十六、選択肢
先へ進もうと準備していると、田地は名残惜しそうに木に成る果実を眺め、急に泣きだした。
「僕・・ここで居たいよ・・」
「え・・何を言ってるんだ」
俺がそう言った。
「だってさ・・どうせ死ぬんだ。それならこの先、もっと恐ろしい目に遭うくらいなら、ここで飢え死にした方がマシだよ」
「なにをバカなことを!死ぬとは決まってないだろう」
「お父さん・・お母さん・・ううう・・」
みんなだって家族がいる。
きっと死ぬほど心配して探し回っているに違いない。
俺だって・・俺だってどんなに帰りたいか。
けれどもそのことを口にすると、一気にタガが外れてしまう気がして、みんな黙っているに違いないんだ。
島を出るまでは、気をしっかり持たなくてはいけないからこそ・・
「田地・・一日も早くここを出て、ご両親のもとへ帰ろうじゃないか」
飯島がそう言った。
「ねぇ・・ここに居られるのはあと四日もあるんだよね・・」
「田地・・お前まさか・・マジでここに残るつもりなのか」
俺が更に訊いた。
「みんなは先に行けばいいよ。僕はここに残る」
「あそこの!道が塞がってしまったら、もう二度と出られなくなるんだぞ!」
俺は奥へ続く道を指して怒鳴った。
「だから!僕はギリギリまでここにいる!きみたちは先に行けばいいじゃないか!」
「そんなっ!放っていけるわけがないだろう!」
「もういいよ!僕のことは放っておいてくれ!うわああ~~ん」
田地はその場に突っ伏して、大声で泣き叫んだ。
「飯島・・蒼空・・、どうする?」
俺は飯島と蒼空を見た。
「どうするって・・放ってはいけないよね・・」
蒼空が呟いた。
「困ったな・・」
飯島は、田地の情けない姿に困り果てていた。
「よし、わかった。俺が先に行って確かめて来るよ」
俺はそう提案した。
「それで、どんなところか確認して戻って来る。それでいいか?田地」
「ううう・・ううう・・」
「それなら僕も行くよ」
蒼空が言った。
「いや、俺一人でいい」
「ダメだよ。どんな危険なことがあるかも知れないし、僕も行くよ」
「石竹くん、それがいいよ。田地は僕が見てるから二人で行ってくれ」
飯島がそう言った。
「そうか・・。わかった。じゃ蒼空、行くぞ」
俺は飯島から懐中電灯を受け取り、先に進むことにした。
そして俺は、灯りをつけ少しずつ奥へと入って行った。
「航太、ゆっくり進もうね」
「ああ。わかってる」
蒼空は俺のTシャツの裾を掴み、後に続いた。
「何か見える?」
「いや、まだ何もない」
「なんか・・この道、上りになってる?」
そういえばそうだ。
道は緩やかではあるが、上へと傾斜していた。
どこへ続いているんだろう・・
しばらくすると、道が二手に分かれている場所に出くわした。
「蒼空・・これってどっちへ行けばいいと思う?」
俺は道を照らしながら蒼空に訊いた。
「どっちへ・・。僕にはわからないよ」
「どっちも行ってみるか?」
「そうだね」
俺たちはまず、右の方へ行くことにした。
「あっ!」
蒼空が叫んだ。
「どうした、蒼空」
「ちょ・・あれ・・なに?」
蒼空は入口の上を指した。
俺はそこを照らした。
すると文字が刻まれてあった。
―――ようやくここまで来ましたか。さて、右と左の道、どちらかを選んで進んでください。両方行くことは許されません。行った時点でゲームオーバー。つまり君たちは全員死にます。健闘を祈ります。
なんだよ、これ・・
「危なかったね・・」
「ああ・・危なかった・・」
「じゃ、どうする?」
「蒼空はどっちがいいと思う?」
「迷ってても仕方がないから、右へ行くと決めたんだし、そのまま進もうか」
「そうだな・・。じゃ行くぞ」
そして俺たちは右の入口に足を踏み入れた。
すると、遠くの方にうっすらと灯りが見えてきた。
「蒼空、あれって外から陽が射しているんじゃないか?」
「そうかも!」
「よーーし、一気に行くぞ!」
俺たちは灯りを目指して走った。
すると灯りの正体が陽の光だということが、はっきり見て取れた。
「やった、やったぞ!外に出られるぞ!」
そして波の音も聞こえてきた。
けれども、俺たちが到達した場所は、断崖絶壁だった。
「う・・うわあ~~!」
蒼空が下を見て叫んだ。
「こ・・こんなの、下りられないぞ・・」
俺は絶望した。
左へ行けば、どこに出られたんだろうか。
少なくとも、断崖絶壁じゃないはずだ。
右も左も同じなら、選択する意味がないからだ。
「どうする・・ねぇ、航太、どうする・・?」
「どうするっていったって・・」
俺は遠くを見ていた。
すると視線の先には、小さな島が見えた。
あんなに遠くに・・
あそこは、なんていう島なんだろう・・
「ああっ!」
また蒼空が叫んだ。
「どうした!」
「あ・・あそこ!ほらっ!」
蒼空が崖の真下を指した先には、船が浮かんでいた。
「あああ!船じゃないか!」
「でもさ・・どうやってあそこまで行くの・・」
「それだよな・・」
船はどうやら、ロープで繋がれていて、流れていく心配はなさそうだ。
しかし・・ここをどうやって下りればいいんだ・・
俺と蒼空と飯島は、万が一成功したとしても・・田地が・・
「航太、とりあえず引き返そうよ」
「そうだな」
そして俺たちは飯島たちのもとへ戻った。




