十五、楽園
次の日、俺たちは木箱をテーブルにして、早速「会議」を始めた。
「僕、考えたんだけどさ、あの細い道をナイフとかで削れないかな」
蒼空が提案し、俺たちは次の言葉を待った。
「あの先に、行ってみるべきだと思うんだ」
「確かに。ここに居たところで、時間が過ぎるばかりだよね」
飯島が言った。
「削るって、僕が通れるようにするためだよね」
田地は、少し申し訳なさそうに言った。
「でもそれって、ナイフで削れるのか?」
俺が疑問を呈した。
「でもナイフしか・・。あっ、斧があるね」
蒼空はパンッと手を叩いた。
「それと、ナイフの先端を岩にあてて、それで石で叩くっていうのはどうかな」
飯島が言った。
「なるほど、ノミとハンマーってわけだね」
確かに、蒼空や飯島の言う通り、ここにいても仕方がない。
やがて食料も水も尽きる。
それならば、あの道を行く他ない。
猶予はあと四日だ。
四人で交代しながら削れば、なんとかなるかも知れない。
「よし、決まりだ。早速始めよう」
俺がそう言った。
俺たちはそれぞれにナイフを手にし、とりあえず田地が通れるだけ削ることにした。
それと適当な石を拾い、ハンマーとして使うことにした。
カンカンカン・・
洞窟の中で、岩を削る音が響き渡った。
細い道は、おそらく高さが180cmほど。これは問題ない。
幅が30cmほどだった。
削っては田地が通れるかどうかを試す、これの繰り返しで作業を進めていった。
来る日も来る日も、俺たちはこの作業に明け暮れ、やがて最終日、やっとギリギリで田地が通れるだけの幅を確保した。
俺たちの手は、当然、傷だらけになった。
田地は「僕のために・・みんなありがとう・・」と言い、泣いて喜んだ。
俺たちは感慨にふける暇もなく、部屋を出て先に進むことにした。
狭い幅を抜けると、今度は打って変わって広い場所に出た。
そこにはヒカリゴケが生息していた。
俺たちは一旦、休憩をとることにし、その場に座った。
「それにしても、この島ってさ、そんなに広くないんだよ」
俺たちは以前、山へ登った時に島の全体を確かめていたので、蒼空がそう言った。
「そうなんだ」
飯島が言った。
「だから、洞窟の長さや広さって、島と矛盾してると思うんだけど。これっておかしくない?」
蒼空の疑問は、確かに俺もそう思う。
俺たちは、だいぶ奥まで進んだはずだ。
もう島の反対側に出てもいいはずなのに、まだ奥に続いている。
「もしかして、真っすぐじゃなくて、うねっているとか?」
飯島が言った。
「なるほど。うねっているとしたら、まだまだ先は長いってことになるな」
俺がそう言うと「出口って、あるのかな・・」と田地が呟いた。
「んで、出口を見つけたところで、島から出られるの・・?」とも言った。
みんなはその言葉に、現実を突きつけられた気がした。
確かにそうだ。
例えば出口があったとしても、断崖絶壁ならどうする。
もう万事休すだ。
しかも今日は最終日だ。
前の最終日は地震が起こった。
今回は何なんだ・・
ガガガ・・
ドドドド・・
また突然、地鳴りが起こった。
「うわあ~~!」
田地が耳をふさいで縮こまって怯えていた。
「また地震だ・・」
飯島は咄嗟に上の方を見た。
俺と蒼空も見た。
どうやら天井は大丈夫のようだ。
ガラガラ・・ドッスーン!
後ろを振り返ると、来た道が岩で塞がれてしまった。
「なんか・・これって、どんどん追い詰められている感じだよね・・」
蒼空が言った。
「後戻りは許さないってことか・・」
俺が呟いた。
「仕方がない。先に進むしかないよね」
飯島は立ち上がり、俺と蒼空も立ち上がった。
「ほら、田地、行くぞ」
俺は田地に手を貸した。
「もう・・もう、ダメなんじゃないの・・」
田地は震えながら俺を見上げた。
「ここに居る方がダメだろ。先に進まないとここで飢え死にだ」
「う・・うん・・」
そして俺たちは歩き始めた。
十分ほど進んだだろうか、次に現れたのは、目を疑う「世界」が俺たちの前に広がった。
「え・・」
蒼空はあり得ない光景に、言葉を失っていた。
そこは天井も高く滝が流れ、木々には果物が実をつけ、なぜか陽が射していた。
けれどもその陽の光は、明らかに偽物だった。
「あれって・・電気かなにかかな」
飯島が言った。
「太陽じゃないことは確かだね」
蒼空はそう言いながらも、まるで「楽園」のような光景を見て安堵している様子だった。
そして、なにより田地が喜んだのは言うまでもない。
俺たちは水場へ行き、飲めるだけ水を飲んだ。
「さて・・どうするかだ」
俺は、この「楽園」など、さして嬉しくもなかった。
偽物は、どこまでいっても偽物でしかない。
「どうするって・・しばらくここで居た方がいいんじゃないの」
田地が言った。
「とりあえず俺たちは、また生き延びた。でもまた五日間だけの命だ。今回の「ゲーム」でわかったのは、とにかく前に進まないと終わりは来ないってことだぞ」
「確かにね。あのままあそこにとどまっていたら、今回だって道が塞がれたわけだし、死ぬ以外になかったはずだよ」
飯島が言った。
「っていうことは・・ここにいたら、五日目であそこが塞がれるってことだよね」
蒼空が奥に進む道を指して言った。
「でもさ・・ここなら水もあるし、果物だってあるじゃないか」
田地がそう言った。
「じゃあさ、ずっとここで暮らすつもり?」
蒼空が言った。
「そ・・そうじゃないけど・・」
「とにかく、ここから出ないと」
「でもさ・・ここは楽園みたいだけど、この先はまた、困難な場所かも知れないじゃないか」
「田地くん・・」
蒼空は田地の後ろ向きな考えに呆れていた。
「僕、思うんだけど、ここで五日間過ごすこともありだけど、先に進んだ方が時間の猶予が稼げるよね」
飯島の言うように、俺もそう思った。
先に進めば進むほど、五日間が十日になり、十日が十五日になる。
少なくともその間は、死なないってことだ。
「俺も飯島に賛成だ」
「僕も」
蒼空もそう言った。
「じ・・じゃあ、果物だけは食べて行こうよ」
田地がそう言うと「当たり前じゃないか」と、俺たちは果物を口にし、ペットボトルにも水を満タン注いだ。




