺たちはどうしようかと迷っていた。


「あなたたち・・何をしているの」


その声に振り向くと、一人の中年女性が野ウサギを手にぶら下げて立っていた。

俺たちはマネキンではない「人」の存在に、しばらく言葉が出てこなかった。


「どこから来たの。あなたたちは誰」


女性はなにも言わない俺たちに、警戒心を募らせていた。


「あの・・俺たち船に乗ってたんですけど、転覆しちゃって。それで誰かに助けられたみたいなんですけど、それもよくわからなくて・・」


俺は、あまり意味の分からない風に喋ってしまった。

それより俺が訊きたいのは、なんでこの女性が、いや、人間がここにいるかだ。


「あなたは、ここに住んでいるのですか?」


飯島が俺の気持ちを代弁するかのように、そう訊いた。


「その前に、あなたたちは誰なの」

「僕たちは偶然というか、誰かにはめられてゲームに参加させられたのです。それでここからは見えないですが、遠くの島で何度も死にそうになり、ようやく島を脱出したかと思えば船が転覆し、ここに辿り着いたというわけです。なので決して怪しい者ではありません」


飯島が説明した。


「ゲームってなんなの」

「それがよくわからないのです。とにかくゲームを続行しないと死ぬことだけは、わかりました」

「変な話ね。出まかせを言ってるんじゃないでしょうね」

「そんな。嘘なんて言ってません。今もどうしていいか途方に暮れていたところ、ここを見つけたのです」

「まあいいわ。それで?どこへいくつもりなの」

「どこへ行く当てもありません。水も食料もないし・・」


女性はしばらく考えた後、「来なさい」と言って家の扉を開けた。

俺たちは、女性に多少の不信感を抱きつつも、水と食料を与えてくれそうな予感がして、中へ入ることにした。


女性は野ウサギをキッチンへ放り投げ、「座りなさい」と俺たちに促した。

女性は水がめの蓋を開け、柄杓ひしゃくでコップに水を注ぎ、俺たちに出してくれた。

俺たちは「ありがとうございます」と言って、一気に飲み干した。


「それで?これからどうするつもりなの」

「いえ・・あの、水場ってどこにあるんですか」


蒼空が訊いた。


「この先を行ったところよ。山の水があるのよ」

「そ・・そうですか・・よかった・・」

「こんなこと言うのもなんだけどね、この島をあまり歩き回らない方がいいわよ」

「え・・どういうことですか」


飯島が訊いた。


「あなたたち、びっくりするかも知れないけど、私、罪人なの」


俺たちは一瞬で、身体が硬直する思いがした。


「罪人っていっても、私は冤罪だと思ってるの」


俺たちは黙って女性の話を聞いた。


「この島にはね、ラムダという一族が住んでいるんだけど、私はなにを間違ったか一族の男と結婚してここへ来たんだけど、どうやらラムダ一族には、ある野望があってね」

「や・・野望・・?」


俺がそう言った。


「ラムダはやがて世界征服をするんだと。そういう企てをしているのよ」

「せ・・世界征服・・」


俺は漫画のような話を、俄かに信じ難かった。


「今はね、マネキンをどんどん生産していて、それを生きた人間にするために研究や実験を繰り返しているの。つまり、ラムダの一族とするためにね」


なっ・・なにっ!

マネキンだとっっ!


俺たちは顔を見合わせ、驚愕していた。


「マネキンを人間にって・・。そんなの不可能に決まってるじゃないですか」


飯島は食って掛かるように興奮していた。


「それがそうでもないのよ」

「え・・」

「某国では一例だけど、すでに成功しているのよ」

「ま・・マジで・・」

「成功したといっても、偶然、火事で焼けちゃったから、結局失敗なんだけどね」

「ど・・どういうことですか」

「そのマネキン、正しくはアリス・ラムダという「人間」なんだけど、一年間は人間として生活してたの、某国でね。でも家が焼けちゃって焼死というわけよ」

「・・・」

「その後の成功例は、一度もないわ」


待て・・

待て待て待て・・

ちょっと待ってくれよ・・


あの島で、何度もマネキンが俺たちにメッセージを送ってきた。

俺たちはその「指令」に従うしかなかった。

そしてこの島へ辿り着いたと思ったら、突然、家で寝てて、母親がマネキンでその後は倒壊した。


なにか。

このゲームは最初からラムダ一族の仕業だったというのか。

だとすれば、あの旅行会社は・・添乗員は何者なんだ。

ラムダに雇われた・・いや、旅行会社自体、ラムダが経営しているのか。


俺はこれまでのことを、一気に話した。

すると女性は、さほど驚きもしなかった。


「それは全て実験ね」

「でもなんで、俺たちが選ばれたんですか」


俺はそう訊いた。


「選ばれたというより、偶然だと思うわ」

「それで、なんのためにこんなゲームを」

「というと?」

「ゲームなんかしなくても、それこそ俺たちを誘拐してラムダに加えることの方が効率いいと思うんですけど」

「だから実験なのよ」

「え・・」

「ラムダに相応しい人間かどうか、選別するためよ」


俺にはまだ疑問があった。

けれども女性は立ち上がり、「いずれここも見つかるわ」と言った。


「ねぇ航太」


蒼空が俺を呼んだ。


「なんだよ」

「それより田地くん、ヤバいんじゃないの」

「田地くんって?」


女性が訊いた。


「田地って仲間なんですけど、そいつマネキンを母親だと思って今も砂浜の近くの家にいるんです」

「そうなのね・・」

「それでそいつ、マネキンが作ったカレー食べたんですけど、大丈夫なんですか」

「それは大丈夫だと思うわ。この時点で殺す必要などないもの。あくまでもマネキンの実験よ」


すると蒼空のお腹が鳴った。


「お腹空いてるのね。わかった。今、ウサギをさばいて調理するから待ってて」


そして女性はキッチンへ立った。

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