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十八、一難去って

           



飯島は俺にロープを巻かれながら、チラチラと下を見ていた。


「飯島、見るな」

「・・・」

「大丈夫だ。きっと成功する」

「・・・」

「お前が成功してくれなかったら、俺も下りられなくなるんだぞ」

「わ・・わかってる・・」

「頼む、俺のために下りてくれ」

「う・・うん・・わかった・・」


飯島は心細い声を、やっと出している感じだった。


「いいか、絶対に下を見るな。俺だけ見てればいいんだからな」

「う・・うん」


そして飯島は、恐る恐る片足を宙に浮かせ、一歩踏み出した。


「そうだ。で、次はこっちの足な」


飯島の顔面は、マジで蒼白だった。


「絶対にロープを離しちゃダメだぞ」


そして片方の足も、また片方の足も、という具合に少しずつ下りて行った。


「俺だけ見てろ。いいぞ、その調子だ。なんだ飯島、出来てるじゃないか」


飯島は縋るような眼で、俺を見ているのか、どこを見ているのかわからなかった。


ザザーーッ・・


時折、飯島が踏ん張った足の岩が、崩れ落ちていた。

その度に飯島は身体が硬直し、その場で震えていた。


「飯島!もうだいぶ進んだぞ!そこで止まってちゃダメだ!下りるんだ!」


それでも飯島はロープを握りしめたまま、固まっていた。


「飯島!俺を見ろ!ほら、ここだ!」


俺は大声で飯島を呼んだ。

飯島はやっとのことで、顔を俺の方へ向けた。


「いいか!俺のために下りてくれ!わかってるよな!」


飯島は頼りなく少しだけ頷いた。

そして再び、飯島は一歩ずつ下り始めた。


蒼空も田地も、なにか叫んでいるようだったが、俺には聞き取れなかった。

俺だって怖い。

成功するかどうかもわからない。

でも、下りれば船があるんだ。

脱出すれば俺たちは帰れるんだ。


俺はその一心で飯島を励まし、やっとのことで気持ちを維持していた。

やがて飯島は、下りることに成功した。


下では蒼空が両手で丸を描いていた。

よし・・俺の番だ。

俺は急いでロープを引き上げ、身体に巻き付けた。

そしてもう一度、括りつけた岩を確認した。


よし・・行くぞ!

けれども一歩踏み出すのが、こんなに恐ろしいとは・・

蒼空も田地も飯島も、ほんと、すごいぞ。


俺は時折、足場を確認しながらロープをしっかり握りしめ、一歩ずつ下りて行った。

それにしても・・高い・・

バンジージャンプって・・こんな感じなのかな・・

あんなの、よくやるよな・・


洞窟の出口を確認すると、どうやら中ごろまで下りているようだ。

よし・・あと半分だ。


「航太!もうすぐだよ!しっかり!」


蒼空が下で叫んでいた。


「石竹くん!頑張って!」


飯島も叫んでいた。


「石竹くーん!僕にもできたんだからね!」


田地が偉そうに叫んでいた。

それぞれの言葉に励まされ、俺はやっとのことで下に辿り着いた。


「航太!」


蒼空が俺のロープを解いてくれようとした。


「よ・・よかった・・よかった・・」


飯島は、思わず俺に抱きついていた。


「ほらほら、飯島くん。離れてくれないと解けないよ」


そう言って蒼空は笑った。

俺は「はぁ~~・・」とため息をつき、その場に座った。


「諦めなくて・・諦めなくてよかったよ・・。みんなありがとう・・」


飯島はそう言って泣いていた。


「さてと、泣いている暇はないよ。早く脱出しないと」


ロープを解いた蒼空が言った。


「これでやっと、帰れるんだねっ」


田地が言った。


「ああ、そうだ。帰れるんだ」


俺は立ち上がり、船を見た。


「さあ、行こう」


やがて俺たちは船の傍まで来た。

けれどもその船は、モーターエンジンがついているわけでもなく、ましてや漁船でもなく、公園の池や湖などで使用しているような手漕ぎボートだった。


「手漕ぎって・・」


蒼空は、やっと崖を下りたのに次がこれか、と言った風に落胆していた。


「でも、とにかく島から出ないと」


飯島が言った。


「出るのはいいとしても、どこへ行けばいいんだよ」


田地は八つ当たりするかのような言いぶりだった。


「とりあえず乗ろう」


そしてまず、俺から乗り込んだ。


「あっ・・」


ボートの椅子に、何かが書かれてあった。


「どうしたの?」


次に蒼空が乗り込んできた。


「なんだよ、これ・・」


―――これで脱出成功ですね。おめでとうございます。さて、次の行き先は、前方に見える島です。全員で休みなく漕げば一日で到達可能です。行き先を変更することは許されません。変えた場合は全員死にます。では健闘を祈ります。


前方に見える島というのは、俺が洞窟の出口で見た島のことだった。

あんなに遠いのに・・マジか・・


「ええ~~・・まだ続くってわけ?」


田地がそう言った。

みんなはもう、ゲームから解放されると思っていたので、あり得ない展開に言葉もなかった。


「もう嫌だ!なんで僕たちがこんな目に遭わないといけないんだ!」

「田地!ちょっと黙れよ!」


俺は叫んだ。


「もう・・疲れた・・」


蒼空がそう言った。


「蒼空・・そんなこと言うなよ」

「これ・・なんのゲームなんだろうね・・」

「そんなこと、俺にわかるわけがないだろう」

「ああ・・なんでサバイバルなんて、来ちゃったのかな・・」

「今さらそんなこと言っても、しょうがないだろ」

「航太って・・前向きなんだね」

「なに言ってるんだ」

「僕、もうほんとに疲れちゃったよ・・」


蒼空がそんなだと、俺はどうすればいいんだ。

俺だって疲れてるさ。

やけになって、逃げ出したいよ。

でも、それじゃ二度と家には帰れないんだぞ。


「石竹くん」


飯島が俺を呼んだ。


「なんだよ」

「ここは、あの島へ行くしかないよ」

「・・・」

「いつ終わりがくるかもわからないけど、もう引き返せないよ」

「うん・・」

「さっ、池垣くんも田地も、あまり石竹くんを困らせちゃダメだよ」


そう言われた蒼空と田地は、黙って飯島を見ていた。


「よしっ。じゃみんなで漕ぐか!」


俺は無理やり振り絞って元気を出して見せた。


「じゃ、僕も」


飯島はオールを持った。

オールは二本しかないので、交代で漕ぐことになった。

そして船は、次の島へと出発したのだった。

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